消費増税でも「国民負担率は横ばい」という財務省の「印象操作」

新潮社フォーサイトに3月5日にアップされた拙稿です。オリジナルページ(有料)→

https://www.fsight.jp/articles/-/44963

 

財務省が「印象操作」のために公表したグラフの1つ(財務省HPより)

 

 統計不正問題で国会が揺れる中、財務省が「いわく付き」の統計を2月28日に発表した。国民所得に占める税と社会保障負担の割合を示す「国民負担率」である。

 2019年度の国民負担率は42.8%と、2018年度に比べて横ばいになるとしている。10月に消費増税が控えているにもかかわらず、好景気で所得が増えるので負担は変わらない、というのである。

 この統計を「いわく付き」と言ったのは、財務省は常に次年度の「見通し」を強調して発表し、しかも3月末で終わる「実績見込み」と比較するのだが、この「見通し」も「実績見込み」も当たったためしがないからである。常に、実績よりも低く見積もられているのだ。そして「実績」については、ほとんど触れない。

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https://www.fsight.jp/articles/-/44963

左官職人が味わわせてくれるかまど炊きのご飯

Wedge3月号(2月20日発売)に掲載された、拙稿です。是非本誌にて購読ください。

 

  

「かまどさん」をご存じだろうか。「おくどさん」「かまさん」「へっついさん」などともいう。地域によって呼び名は様々だが、昔はたいがいどこの家にもあった。土間の台所に作られた炊事用の「かまど」のことである。ガスコンロや電気炊飯器の普及と共にすっかり、姿を消し、今ではほとんど見なくなった。薪をくべて裸火を燃やすことが難しくなり、古い家で存在はしていても、まったく使っていないケースが多い。新しく作ったり、修理するのは、よほどの伝統を重んじる旧家か、趣味人に限られる。 奈良県宇陀市左官業を営む宮奥淳司さんは、そんな「かまどさん」を何とか後世に残す方法はないかと考えてきた。かまどを作る左官塗りの技術を伝承する職人も全国から姿を消しつつあった。 きっかけは10年ほど前のこと。奈良市旧市街地である「奈良町」の町づくり活動をしていた社団法人から、「かまどさん」を作ってほしいという仕事が舞い込んだ。 それらの施工事例をホームページに載せると、うちで作ってくれないか、という依頼が来るようになった。全国の飲食店から

年に2,3件の割合で注文が来るようになったのだ。かまど炊きのご飯がブームになったことが追い風になったようだった。 だが、年にわずか数件では、世の中にアピールするには不十分で、「後世に残す」ことにはならない。もっと身近に「かまどさん」を感じてもらう方法はないだろうか。

 火の神が宿るかまどさん

 2015年頃のこと。宮奥さんは卓上で使える「かまどさん」を作り始めた。全国の左官職人も思い思いの卓上型かまどを作っていたが、自身の理想とする機能性・形にこだわった。

 卓上で使えるかまどは必要最小限の大きさ・重量でなければならない。強度を優先すると、大きく重くなる。扱いやすさを優先すると華奢な本体になってしまう。相反する要素を共存させることに苦労した。試行錯誤の連続の末に独創的な卓上かまどが誕生する。 思わず撫でてみたくなる丸みを帯びた愛らしい形、吉祥文様にインスパイアされ、同時に吸排気公立の良い焚口のデザイン、置く場所の傷付き防止に木製底板を組み込んだアイデアなどが認められ、16年には意匠登録が通る。 完成した卓上型「かまどさん」は、固形燃料でご飯が炊ける。1合なら燃料1個、3合なら3個といった具合だ。かまどさんの上にコメと水を入れた専用の釜を乗せ、木製の蓋を被せる。炊き上がりに30分ほどかかるが、本格的なかまど炊きご飯が自宅の食卓の上で味わえる。 発表すると、評判が口コミでジワジワと広がった。 そんな折、それが春日大社権宮司だった岡本彰夫さんの目に留まる。「かまどさんは火の神さんが宿るもの。だから、さん付けで呼び大切に扱われてきたんや」 かまどは単なるモノではない。古から人々は八百万もの神を敬い崇めてきた。宮奥さんは、かまどづくりは襟を正して向き合うものだ、と改めて気を引き締め直したという。日本古来からの文物に通じる岡本さんはしばしば、「生活に密着していたい」と話す。 当たり前だからこそ、文書などに書き残されず、使われなくなった途端、どう使われていたのかが分からなくなる、というのである。 おそらく「かまどさん」もそのひとつになるのだろう。もはやかまどさんを使って調理ができる人は全国でも数少ないのではないか。 宮奥さんの作る卓上型「かまどさん」は、使い方の模型としても機能する。そうか、昔の人はこうやってご飯を炊いていたのだな、ということが腑に落ちるわけだ。 ちなみにこの「かまどさん」、最もシンプルなタイプで1基13万円(税込み)する。一見高いように思うかもしれないが、決して儲かる品ではない。 さらに「高級バージョン」は20万円くらいになる。といっても宮奥さんの手間賃が大きく増えるわけではない。釜を据える口のところの漆喰が崩れないようにする「カマツバ」と呼ばれる金属製の輪など、外注で手作りしてもらうため、驚くほどコストがかかるのだ。 「昔は鋳物でできた様々なサイズのものが安い値段で売られていたのですが、今は誰も使わないので、すべて特注です」と宮奥さん。一度滅びたものを復活させようとすると、すべてが「規格外」になるため、猛烈な製作費がかかる。 一つ一つ手作りで、コテさばきひとつで風合いが違う。注文制作で一つずつにシリアルナンバーが付いている。18年末の段階で「57」。ざっと50基が売れている。

