デフレ脱却へ「コドモノミクス」 玉木雄一郎・国民民主党代表に聞く

日経ビジネスオンラインに10月19日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/101800087/

 「安倍一強」と言われる中で、臨時国会が10月24日にも召集される。野党はどう政権に対峙していくのか。5月に希望の党民進党が統合して誕生した国民民主党は、求心力を得られずに低支持率に喘いでいる。どんな政策を打ち出し、国会論戦に挑むのか。経済政策を中心に玉木雄一郎・代表に聞いた。
(聞き手は磯山友幸


自民党はダメだが、反対ばかりの野党もダメだ

玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)氏
1969年香川県生まれ。東京大学法学部卒業、1993年に大蔵省(現・財務省)に入る。1997年米ハーバード大学ケネディスクールに官費留学。2001年大阪国税局総務課長、2002年内閣府特命担当大臣秘書専門官などを務めた。2005年財務省主計局主査を最後に退官。同年の衆議院議員総選挙民主党公認で立候補するも落選。2009年総選挙で初当選。以降当選4回。2016年民進党代表選挙に立候補するも蓮舫氏に敗れた。2017年希望の党共同代表。2018年国民民主党共同代表を経て、2018年9月代表選挙で代表に選出された。


――国会が始まります。安倍晋三首相が自民党総裁3期目に入りましたが、野党の力が弱く、「安倍一強」の状況を許しています。

玉木雄一郎氏(以下、玉木):昨年の選挙以降、野党を取り巻く厳しい状況が続いていますが、1年経って、もうそろそろ、次に向けた新しい枠組み作りをしていかないといけないと思っています。もともと、(前身の)希望の党の共同代表をお引き受けした時から、非常に困難は多いと思っていたし、火中の栗を拾うつもりでやってきました。

――しかし、なかなか国民民主党の支持も上がりません。

玉木:今の政治状況ではマズいでしょう。代表として全国を回っていても、2つの事をよく言われます。とにかく安倍さんを何とかしてくれ、と。これは一部自民党支持者からも言われます。もう1つ、野党はまとまって信頼できる大きな塊になってくれ、と。この2つはコインの裏表で同じ事を言われていると思います。

 そんな中でわが党はどういう役割を果たしていくのか。国民民主党ができた1つの意義は「自民党はダメだが、一方で反対ばかりの野党もダメだ」という声の中で、しっかりと政権と対峙しながらも、現実的な解決策を、特に未来を先取りした解決策を提示していく政党ができたこと。私はそれをアイデンティティとして、我が党の柱としてしっかり守っていきたいと思います。

――なかなか難しいポジショニングですね。

玉木:対決もするし、解決もすると言うと、対決してないように見る人もいれば、逆に対決するところで見ると、本気で解決策を示していないように見る人もいる。右から左から攻撃されるポジションみたいになっています。ただ、今世界を見渡しても、左でも右でも極端に走りがちな政治の中で、わが党のチャレンジというのは意味があると思っています。このポジション、アイデンティティをしっかり守って、いい仲間と一緒に、良い政策提言、良い国会論戦を実現していきたいと思います。


国民民主党は「リベラル」か「保守」か
――希望の党から国民民主党になって、「穏健な保守」という言い方はしなくなったようですが、国民民主党はリベラル政党なのでしょうか、保守政党なんでしょうか。

玉木:われわれは「改革中道政党」と名乗っていて、綱領には「リベラルから穏健保守まで包含する」と書きました。もはや右だ左だというのは意味をなさない時代になってきています。「中道」と言うのは右と左を足して2で割ると言うよりも、多様な意見がたくさんある、多様性を受容しながら、その中から丁寧に合意形成をしていくという「心持ち」が大事だと思います。その意味では、私たちは現実的な改革中道政党というポジションです。

 ですから、ポジションとしては相当幅広い層を取り込めます。そうでないと政権は取れないと思います。特定の思想信条を持つ層だけをターゲットにすると、非常に強い支持者が集まり、同志性は高まるのですが、今はいかに多様性をマネージメントするかが大事になっています。

