ポスト民主政権の経済政策とは

衆議院議員選挙が公示されました。果たして年末に誕生する新しい内閣はどんな経済政策を取るのでしょうか。かなり古くなってしまいましたが、11月6日に「フジサンケイビジネスアイ」1面に掲載されたコラムを、転載いたします。
オリジナルページ → http://www.sankeibiz.jp/macro/news/121106/mca1211060504013-n1.htm



 自民党の「日本経済再生本部」が本格始動した。安倍晋三総裁自らが本部長に就任、甘利明政調会長が本部長代理となるなど、党を挙げて「経済再起」を重視する姿勢を示した。安倍氏は総裁選の公約で冒頭に経済再起を掲げ、「一日も早いデフレ脱却と成長力の底上げで所得向上、雇用の創出に全力」を尽くすと宣言した。

 再生本部では、今後、経済人や学者、科学者などを招いて意見を聞き、今月末をメドに「経済再生策」の大枠を決める。解散・総選挙が迫る中で、安倍政権が誕生した場合にどんな経済運営を行うのかを示すことになるだけに、大いに注目される。

 総裁に安倍氏が就任したことで改革派の経済人の自民党への期待が戻っている。「農家戸別所得補償」「子ども手当」「高校無償化」など、給付や分配に重点を置く民主党の経済政策が、経済沈滞を一段と深刻化するなど失敗に終わったとの評価が定着しているためだ。

 自民党谷垣禎一総裁時代は「国土強靱化」など、公共事業中心の古い自民党を彷彿とさせる経済政策を打ち出した。このため、民主でも自民でもない第三極党派に期待する若手経済人が多かった。これが安倍氏の総裁就任で変わりつつあるのだ。

 2006年から07年の安倍内閣時代は、小泉純一郎首相時代の構造改革路線を引き継ぎ、成長を目指す「上げ潮」政策を重視した。結果、株価は上昇し税収も増えた。経済人が安倍氏に期待するのは、当時の「構造改革路線」にかじを戻す、という見方からだ。


 一方で安倍首相は当時、「格差拡大」批判をモロに浴びた。民主党は格差批判を繰り返すことで政権を奪取した。もともと民主党の経済政策は古い自民党を否定する構造改革路線だったが、格差批判を展開軸としたことで「小泉改革の否定」をせざるを得ない呪縛に捉われた。

 安倍内閣の経済政策は自民党内でも評判が悪かった。郵政選挙に際して小泉氏が除名した議員を安倍総裁の決断で復党させたが、かえってこれが「小泉改革の否定」を党内で加速させ、政権の短命にもつながった。

 今も自民党議員の過半は小泉改革の否定論者だ。そんな中で安倍氏が総裁として再び「構造改革」へかじを切れるのか。

 日本経済が成長しない理由はもはや明らかだ。最近、財務省が省内のチームで分析した結論は「世界経済のグローバル化への不適応」と「少子高齢化」。つまり、日本企業の経営や国の仕組みがグローバル化に乗り遅れた構造問題だというのだ。これは国際舞台で日々競争している改革派の経営者たちが痛感していることでもある。

 今も自民党内で経済政策を議論するとき、「構造改革規制緩和、市場原理は禁句だ」と言われる。そんな小泉改革否定の呪縛から自民党を解き放すことが安倍総裁にできるのかどうか。月末にとりあえずの答えが見えそうだ。(ジャーナリスト 磯山友幸