宇陀への感謝の気持ち  

 宮奥さんは自身の卓上かまどに「宇陀かまど」と命名した。生まれ育った宇陀への感謝の気持ちを込めている。 宮奥さんの住む宇陀は、古事記にも登場する歴史を帯びた地域で、都と伊勢神宮などを結ぶ街道筋にあった。歴史を持つ旧家が今でも多く残り、漆喰の土蔵や壁の修復、作り直しといった伝統的な左官の仕事が比較的多くある土地柄だ。 父の下で修業を積んだが、宇陀という「場」がなければ、左官職人としての今の宮奥さんはいない。 また、奈良は多くの神社仏閣があり、文化財修理の仕事も少なくない。宮奥さんは今、奈良「南都七大寺」の一つ薬師寺に国宝東塔の解体修理に関わる。昔の左官職人の技に舌を巻くことしばしばだという。 ちなみに、土壁などは解体時に崩しても、再びその土を練り直し再利用するという。白鳳時代の職人がさわったであろう土を、今、自分がさわっているのだと考えると感動的だという。 ところが最近では土をさわったことがない左官職人が増えているのだという。近代的な工法では、そもそも土壁自体が姿を消している。合板などのうえに、薄く壁材などを塗り付けるような仕事ばかりが増えているというのだ。 宮奥さんの「宇陀かまど」をさわると、なんともやさしい土の肌触りがする。滑らかな曲面をコテ一本で仕上げていく技は、そう簡単には磨けない。 住み方のスタイルが変わり、住宅や住宅設備が「進化」を遂げていくなかで、古くからあるものを守り続けていくことは極めて困難だ。伝統技術を守るためだからと言って、白壁の土蔵を新たに建てるというのは簡単にはできない。 卓上型の宇陀かまどは、台所の今に鎮座する昔ながらの「かまどさん」ではないが、かまどさんがどんな使われ方していたかという日本人が受け継いできた「価値」や「想い」を確かに後世へと伝えていくことだろう。

 

「外国人がいる社会」が当たり前になる 4月からの新資格で外国人労働者急増へ

ビジネス情報誌「月刊エルネオス」3月号(3月1日発売)に掲載された原稿です。

 

エルネオス (ELNEOS) 2019年3月号 (2019-03-01) [雑誌]

エルネオス (ELNEOS) 2019年3月号 (2019-03-01) [雑誌]

 

 

外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が四月から施行される。二〇一八年十二月の臨時国会閉幕ギリギリで成立し、三カ月余りで施行される異例のスピード立法の背景には、深刻な人手不足に悲鳴をあげ、外国人労働者の拡大を求める現場の声がある。
 これまで日本では、小売店や飲食店接客係、旅館の客室係などとして外国人を雇用することは原則できなかった。こうした仕事は誰でもできる「単純労働」とみなされ、そこに外国人を受け入れると、日本人の雇用が奪われてしまう、というのが理由だった。
 いやいや、何年も前から、コンビニや外食チェーンでは外国人が働いている、それどころかほとんど外国人の店舗もある、と思われるに違いない。実は、そうした外国人は「労働者」としての資格で日本にやって来ているのではなく、「留学生」など別の資格で入国している。
 日本語学校などに留学した場合、週に二十八時間までなら「アルバイト」をすることができる。夏休み期間中などは週に四十時間働けるルールになっている。ところがこのルールを逆手に取り、本当は働くのが目的なのに、日本語学校に留学生としてやってきて、フルにアルバイトをする例が後を絶たなかった。
 外国人を雇用した場合、事業者は厚生労働省に届け出なければならない。これは年に一度、毎年十月時点の人数などを、「外国人雇用状況の届け出状況」として厚労省が公表している。それによると、二〇一八年十月時点で雇用されている外国人は百四十六万四百六十三人。二〇〇八年は四十八万六千三百九十八人だったので、この十年で百万人も増えた。
 百四十六万人のうち二三・五%に当たる三十四万三千七百九十一人が前述の留学生などとして入国しながら働いている外国人である。本来の就労ビザではなく留学生という資格で入国しながら働いている、ということで「資格外活動」と呼ばれる。日本の労働の現場は、この、本来は労働者ではない「建前」の外国人によって支えられているわけだ。

