「お上頼み」はもうやめよう」 フジサンケイビジネスアイ1面コラム

企業がらみの不祥事など事件が次々に起きるので、大きな問題も検証されないままにどんどん風化していくように思います。製造業で最大となる負債総額で破綻したエルピーダ・メモリーは、公的資金を中心していたことなど、様々な検証すべき問題を抱えています。単に「お上」を責めるばかりでなく、「お上依存」になっている日本の経営者マインドを省みるチャンスではないでしょうか。フジサンケイビジネスアイの14日付け1面に以下のようなコラムを掲載しました。
オリジナル→産経新聞フジサンケイビジネスアイ
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120314/mca1203140505010-n1.htm


 2月末に破綻した半導体製造会社エルピーダメモリの生産拠点がある広島と秋田の両県知事が7日、枝野幸男経済産業相を訪ね、同社の「再建に国も全力を尽くしてほしい」と要望した。地元の雇用を守りたい切実な思いは分かる。だがこれ以上、国に何をせよと言うのか。一私企業を助けろと県知事が要望するのは、果たして正しいことなのか。

 エルピーダには公的資金300億円(現在は284億円)が投入された。2009年に経産省が主導、産活法(産業活力再生特別措置法)による一般企業への公的資金の注入第1号として注目された。当時から賛否両論あったが、結局、お上お声がかりの「日の丸半導体」会社となった。それが2年半で失敗に終わったのだ。

 会社更生法の適用を東京地裁に申請して破綻した同社の負債総額は約4480億円と製造業で過去最大。300億円の公的資金が回収できる見込みは薄く、最終的に国民負担となりかねない。産活法のスキームでは政府系の日本政策投資銀行の出資分の8割と、危機対応融資(100億円が貸し出されていた)の5割は、同じ政府系の日本政策金融公庫に損失補填(ほてん)を求めることができる。277億円が国民負担になる可能性があるのだ。

 日の丸半導体を守る理由は何だったのか。エルピーダ日立製作所日本電気のDRAM事業を統合して誕生。その後、三菱電機の事業も譲り受け、わが国唯一のDRAM専業メーカーとなった。半導体は「産業のコメ」だからと国産に固執したのだろうか。

 「日本は同業者が多過ぎて過当競争になり利益が出ない構造」というのが経産省の基本姿勢である。統合して体力を強化するために国が支援すれば国際競争力が付くという主張を今も続けている。その経産省モデルの第1号がエルピーダだったといえるのだ。

 だが、現実には「お上頼み」の経営者と、世界一優秀かもしれないがしょせん“頭でっかち”の経産官僚が一緒になった甘い経営が、世界に通じるわけはない。救済計画策定に携わっていた当時の審議官がインサイダー取引容疑で逮捕されるオマケまで付いた。

 経営破綻の一義的な責任が経営者にあるのは論をまたない。ところが坂本幸雄社長は留任して再建に当たる方向だという。経営者の責任を問えば、公的資金を使って救済した官僚の責任も問われるからだろうか。

 かつての企業経営者の多くは、国に口出しされることを嫌ったものだ。財界トップが行政改革に堂々と意見し、大なたを振るえたのも、官の関与をできるだけ小さくしようという基本姿勢に揺らぎがなかったからだ。

 それが今はどうか。家電のエコポイントやエコカー補助金など、至るところに「お上頼み」がはびこっている。「お上」というが、現実はすべては国民の税金だ。増税の前にこの「お上頼み」を一掃することが先決だろう。(ジャーナリスト)