――安倍首相が一定の支持を得てきたのは、アベノミクスという経済政策を前面に押し出し、それなりに成果を上げたからだと思います。国民民主党はどんな経済政策を目指すのでしょうか。

玉木:まずは「再分配」を重視したいと思います。やはり特定の人に富が集まって、多くの人が平均以下の暮らしをする状況が世界的に起きています。再分配を重視して中間層を手厚くしていくことが必要です。そういう意味では、大きな政府というか、まぁ小さな政府路線ではありません。

 ただ、同時にビジネスを重視する政党でありたいと思っています。今までのリベラル政党は「再分配」を重視するが、再分配の元になる「成長」をどう実現するかに関しては、やはり弱かったと思います。経済政策や産業政策を重視しながら、再分配にウェートを置くというのが私たちのポジションです。

 自己責任だけを言う自民党とは違うし、他の野党との違いでもある。ですから、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などを使ったイノベーションを促進するために、規制緩和をどんどんやれという立場です。

 一方で、セーフティネットはしっかり敷く。人生いろいろありますから。上手くいくときも、悪い時も。あるいは子育て、出産、病気、いろいろなライフイベントがあっても、人間としての尊厳ある最低限の暮らしはできるようにする。その中で、しっかり競争して、新しい富や価値を生み出していく。逆に私は、安心がないとイノベーションも起きないと思っているんです。

――なるほど。再分配だけでなく、分配の元になるパイも大きくする、と。

玉木:放っておくと人口の減少でパイは縮むので、維持するだけでも精いっぱいかもしれません。ただ、人口が減少していくことを悲観的に捉えるばかりでなく、AIやロボットを活用するチャンスでもある。AIで仕事の半分が奪われるといった話が出ていますが、日本は幸か不幸か人口が減少するので、うまくやれば、最適化した社会を日本で作ることができるかもしれない。


「異次元の少子化対策」でデフレマインドを変える
玉木:そのためには、再分配にも関わるんですが、教育や人材への投資が政策の1番の柱だと思っています。経済や社会を支えていく上でもある程度の人口維持は必要だし、何より社会保障制度はある程度働く世代がいないと成り立たない仕組みです。そのためにも、財政的支援もして少子化対策には全力を挙げる必要がある。「人の投資」はまさに言葉通りで、リターンがあると思います。私は「建設国債」ならぬ、「こども国債」を発行してでもやったらいいと思います。

――子供のためなら、財源は借金でも構わない、と。

玉木:その代わり、使い切りの高齢者向けの医療、介護、年金といったいわゆる「高齢者三経費」には、税や保険料の財源をきちんと充てる。赤字国債で財源調達して、負担だけ子世代に残すのはやめるべきです。

 私は、財源の議論が非常に大事だと思っています。端的に言うと、将来の税収増になるものは借金でやってもいい、そうではなくて使い切ってしまう支出は安定財源をきっちり充てる、そういうメリハリが大事ではないかと思います。そういう観点からの財政法を見直して、ファイナンスのルール自体を変えていくことも重要だと思っています。

――代表選の際に打ち出した、第3子以降に1000万円支給するという「コドモノミクス」への反応はどうでしたか。

玉木:賛否両論ですよね。しかし、私は合理的だと思っています。フランスは家族手当を支給しますが、第1子には出さずに、第2子、第3子と加算していきます。第3子には日本円で月3万2000円くらい出て、所得の低い第3子家庭にはさらに家族補足手当を1万8000円くらい出して、月5万円くらい貰えるんです。そうすると、子どもが大人になるまで貰う金額を累計すると1200万円くらいになって、1000万円を超えるのです。第3子1000万円と言うと大きく感じますが、20歳まで分割で毎月払うと4万円強なんです。