建前の制度運用ではなく
労働者として受け入れる

 もう一つの大きく増えている「資格」が、全体の二一・一%に当たる三十万八千四百八十九人が働く「技能実習生」の枠だ。これは日本で技術を学び、本国にその技術を持ち帰って役立ててもらう国際貢献が「建前」である。農業や漁業の現場では、技能実習生なしには回らないのが実情だ。
 技能実習生も本来の「労働者」ではない。単純労働の職場には外国人は受け入れないと言いながら、留学生や実習生として働き手を確保してきたのが、実態なのだ。特に円安によって企業収益が回復、人手不足が深刻になり始めると、しわ寄せはこうした「単純労働」の職場に表れた。誰でもできる仕事は給与水準が低い職種でもある。そこに就く日本人が大きく減ったのである。
 外国人の雇用状況を見ても、「卸売業、小売業」と、「宿泊業、飲食サービス業」がそれぞれ一二・七%で、全体の四分の一を占める。留学生など「資格外活動」で働く人はほとんどこうした業種で働いていると見ていい。
 そうした「建前」で制度を運用するのではなく、きちんと労働者としてこうした「単純労働」とされてきた分野にも外国人労働者を受け入れよう、というのが今回の改正出入国管理法の考え方だ。四月から導入される「特定技能1号」「特定技能2号」という新しい在留資格がその受け皿になる。
 特定技能1号、2号の就労資格は、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、素形材産業、産業機械製造、電子・電気機器関連産業、飲食料品製造業、ビルクリーニング、介護、農業、漁業、宿泊業、外食業の十四業種に認められる。農業や漁業、宿泊業などからの「外国人労働者を解禁してほしい」という声に応えるものだ。
 特定技能1号の就労資格を得るには一定以上の日本語能力が必要で、資格試験などが業種ごとに実施される。技能実習を終えた人たちが特定技能1号に移行することが想定されている。在留期間は五年だ。外食、宿泊、介護などでは四月早々にも技能試験が始まり、受け入れがスタートする。
 特定技能1号は家族の帯同を認めず、永住権の取得に必要な年限にも算入されない。一方の特定技能2号は、在留期間三年だが、期間の更新ができ、条件を満たせば永住申請もできる。家族帯同も可能だ。ただし、制度ができてもすぐには、受け入れは始まらない見込みだ。

コミュニティーの一員となる
外国人との日常生活

 実は、政府が慌てて特定技能1号、2号の在留資格を創設したのには切羽詰まった事情があった。建設業や造船業では早くから技能実習生として外国人労働者を受け入れており、現場は外国人なしでは回らない。業界の要望もあって、当初三年間だった期限を、五年まで延長した。実施されたのは二〇一七年十一月からである。つまり、その延長した外国人たちの在留期限がやってくる。
 一方で、二〇二〇年の東京オリンピックパラリンピックに向けて建設工事が繁忙を極めており、経験を積んだ建設現場の外国人労働者に何とか在留を続けさせたいという希望が建設会社などから出されていたのだ。
 早晩はじまる特定技能2号は、建設、造船・舶用工業、自動車整備業、航空、宿泊業の五つが対象になる。つまり、すでに在留実績の長い業種に加えて、地方で長期雇用の要望が強い宿泊業で、長期間の在留を認めようということなのである。
 四月以降、急速に職場の風景が変わっていくだろう。地方の旅館やホテルでは、制度導入を見越してすでに研修名目でアルバイトなどの姿が目立つようになった。外食チェーンなどでは今後、一気に外国人が増え、都市部では店長も店員も全て外国人というお店が増えていくに違いない。
 そうした業種で働く日本人は今後、「部下」や「同僚」として外国人に接する機会が増えるだろう。さまざまな文化的背景を持った外国人を使い、管理することが管理職に求められる必須のスキルになるのは間違いない。
 大量にやってくる外国人は、労働力としてだけではなく、コミュニティーの一員としての存在感も大きくなるだろう。日本社会に適合してもらうような生活面でのアドバイスやルールの説明などを丁寧に行うことがますます重要になる。身近に外国人がいるのが当たり前の社会がもうすぐそこに迫っている。

