塩崎恭久元官房長官インタビューVOL.3 「国会を福島に移し新都を建設する。東京一極集中の是正を一気に進める」

磯山: 東日本大震災の復興に向けた国家のグランドデザインとして、首都機能の一部を福島に移すべきだと主張されていますね。

塩崎: 今回の地震津波では、尊い人命や大切な財産が失われただけではありません。東京電力福島第一原子力発電所の事故で稀少な国土も喪失してしまったと言っていいでしょう。

 放射線の影響で福島県の太平洋岸の30キロ圏内は、今後数十年にわたって人々が安心して生活を営む環境ではなくなってしまったと言わざるを得ないでしょう。何よりも、自宅のある故郷に帰るメドすら立たない人たちに、将来のビジョンと新たな雇用の場、生活の場を提供することが必要です。

 それには、国会を福島に移し、新都を建設することが最善の策ではないかと考えています。唐突に聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。長年にわたって議論してきた首都機能移転問題で、国会等移転審議会が調査対象地域として絞り込んだ候補地が福島県阿武隈山系台地です。この計画を即座に実施に移せばよいのです。5年後に移転と決めて、新都の建設に取り組むわけです。

もう1つの大きな効果は、国会議員自らが福島に拠点を置くことにより、被災地復興と日本再建の覚悟を国内外に示すことができることです。福島県が作った候補地の地図では、現在の福島空港の南に国会を置くことになっている。東電福島第一原発から西へ50〜60キロぐらいの距離でしょうか。いわば最前線に国会議員が身を置くわけです。

磯山: 新しい都を作るわけですか。

塩崎: 国会を移すとなれば、付随する行政組織も移ることになり、新しい都市を作ることになります。国会に加えて東京大学を移すというのも1つのアイデアだと思います。避難地域の人たちもコミュニティごとに移住すればいい。新都を建設することで、先行き10年間の巨大な建設需要が生まれることになります。

 スマートグリッドを整備して、省エネルギー型都市「スマートシティ」のモデルになるような町を目指し、放射能防御を含む最新の防災技術を駆使した新都の姿を創りあげれば、被災地だけでなく、日本全体に「新しい夢」が生まれます。


磯山: 新都というのは新首都ではないのですか。

東京一極集中の解消が急務

塩崎: 首都を丸ごと移して、福島を東京に代わる首都にしようという話ではありません。今後は首都の形も変わります。すべてが一ヵ所に集中しているような巨大首都は防災の観点からも問題が大きいことを今回、痛感させられました。福島も首都機能をいくつか分散させる、その一つの核になるということです。

 原発事故の影響や電力不足への懸念から、外国企業などを中心に、関東地方から退去して関西などに移る動きが相次いでいます。原発の冷却停止まででも6〜9ヵ月かかるという見通しが明らかになり、東京からの退去という流れは長期間にわたって続くことになると思われます。

 日本全体の経済活動の落ち込みを避けるためにも、東日本の負担を減らすためにも、意図的に東京の機能を分散し、生産活動の水準を増大することが必要になるでしょう。東京への一極集中のリスクの大きさを痛感しており、今後、東京圏外に第二本社などを置く動きも加速すると思います。

 そんな中で、政府が率先して、主要な政府機関を関西など東京圏外に移転させ、東京一極集中を一気に解消することが重要です。最高裁判所法務省公正取引委員会特許庁日本銀行など、必ずしも東京に中心を置く必要がなく、地方でも十分に機能を果たせる機関はたくさんあると思います。

磯山: 最後に、震災からの復興とグランドデザインの実現にはいくら資金が必要なのでしょうか。また、その財源はどうやって手当てすべきでしょうか。

塩崎: 政府は、国が財政負担することになる額をどうやら20兆円ぐらいと見ているようですが、これは阪神淡路大震災が5兆円だったので、その4倍という単純な計算です。私はそれではまったく足らないと考えています。

 おおまかにみて、東北太平洋岸の被災額が25兆円、今後膨らむ原発事故関連の費用が25兆円、そして国会の福島移転と首都機能の分散が25兆円というところでしょうか。加えて、電力供給の減少による経済活動の低下を名目GDPの5%、25兆円分減少するとみれば、総額で100兆円近い資金が必要になるます。このうち半分の50兆円を財政負担で賄うことになるのではないでしょうか。これはGDPの1割に相当する額です。

 財源として、政府からは「復興税」という声も聞こえてきますが、今後5年間は大規模な増税は行わず、国債発行によって調達すべきです。経済の体力が冷えたこの時期の増税は最悪の政策です。相続税優遇の無利子国債を発行するなど知恵を絞り、基本的には市中での国債消化を前提とすべきでしょう。

 それでも増税は避けられないでしょう。5年後から消費税を段階的に引き上げることを今のうちから国民に納得してもらう必要があります。そのためには、政府が徹底的にムダを撲滅することは言うまでもありません。われわれ国会議員も定数の大幅な削減などを早急に打ち出すべきだと思います。

磯山: 内外のマーケットは日本がどう復興していくのか注視しています。

塩崎: 今後の復興に向けたグランドデザインを示すことで、世界の投資家に日本を見守り続けてもらわねばなりません。日本は必ず復興し再成長軌道に乗ると感じれば、外国人も日本に投資をします。もたもたして、外国人に日本を見切り売りされることだけは避けなければなりません。

聞き手 磯山友幸
現代ビジネス 20110502アップ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2718