ちょっと古くなりましたがFACTAに昨年掲載した書評を以下に再掲します。本の中味はまったく古くなりません。
「粉飾ハンター」が明かす実例と極意 2012年12月号 [BOOK Review]
by 磯山友幸(ジャーナリスト)

- 作者: 宇澤亜弓
- 出版社/メーカー: 清文社
- 発売日: 2012/09/13
- メディア: 単行本
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関西学院大学法学部を出て会計士試験に合格、大手監査法人で監査などを担当、関学大学院の会計監査の名門、平松一夫研究室でも学んだ。
ところが、その後の経歴は多くの会計士と大きく異なる。警視庁で「財務捜査官」となり、捜査二課で企業犯罪の捜査に携わったのだ。バブル崩壊期に企業の不正事件が頻発したが、決算書が読める捜査官などほぼ皆無。専門家を登用するためにつくられたポストだ。
次いで証券取引等監視委員会で「主任特別調査官」などを務めた。決算書から粉飾など不正会計の臭いをかぎ、事件の端緒を掘り起こす役割だった。昨年、役所勤めを辞めて個人事務所を開いた後も、最高検察庁の委員会の参与などを務め、金融庁の研修などで講師をしている。
そんな「粉飾ハンター」が粉飾の手口を事細かに解説したのが本書『不正会計』である。初めての著作が556ページの大著になった。日本公認不正検査士協会での講義資料をまとめたもので、大王製紙、オリンパス、日興コーディアルなど、具体的な不正会計事件が実名で並ぶ。 オリンパスの項を例に取れば、過大な額の「のれん」を計上していた決算書を示したうえで、想定される不正を列挙している。①仮想取引にかかわる原資捻出、②資金循環取引にかかわる原資捻出、③経営者の特別背任的支出、④売買の相手方への利益供与――。決算書の異常数値に着目、不正の可能性を想定する捜査官の極意の開陳である。
だが、本書の狙いは「捜査官の教科書」ではない。経営者に向けた啓蒙書と言っていい。宇澤氏によれば、オリンパスのような経営トップ自らが関与する会計不正は稀で、最初はトップが不正に気付かないケースが多いという。もちろん決算書や会計書類には様々な兆候が現れているのだが、気付かないのだ。
本書の帯には「財務諸表を使った不正発見志向型の新しい視点により、不正の未然防止・早期発見をする!」とある。早期発見・未然防止のための経営者向けのテキストなのである。
もうひとつ本書を貫いているのは、会計監査専門家としての「まっとうな正義感」だ。本書の「はじめに」には「不正会計は、資本主義の根幹を腐らす極めて悪質な行為である」とある。物分かりのいい会計士が増えた昨今、正義感を感じさせる人は減った。それだけに、すがすがしい気分にさせる著作である。