 

利便性なきマイナンバーカードがデジタル・ガバメントの切り札とは…

現代ビジネスに2月28日にアップされた拙稿です。是非、お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60156

行政サービスの効率化は結構なことだが

首相官邸の大会議室で2月26日、経済財政諮問会議の今年3回目の会合が開かれた。1月から有識者(民間人)議員4人のうち学者2人が入れ替わり、竹森俊平・慶応大教授と柳川範之・東大教授が新たに就任。中西宏明・経団連会長と新浪剛史サントリーホールディングス社長が留任した。

メンバーは現在11人で、議長を務める安倍晋三首相のほか、麻生太郎副総理兼財務相菅義偉官房長官茂木敏充経済財政政策担当相、石田真敏総務相世耕弘成経産省が内閣から加わっているほか、黒田東彦日銀総裁もメンバー。経済や財政政策の司令塔として改革を主導する役割を担っている。

3回目の会合のテーマは「次世代型行政サービスへの改革」と「地域活性化」。議事要旨は原稿執筆時点ではまだ公開されていないが、会議に提出された資料を見て驚いた。経済財政諮問会議では、有識者議員が提出するいわゆる「民間議員ペーパー」というのが定番になっており、各省庁の抵抗が強い改革テーマなどを俎上に上げる際に多用されてきた。民間の発想で改革を進めるうえで、このペーパーの持つ力は大きい。

今回もこの民間議員ペーパーが出されたのだが、その中に驚くべき一文が滑り込ませてあった。

ペーパーのタイトルは「『次世代型行政サービス』への改革に向けて」。サブタイトルには「高い経済波及効果と質・効率の高い行財政改革の同時実現」とあり、民間議員4人の連名になっている。

文書の出だしはこうだ。

「行政サービスのデジタル化(デジタル・ガバメント)は、行政コストの引き下げを可能にするだけでなく、新たな民間ビジネスを活性化させる上で、重要な役割を果たす」

まさしく正論である。行政コストを引き下げ、行財政改革を行うために、デジタル化を進めるというのは当然のことだ。「利用者目線で、情報セキュリティの確保を前提としつつ、国と地方を合わせた行政の在り方そのものを見直し、デジタル化を早急に実現すべきである」としている。

では、具体的に何をやるべきだと言うのか。「デジタル・ガバメント実現の方策」として、あのマイナンバーが出てくる。

マイナンバーカードは、デジタル・ガバメントの利便性を国民が実感する有効手段。その普及に向けて、健康保険証との一体化を着実に推進すべき(さらに、例えば、運転免許証や社員証との一体化)」と書かれている。ここだけやたらと具体的である。

「利便性を国民が実感する有効手段」ですと。マイナンバーカードをお持ちの方にお聞きしたい。利便性を実感したことがあるだろうか。マイナンバー自体の必要性については理解できる。だが、マイナンバーカードとなると本当に利便性が高いと言えるのか。

便利ではないマイナンバーカード

所管する総務省のホームページには「マイナンバーカードのメリット」として本人確認の際の身分証明書となることや、e-TAXでの税務申告に使えること、コンビニで住民票などの証明書が取得できることなどを挙げている。

だが、実際には身分証明書としては運転免許証やパスポートの方が通用度も信用度も高いのが現実だ。総務省のホームページでも「マイナンバーカードを身分証明書として取り扱うかどうかは、最終的には各事業者側の判断となりますので、一部の事業者では利用できない場合があります」と但し書きが付いている。

税務申告は年に1度だし、住民票など公的な証明書を取る頻度もそう高くない。マイナンバーカードがなければ不便だというわけではない。

その証拠に普及率がめちゃくちゃ低いのだ。2016年1月に公布が始まったが、総務省自身の集計によると、2年半が経過した2018年7月1日現在での普及率は全人口の11.5%に過ぎない。

なぜ普及しないのか。持っていなくても不便を感じないからだ。むしろ、カードの扱いが厄介なのだ。

このマイナンバーカード、IT(情報技術)の専門家から「極めて不思議なカード」という不名誉なお墨付きを得ている。デジタルカードなのにもかかわらず、氏名はもとより、住所や生年月日などの個人情報がプリントされている。アナログの紙カードと体裁は変わらないのだ。しかも、肝心のマイナンバーも裏面に書かれている。

