「5000円以下」こだわらず 交際費損金扱い拡大、景気の起爆剤

産経新聞の発行するフジサンケイビジネスアイは製造業系を中心に経営者が良く読んでいる新聞です。1面にコラムを書かせていただいてもうすぐ2年になりますが、予想以上に経営者からの反応が来ます。先週掲載されたコラムも是非ご一読下さい。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130613/mca1306130500003-n1.htm



 最近、飲食店経営者に聞くと、お客が求める領収書の切り方が変わったという。3月までは1人当たりの飲食代が5000円以下に収まるように気を使っていたお客が、4月以降、上限にこだわらなくなったというのだ。

 アベノミクスによって業績に明るさが見え始め、企業が経費を緩め始めたためかと思いきや、理由はそれだけではないらしい。

 4月1日から、中小企業の交際費の税務上の扱いが変わったのである。3月までは企業が損金扱いできた交際費の上限は600万円で、しかも10%は損金不算入、つまり経費として認められなかった。

 それが新年度からは税制改正で800万円までが全額損金になったのだ。200万円も増えたうえに、全額損金となったインパクトは予想以上に大きい。

 改正前から、1人当たり5000円以下の会食ならば「交際費」ではなく「会議費」という名目で全額経費になった。このため、企業は交際費ではなく会議費にするようこだわっていたが、4月以降、交際費とすることをいとわなくなった。それが領収書の切り方にも表れているというのだ。

 交際費といえば、バブル華やかなりし1980年代後半を思い出す人もいるだろう。大企業から中小企業まで、会社の経費で飲食店や夜の街は大いににぎわったものだ。いわゆる法人需要が景気を膨らませたのである。

 その後、企業の不祥事や役所同士の「官官接待」などが批判を浴び、交際費への課税が強化された。バブルの崩壊で企業も経費削減に走り、会社の役員や管理職でもかつてのように交際費は使えなくなった。

 それが再び復活する兆しが見えているというのだ。もちろん、会議費ではなく交際費となれば、飲食店で使う1人当たりの上限がなくなるから、客が使う金額も増える。飲食店でも高級店がはやったり、客単価が上昇しているという。

 交際費の場合、飲食接待に限らない。贈答品なども交際費の対象だ。めっきり減っていた中元などの時候の挨拶にも追い風だろう。取引先の社長に1個数万円の時計を贈るといったバブル時代を彷彿(ほうふつ)させる光景が復活するかもしれない。

 実際、百貨店での宝飾品などの売り上げ好調が続いている。日本百貨店協会の調べでは、4月の全国の百貨店売上高は前年同月比0.5%の減少だったが「美術・宝飾・貴金属」の売り上げは18.8%も増えた。

 アベノミクスで昨年末から株価が上昇したことによる「資産効果」もあるだろうが、中小企業が交際費として支出した“法人需要”も一因になっている。

 わずか800万円と思うかもしれないが、日本の法人の9割以上が中小零細企業である。この税制改正の効果は今後も広がってくるに違いない。

 また、麻生太郎副総理兼財務相は大企業にも交際費の一部を損金として認めることを検討すると語っている。大企業が交際費をバンバン使い始めれば、景気の起爆剤になることは間違いない。(ジャーナリスト 磯山友幸