アベノミクスに乗れるか 地方の観光地

アベノミクスの効果なんて地方にはまったくありません。そんな声を良く聞きます。では円安株高と地方は無関係なのでしょうか。何かチャンスは無いのでしょうか。フジサンケイビジネスアイの1面コラムが先週掲載されました。
オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130716/mca1307160502000-n1.htm


 県庁所在地から車で1時間ほど離れたある地方都市へ行った。ご多分に漏れず商店街はシャッター通り。高齢化が進み、産業といえば農業ぐらい。しっとりとした良質の温泉が自慢だが、何軒も並ぶ大規模な温泉宿は人影もまばらだ。バブル期に団体客目当てにお色気を売りにした歓楽温泉として名前が知れわたったため、家族連れはなかなかやってこない。他に目立った観光資源もない。

 アベノミクスの円安株高では地方経済には恩恵を及ばさないという声がある。本当だろうか。

 為替が円安に振れたことで、今年2月以降、外国人観光客が急増している。日本政府観光局の調べでは、2月33.5%増、3月26.7%増、4月18.4%増、5月31.2%増である。月別の過去最高を毎月更新し、このままのペースでいけば、今年の訪日外国人は初めて1000万人の大台に乗せそうだ。彼らの多くを引き付けているのが、東京や大阪などの大都市や、京都などの一流観光地であることは間違いない。だが、今後リピーターが増えれば、地方の観光地にもどんどん外国人が押し寄せるようになるだろう。

 外国人ばかりではない。JTBの推計では夏休み期間中(7月15日〜8月31日)に1泊以上の国内旅行に出かける人は、7624万人と昨年より2.2%増えて、こちらも過去最高を更新する見通しだという。円安で海外旅行ブームに若干のブレーキがかかっていることもあり、国内旅行回帰が起きているのだ。

 外国人にせよ日本人にせよ、日本国内を旅行して歩く人が間違いなく大幅に増えている。空前の国内旅行ブームがやってくると言っても過言ではなさそうだ。

 問題は地方の観光地が、そうした観光客を引き付けることができるかどうか、である。バブル期に、社員旅行の団体客需要を当て込んだ観光地は全国に数多い。鉄筋コンクリート造りの旅館街は似たような風情になった。かつての豪華設備はむしろ哀感を漂わせる。過剰設備の稼働率を上げるために採算度外視の安値路線に走り、これも地域性や特色をそぐ要因になっている。何せ地元の食材は高くて使えないから、輸入冷凍品ということになるのだ。

 逆に、バブルに乗り遅れたひなびた温泉地が、その後の温泉ブームの柱になった。独特の情緒や地元の料理を売りに、1泊1人5万円でも予約が取れない人気宿も生まれた。

 この20年で、日本人の旅の嗜好(しこう)が文化の薫りを楽しむ旅へと変わってきたように思う。そんな個人を大切にするおもてなしが、実は外国人客にも人気だという。

 自分たちの地域の特色は何か。果たして何が一番の売り物になるのか。それをもう一度考え直して勝負してみるときがやってきているのではないか。アベノミクスの恩恵を受けられるかどうかは、それぞれの地域のそれぞれの経営者の知恵しだいということではないだろうか。(ジャーナリスト 磯山友幸