マイナンバーは絶対に他人に知られてはいけないものだと喧伝されたため、マイナンバーカードの扱いは厄介だ。カードを手渡した相手が裏返しても番号が見えないようにその部分を隠したビニル制のカバーを配布しているケースもある。

総務省でも「個人番号をコピー・保管できる事業者は、行政機関や雇用主等、法令に規定された者に限定されているため、規定されていない事業者の窓口において、個人番号が記載されているカードの裏面をコピー・保管することはできません」と注意喚起している。

「法令に規定された者」が誰なのか、普通の人は知らないから、誰に見せても大丈夫なのかが分からない。そんな厄介なカードを持っているのは危険だ、ということになってしまう。

マイナンバーカードは利便性が高いから普及させるべきだという提言をしている経済財政諮問会議の4人の民間人議員は、おそらくマイナンバーカードを持っていないのだろう。このカードの事を知らないのではないかと疑ってしまう。

聞いたところによると、この提言を主導したのは中西経団連会長なので、さすがに中西氏は持っていると思うが、経団連会長の定例会見に出る新聞記者の皆さんに、是非、聞いてもらいたいものだ。

また、なぜ健康保険証と一体化するのか。国民が必要なものを一体化すれば「利便性を実感する」というのであれば、話が逆ではないか。今は健康保険証を病院の窓口で預けたりしているが、マイナンバーカードと一体化されたら、「裏は見ちゃダメですよ」と言って表だけ見せる必要があるのか。受付窓口で自分自身がカードリーダーに読ませなければならなくなるのだろう。

そもそも誰の根回しで

ところで、健康保険証との一体化、という話は諮問会議の10日ほど前に菅官房長官が方針を発表していた。新聞各紙は、「菅官房長官は15日閣議後の会見で、マイナンバーカード普及に向け、消費活性化策や健康保険証と一体化する施策を取りまとめることを決めたと明らかにした」と報じていた。

何だ、民間議員は政府が決めたことをあたかも自分たちが要望しているようにペーパーにまとめていただけなのか。それとも中西氏の根回しで政府が先に決めていたのか。

そもそも、中西氏がマイナンバーカードの普及を提言するのは大問題ではないか。中西氏は日立製作所の会長である。マイナンバーカードのシステム構築を請け負っている会社の1つだ。

2014年に一般競争入札で決定した中枢システムの設計・開発は、NTTコミュニケーションズNTTデータ富士通NEC日立製作所の大手5社が参加するコンソーシアムが落札した。本来は競合するはずの大手5社が相乗りで入札するのは異例で、しかも単独の入札者だった。

マイナンバーカードの普及はシステムの存続に関わる。中西氏は自社の利益のために経済財政諮問会議有識者議員の立場を利用したと疑われかねない。

マイナンバーカードのシステムは運用が始まって早々、システムトラブルが相次ぎ、2017年夏には会計検査院も調査に乗り出して、国会と内閣に報告を提出した。入札に当たっての業者選定の透明化や、省庁を超えた情報データの連携についての情報共有などを求めている。

システム構築で総務省は過去にも大失敗を演じている。旗を振った住民基本台帳カードは普及せず、巨額の国費をドブに捨てたとまで酷評された。

ところが、マイナンバーカードのシステムは住民基本台帳ネットのシステムを引き継いでいる。そして今も、普及率1割のシステムの運用のために、年間500億円が使われている。

マイナンバーカードを失敗に終わらせないために、政府も、システムベンダーも、何としてもカードを普及させたいのである。

果たして、民間議員ペーパーの言う「行政コストの削減」や「利用者目線」はどこへ行ったのだろうか。本当に便利だと思うのならば、まずは日立製作所グループの社員証マイナンバーカードに一体化し、社員の意見を聞いてみてもらいたいものだ。

居酒屋や旅館の接客は今後もずっと外国人 法改正は事実上の"移民解禁"だった

プレジデント・オンラインに2月22日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/27760

 

「研修生」というバッジをつけたスタッフたち

今年の4月以降、日本の職場の様子ががらりと変わり始めることになりそうだ。改正入国管理法の実施で、働く外国人が増え、職場に外国人がいるのが当たり前になってくる。そんな職場での働き方も大きく変わる。部下の外国人を使いこなすスキルが必須になるのも時間の問題だ。

