消費税増税よりも 資産を売って借金を減らす

ウェッジの10月号(9月20日発売)に掲載された原稿です。ご一読お願いします。
オリジナルページ→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3186?page=1


「国の借金」が今年6月末についに1000兆円の大台を突破した。財務省の発表によると、国債の発行残高に政府の借入金や政府短期証券を加えた「国の借金」の合計残高は1008兆6281億円。1年前に比べて32兆4428億円増加した。これまでも1000兆円乗せの予測が何度も立てられていたが、実際に1000兆円を突破したのは初めてだ。歳出の増加に歯止めがかけられず、借金の膨張が続いているわけで、このままでは2014年3月末には1107兆1000億円に達すると財務省は警鐘を鳴らしている。

 このまま借金を増やしていけば、近い将来、国の信用が失われ、誰も日本国債を買わなくなる。つまり国債の暴落が起きかねない、というわけだ。2年前にイタリアで起きたような、高金利を出さないと国債が発行できない状況に陥れば、借金が借金を生む「借金地獄」から抜け出せなくなる。今のうちに何とかして借金を減らさなければならない、というのは紛れもない現実だろう。

 実際、日本政府の歳出(一般会計)の4分の1は「国債費」である。国債金利負担だけでなく、元本返済分も含まれる。民間企業の決算と国の決算の最大の違いは、借金をすると「歳入」、借金を返済すると「歳出」になることだろう。収入が足りなければどんどん借金し、支出を抑えるために借金は返さない。そこに借金大国に陥った1つの問題点がある。

 「プライマリー・バランス」という概念がある。基礎的財政収支と言うが、話は簡単だ。年間の収入と支出をバランスさせましょう、つまり税収の範囲内に歳出を抑えましょうという事である。この収入には借金は含まず、支出に借金返済は含まない。普通の家庭で考えればごく当たり前のことで、大きな借金を抱えているのだから、毎月のやり繰りは収入の範囲内に収めて、これ以上借金は増やさない、ということだ。

ところが日本はこのプライマリー・バランスにはほど遠い。消費税の引き上げ論議が佳境だが、予定通り15年10月に消費税率が10%になっても、プライマリー・バランスは黒字にならない。借金が増え続けるというのだ。

 日本の財政の借金体質は長年問題視されてきたが、それが顕著になったのは1990年代後半からだ。99年3月末には437兆円だったものが、03年3月末には668兆円に拡大。その後10年でほぼ1.5倍になった。

 支出では社会保障関係費が最も多く歳出の3割を占める。高齢化によって年金や医療費が増えることが最大の歳出の増加要因。借金返済のための「国債費」も毎年ジワジワ増えている。

 もっとも、この十数年の借金増加も同じペースで増えてきたわけではない。小渕恵三内閣では経済対策として公共事業などを大幅に増やしたため借金が増えた。小泉純一郎内閣の前半まで、国の借金はおよそ2ケタの伸び率で増えた。これにブレーキをかけたのが小泉内閣後半の構造改革路線だった。05年度に5.9%増えた借金は06年度は0.8%増、07年度は1.8%増となり、08年度にはマイナス0.3%とわずかながら減少した。

 歳出を抑制する予算を組む一方で、規制改革などによって経済を成長軌道に乗せることで税収を増やす。小泉政権末期から第1次安倍晋三内閣にかけての政策が借金増加に歯止めをかけていたことが分かる。安倍首相が経済政策「アベノミクス」を推し進め、デフレ脱却を第1に掲げるのも、この経験があってのことだ。

 企業や一般家庭が、借金が雪だるま式に増える借金地獄に陥ったとしよう。本気で借金を減らすにはどうするだろう。というより、カネを貸している銀行などの金融機関や、債務整理をする弁護士は何と言うか。

 まず持っている資産を売却して、借金の総額を減らしましょう、と言うだろう。そして、使っていない不動産や貯金があれば、まずはそれで借金を返すに違いない。「いや、来年には収入が増えるはずだから、資産は売りません」とは言えないはずだ。

 政治家や官僚が、本気で日本の借金を減らそうと考えたなら、国が持っている資産を売却するのが当然だろう。実は国も、民間企業が作るような貸借対照表(バランスシート)を作っている。10年3月末で負債総額はすでに1019兆円となっている一方で、資産も629兆円あるのだ。しかもそのうち428兆円は金融資産だ。

「資産と言っても売れるものは少ない」と財務省の幹部は言う。本当だろうか。

公共施設の運営権を
民間へ

 英国政府は国営の郵便会社「ロイヤルメール」を来年4月をメドにロンドン証券取引所に上場し、株式の過半数を売却する方針だ。英国政府も財政赤字に苦しんでおり、借金を削減するために国営企業の株式売却を進めている。日本でも日本郵政をはじめ、政府が株式を保有する政府系企業は数多く残っている。

 ようやく郵政の上場は動き出したが、有料道路や空港、上下水道など、財政赤字を抱える国なら真っ先に売却・民営化している資産がまだまだ国や地方の保有資産になっている。

 自民党の推計によると、有料道路、空港、上下水道、港湾、公営鉄道といった国や地方が持つ「料金収受型インフラ」の総資産価値は185兆円(負債96兆円)にのぼり、年間7兆円の収入を生んでいる、という。こうした政府・地方政府の保有資産を売却する余地はまだまだあるのだ。

 アベノミクスの成長戦略では「官業の開放」という言葉が盛り込まれ、コンセッション方式による官業の民間委託などを打ち出している。コンセッション方式とは空港や港湾など公共施設の運営権を民間業者に売却する方法で、11年6月に改正施行されたPFI法によって日本でも実施が可能だ。

 インフラを売却すると言うと、「外国のハゲタカに買われる」という反対論が出てくる。東欧の旧社会主義諸国などで空港などを外国資本に売却した姿が思い浮かぶのだろう。

 だが心配はいらない。日本が売却した資金を国債の削減に当てるならば、国債保有している人の資金が、こうした民営化会社の株式へと移動するだけだからだ。日本国債の大半は日本人が持っているわけだから、売却する資産が優良資産であれば日本人もこぞって買う。

 本気で財政再建をしようと思うのなら、何が何でもプライマリー・バランスを黒字にし、借金を減らすために持っている資産を思い切って売却することだろう。せっかく消費税を上げても、その分歳出を増やしてしまったら、永遠に借金は減らない。

◆WEDGE2013年10月号より