 民主党政権時代に始めた「子ども手当」が、児童手当と名前を変えて、第3子が1万5000円ぐらい出ています。ならば4万円にするには2万5000円の追加、財政で言うと1兆円ぐらいです。100兆円の予算の中で1兆円を出せないのか、という話です。1兆円の「こども国債」を発行しても、債券市場には影響ないでしょう。

――それで本当に子供が増えれば将来戻ってくるわけです。

玉木:第3子1000万円というのはインパクトが大きいです。アベノミクスが「期待」に働きかけてデフレマインドを変えようとした点を私は評価しています。しかし、失敗した。

 デフレマインドの根源には連続的な人口減少があると思います。目に見えて人が減り、子供がいなくなって学校が廃校、統廃合となる中で、デフレマインドは消えません。人口のデフレマインドを変えない限り、明るい未来はないと思う。だから第3子に1000万円というまさに「異次元の少子化対策」で、人口のデフレマインドを変えることが一番大事ではないでしょうか。私はこのコドモノミクスで、人々の希望に働きかけたいですね。

――人口減少対策として、外国人労働者の受け入れ拡大が動き出します。

玉木安倍総理がやっている今の政策は「ステルス移民」だと思います。「移民じゃない」と言いながら移民なんです。心配しているのは、「移民じゃない」と言っている弊害が非常に大きいのではないか、と。まるで「原発事故は起きない」「安全だ」って言って安全対策を講じなかったのと一緒です。やはり移民であるということを正面から認めたうえで、移民対策をすべきだと思います。


外国人の権利保護法制を整える必要
――本音で向き合うべきだ、と。

玉木:1つは彼らを「労働者」というよりも「人」としてきちんと捉えることが大事で、同じ労働を日本国内で行っている以上、「同一労働同一賃金」をきちんと適用するなど、外国人の権利保護法制を整えなければいけません。上から目線で「入れてやる」といった感じですが、アジアは急速に豊かになって、韓国や中国との間で雇い負けしてしまう。人間としての働く環境をどう整えるかという視点で、法整備をしないと、結果的に日本人の賃金も下がっていく。

 もうひとつ、日本語教育など、日本社会に順応するような定着の仕組み、制度をしっかり作らないと、かえって、いわゆる、欧米で言う「移民問題」が発生すると思います。

 前者の人権とか対話の観点で言うと、例えば10年間家族と離れていろと強いる制度は人権の観点から認めて良いのかということを考えなければいけない。例えば子供がいるような場合には日本語教育をどうしていくのかも重要です。日本社会で暮らしていける環境を整えることが、犯罪を防止したり、社会の安定にもつながっていくと思う。

 1960年代にドイツがトルコ人を労働者として受け入れた後、非常に社会的な摩擦が生じたわけですが、その際に大きな役割を果たしたのが教会と労働組合でした。政府だけではなく、宗教団体や労働組合が何をどう担っていくのか、そういう議論がとても大事だと思います。

――日本の労働組合外国人労働者の受け入れに反対してきました。そうした発想の転換は連合はできているのでしょうか。

玉木:変わりつつありますね。そこは連合の神津里季生会長とも話しましたが、「万国の労働者団結せよ」ではないですが、同じ働くものとして、やはり寄り添っていくことが必要だ、と。

――外国人の権利保護法制などは、むしろ国民民主党など野党が言い出すと、国会で通るかもしれないですね。

玉木:人権や働くものを守りましょうという主張は一緒ですが、おそらく立憲民主党さんはどっちかと言うと反対ではないでしょうか。ただ、地域の中小企業の現場などを回っていますと、やはり圧倒的な人材不足で、外国人労働者なしにはやっていけない、と。中小企業がへタってくると日本経済はダメになってしまいます。経済を元気にする観点からも、この問題は考えなければいけません。

 一方で、リベラルな観点で、労働者として、人として彼らのことを考える。その絶妙なポジションが、おそらく国民民主党が果たせる役割かなと思います。安倍さんみたいに何でもかんでもごまかしながらなし崩し的に入れるというのも反対だし、とにかく、入れちゃダメって何でもかんでも反対してる政党とも違いますから。