すでに前哨戦は始まっている。4月1日に導入される「特定技能1号」という就労資格では、「宿泊業」や「外食業」というこれまでは原則禁止されていた分野で、外国人が正規に働くことが可能になる。

大分県別府。湯煙が上がる温泉街は中国人などの外国人観光客が目立つ。老舗のホテルの玄関を入ると、着物姿の若い女性スタッフが客を出迎えている。ところが、胸に「研修生」と書かれたバッジを付けている。聞いてみると中国からやってきたスタッフたちだった。

旅館の客室係は圧倒的に人手不足で、全国の観光地の旅館は悲鳴を上げている。客室係の手が足らないため、部屋が空いていても予約を断っているところも少なくない。旅館やホテルで作る全旅連(全国旅館生活衛生同業組合連合会)では数年前から外国人労働者の解禁を政府に要望してきた。

抜け道として使われてきた「留学生」

もともと旅館の客室係やホテルのルームメイドなどの仕事は「単純労働」だとして外国人の受け入れが禁じられてきた。就業ビザが下りなかったわけだ。単純労働の職場に外国人を入れると日本人の仕事が奪われる、というのが理屈である。工場や農業など同様に人手不足で喘ぐ現場には、技能実習生という制度が導入され、日本の技術を学んで本国に持ち帰るという「建前」で働き手を受け入れてきた。だが、旅館や外食といった分野はその技能実習の対象からも外されていた。

そんな中、抜け道として使われてきたのが留学生。日本語学校に留学すれば、週に28時間までならアルバイトができる。夏休みなどは40時間まで認められる。都会の外食チェーンなどは、こうした「留学生」をせっせと採用して店員として使っているので、外食チェーンのお店に行くと日本人スタッフがひとりもいない店舗に出くわす。だが、地方の旅館やホテルの場合、専門学校や日本語学校などの留学先がなく、留学生自体がいない。

外国人労働者を解禁してほしいという声は、地方の方が強いわけだ。かつては外国人を受け入れるべきではないと強く主張していた保守派の自民党国会議員ですら、地元支援者の切実な訴えに耳を傾けざるを得なくなった。改正入国管理法が2018年秋の臨時国会での短時間の審議であっさり通過したのは、こうした事情があった。

日本に定住する外国人が増えるのは明らか

導入される特定技能1号の就労資格は、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、素形材産業、産業機械製造、電子・電気機器関連産業、飲食料品製造業、ビルクリーニング、介護、農業、漁業、宿泊業、外食業の14業種に認められる。多くが技能実習の対象になってきた業種だが、宿泊や外食などは今回初めて正式に門戸が開かれた。もちろん、日本語が一定レベル以上できることや、必要な技能を身に付けているというのが建前で、業界団体などが行う試験をパスする必要がある。

在留期間は5年で、家族の帯同を認めず、永住権を得るための年数にもカウントされない。あくまで、出稼ぎとして受け入れるのであって、そのまま日本に居続けることはない、というのが建前だ。というのも安倍晋三首相は繰り返し「いわゆる移民政策は採らない」と言い続けており、霞が関も「移民」を前提にした制度だと言うことができないのだ。

だが、現実には、今回の法改正をきっかけに、日本に定住する外国人が増えていくことになるのは明らかだ。実質的な移民受け入れに舵を切ったと言うこともできる。

働き手の数が過去最多でも、人手不足は深刻化

人手不足が深刻化しているのは、少子化で働き手が減っているからだ、と思われがちだ。確かに少子化の影響も大きいのだが、今現在は、働き手の数は過去最多を更新し続けている。総務省労働力調査によると、就業者数、雇用者数とも第2次安倍内閣が発足した翌月の2013年1月以降、72カ月連続で増え続けている。2018年10月の就業者数は6725万人と過去最多を更新、雇用者数も5996万人と6000万人の大台にあと一歩に迫っている。

安倍首相がアベノミクスの成果として強調するのが、この就業者、雇用者が大きく増えた、という点だ。確かに第2次安倍内閣が発足した2012年12月の雇用者数は5490万人だから500万人も増えたことになる。雇用の場が生まれているのだ。

だが、よく中身を見てみると、増えているのは女性と高齢者である。女性の就業者は2018年10月に2991万人と過去最多を更新、65歳以上の就業者も2018年9月に886万人と過去最多を記録した。2012年12月と比べると、女性就業者は340万人あまり、65歳以上就業者は310万人あまり増加している。15歳から64歳の女性の就業率は71%を超えた。

それだけ日本人の働き手が増加しているにもかかわらず、人手不足が深刻化しているのだ。団塊の世代がどんどんビジネス界から去っていく中で、人手不足は間違いなく今後さらに激しくなる。ちょっとやそっと景気が悪くなったくらいでは、人手不足は解消しないだろう。

外国人労働力なしに日本の経済社会は回らない

もちろん、背景には少子化がある。少子化による若年層の働き手の減少がジワジワできいてくるのだ。実は就業者のうち65歳以上を除いた64歳以下の就業者数をみると、1997年6月に6171万人のピークを付けて以降、ジワジワ減少している。2018年12月では5801万人にまで減っているのだ。もはや外国人労働力なしには、日本の経済社会は回らないところまで来ているのである。

日本で働く外国人は厚生労働省に届けられた2018年10月時点で146万463人。2008年は48万6398人だったので、この10年で100万人も増えたことになる。外国人を雇用した場合、事業者は厚生労働省に届け出なければならないことになっており、毎年10月時点の人数などを、「外国人雇用状況の届出状況」として厚労省が公表している。

146万人のうち23.5%に当たる34万3791人が留学生などとして入国しながら働いている外国人である。本来の就労ビザではなく留学生という資格で入国しながら働いている、という意味で「資格外活動」と呼ばれる。

外国人が働いている業種をみると、「卸売業、小売業」が12.7%、「宿泊業、飲食サービス業」がやはり12.7%で、両方で25.4%を占める。ほぼこうした業界で働いている外国人が留学生だということを示している。

事実上の「移民解禁」と言える仕組み

改正入国管理法は、留学生を働かせるという抜け道ではなく、真正面から雇用しようという姿勢に転換した点で、大きな一歩だ。だが、彼らが5年たったら帰る「一時的な労働者」と考えていると大きな禍根を残すことになるだろう。

東京の荻窪で出会った居酒屋で働く中国人女性は、夫と共に来日しており、夫はコンビニで働いているという話だった。口を濁していたが、おそらく留学生の資格でやってきているのだろう。この夫婦に子供ができれば、日本語教育をどうするのか、という問題に直面する。

今回の改正法に盛り込まれた特定技能2号という資格は、期限3年だが更新が認められ、家族帯同も許される。永住権の取得に必要な年限にもカウントされる。この資格での在留許可はしばらく出されないことになっているが、建設、造船・舶用工業、自動車整備業、航空、宿泊業の5つの業種から始まることになっている。つまり、技能実習生や特定技能1号での期限が来たら、2号に切り替わって長期滞在を許すという構図が出来上がっているのだ。事実上の「移民解禁」と言ってもよい。

これによって日本人の働き方も変わる。職場にさまざまな文化的バックグラウンドを持った外国人がいるのが当たり前になり、そうした人材を管理し使いこなすスキルが管理職に求められることになる。ひとりの日本人が多数の外国人を管理するといった職場も当たり前になってくるだろう。日本の地方都市の普通の職場でも、外国人と働くのが当たり前という時代が目と鼻の先まで来ているのだ。

景気動向を読めなくした勤労統計「2018年1月問題」

新潮社フォーサイトに2月21日にアップされた拙稿です。

 厚生労働省による統計不正問題がヤマ場を迎えている。国会では2月18日に衆議院予算委員会で、この問題を巡る集中審議が行われた。毎月勤労統計の調査方法が変わって、2018年1月以降、賃金の伸びが大きく上振れした背景に、首相官邸の意向があったのではないかと野党各党が追及。これに対して安倍晋三首相は、「そんなことはありえない。ありえない。そんなありえないことをまるであったかのごとく、推論して政権を批判するのはどうかと思いますよ」と語気を荒らげ、全面的に否定した。

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→

https://www.fsight.jp/articles/-/44915

国の借金「1100兆円超え」でも政府が歳出を減らさないワケ

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過去最大の1100兆円

「国の借金」が1100兆円を超え、過去最大になった。財務省が2月8日に発表した「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、2018年12月末時点で1100兆5266億円と1年前に比べて1.4%、147兆円余り増加した。

いわゆる「国の借金」の水準については、GDP国内総生産)の200%という先進国内で最悪の財政状態で、このままでは早晩、財政破綻を引き起こすという見方がある一方で、国が持つ資産を差し引いた「純債務」はそれほど大きくないので、大騒ぎするほどではない、という主張もあり意見が分かれる。

だが、国債などの残高が1年で140兆円以上も増えているという事実は否定することができない。100兆円と言えば国の1年間の一般会計歳出予算を上回る金額である。

税収は60兆円前後なので、これに比べれば2.5倍近い。家計に置き換えれば、年収600万円の家庭で毎年1000万円を使い、利払いも含めて借金が毎年1470万円も増えているという信じられない状態なのだ。

借金を減らすには、いくつか方法があるが、まず初めにやらなければならないのが支出を減らすこと。年収600万円ならば支出も600万円に近づけるというのは当たり前の事だ。国で言えば、プライマリーバランス基礎的財政収支の均衡である。

基礎的財政収支とは、借金による収入や、返済などを除外した、行政に毎年かかる金額の収支。今も毎年10兆円弱の赤字が続いている。

政府は当初、2020年度にこのプライマリーバランスを黒字化すると言っていたのだが、すでに5年の先送りが決まっている。赤字の垂れ流しが続くのだ。

収入が増えても借金は返さない

それでも安倍晋三内閣になってプライマリーバランスの赤字は減ってきた。

アベノミクスによる円高是正で、企業収益が大幅に改善、税収が増えたからだ。2018年度の税収は60兆円前後になる見通しだが、これはバブル期ピークの1990年度の60兆1000億円以来で、過去最高水準に迫っている。

だが一方で、支出の圧縮には本腰を入れていない。現在国会で審議されている2019年度の予算案は、一般会計の歳出が初めて100兆円の大台を突破する。いつものように社会保障費が膨らむから、と理由を並べているが、実際は大盤振る舞い予算である。

税収が増えたものを借金返済に回すのではなく、歳出増に振り向けている。前出の家計に例えれば、大借金を抱えているにもかかわらず、ちょっとボーナスが増えたからといって、さらに贅沢な生活を始めているようなものなのだ。

借金の増え方を見ても、安倍内閣の借金削減に対する姿勢が緩んでいることがわかる。四半期ごとの国の借金の対前年同期比増減率をグラフにしてみると一目瞭然だ。

2012年12月の第2次安倍内閣発足以降、借金の増加率は急速に低下した。2012年12月は1年前に比べて4%増えていたものが、2015年12月はゼロとなり、2016年3月と2016年6月はともにマイナス0.4%になった。

わずかながらも借金が減ったのである。当時は、2020年のプライマリーバランスの黒字化が実現できるという見方が広がっていた。

ところが2016年秋以降、安倍内閣は一気に手綱を緩めた。アベノミクスの成果に対する批判が相次いだことが背景にあるが、国土強靭化などに歳出を増やしたのである。2016年の夏は安倍内閣の支持率が大きく低下していたタイミングでもあった。

それ以降、伸び率は鈍化していったが、2018年9月と12月は再び借金の伸び率が上昇し始めている。ついに100兆円を超す予算まで組んだことで、2019年9月まではおそらく借金の伸び率は大きくなるだろう。

危険な手法

本来なら財政の肥大化に真っ先に抵抗するはずの財務省が静かだ。借金が増えて大変だ、と口では言うものの、歳出削減を強力に進めようとはしていない。

安倍首相官邸内閣官房では経済産業省出身者が力を持ち、財務官僚の発言力が落ちていることが主因だとする解説もしばしば聞かれるが、財務省自身に歳出を圧縮する気が薄いのも事実だ。

なぜか。今、借金が減り始めては困るというのが本音だからだ。税収が大幅に増えているので、本気になれば借金を減らすことは可能である。だが、借金が減ると財務省にとって不都合が生じるのだ。

2019年10月から消費税率が8%から10%に引き上げられる。増税財務省の長年の悲願だ。「最大のリスク」(財務省幹部)である、過去に延期を繰り返してきた安倍首相も、実施する方向で腹を固めたとされる。

ただし、リフレ派を中心に、消費増税が景気に深刻な影響を与えるとして、延期あるいは増税中止を求める人たちは、官邸周辺にもまだまだ存在する。

そんな中で借金が減ってしまえば、増税しなくても景気が良くなって税収が増えれば借金は減るではないか、という主張が一気に盛り返す可能性があるのだ。だからこそ、首相官邸の大盤振る舞いに目をつぶっているのである。

だが、これは危険な手法だろう。緩めた財政はなかなか引き締めるのが難しい。いったん予算が付くとそれを削るのは、政治家も官僚も強く反対するからだ。財政の肥大化には政治家も官僚も基本的に賛成なのだ。

なぜなら、予算規模が大きくなれば政治家は「利権」が大きくなり、官僚も「権限」が増える。つまり、誰も本気で歳出を圧縮しようと考えないわけだ。唯一、国家のことを第一に考える官僚の中の官僚と言われてきた財務官僚にその役割を期待するしかない。