「アベノミクス指数」意識する経営者

東京証券取引所日本経済新聞が新しい株価指数の算出を来年1月から始めます。実はこの指数、安倍内閣の成長戦略に盛り込まれていたもので、“アベノミクス指数”と言っても過言ではありません。証券界や投資家からは冷ややかな見方が出ていますが、毎年対象企業が入れ替わるというユニークな指数だけに、企業経営者はさっそく意識し始めたようです。フジサンケイビジネスアイの1面コラムに書いた原稿です。ご一読下さい。オリジナルページは→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/131122/eca1311220503003-n1.htm


 東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)は来年1月から新指数「JPX日経インデックス400」の算出を始めると発表した。新指数は「グローバルな投資基準に求められる要件を満たした投資者にとって投資魅力の高い会社」で構成するというもの。選定基準を明示し、400社の「当選企業」も公表された。

 新指数は、債務超過や3年連続赤字の企業を除いたうえで時価総額や売買代金を加味した1000社の母集団を作成。これを3年平均の株主資本利益率(ROE)と3年累積営業利益、時価総額の3項目での点数で順位付けしていく。総合点の上位400社が選ばれる仕組みだ。配点はROE4割、営業利益4割、時価総額2割。時価総額が大きい大企業が選ばれる傾向が強かった日経平均株価(225種)と大きく違い、利益率が高く、利益額の大きい会社が選ばれる傾向が強い。つまり、「安定性」よりも「収益性」や「成長性」に大きくウエートがかかった指数といえる。

 実はこの指数、安倍晋三内閣が今年6月に閣議決定した成長戦略に盛り込まれていた。「アベノミクス指数」と言っていい。利益を上げ、成長に貢献している国際水準の企業を選別して投資家にアピールすれば、そうした企業に資金が集まり、株価も上昇する。成長戦略にも市場原理を働かせようというアイデアから生まれたものだ。

 さらに、独立した社外取締役を2人以上選任している会社や国際会計基準のIFRSを採用したり、採用を決めた会社、決算情報を英文で開示している会社についてはスコアが「加点」される。

 社外取締役は、現在進められている会社法の改正議論で「1人以上の義務付け」が決まりかけたが、一部の経済団体の反対で頓挫(とんざ)。IFRSの義務付けも民主党政権時代に反故(ほご)にされ実現していない。加点の影響度は小さいとはいえ、400社選定の当落線上ではこれが意味をもつ。しかも毎年6月末に銘柄の入れ替えが行われることが決まっている。

 まだ指数の算出は始まっていないが、400社が公表されただけで、大企業経営者には大きなショックを与えている。日経平均に採用されていた企業で「落選」するところが相次いだからだ。赤字が続いたシャープやパナソニックが落選するのは致し方ないとして、東京電力オリンパス大日本印刷大和証券グループ本社なども選定から漏れた。住友化学が落ちたのは経団連会長会社としてメンツ丸つぶれだろう。

 これから毎年6月の入れ替えを目がけて、企業はROEや利益額の向上に必死になりそうだ。加点がもらえるならと、社外取締役の導入やIFRS採用に動く企業も増えるだろう。

 実際に指数算出が始まれば、他の指数と違ってユニークな算出方法をとっているだけに、さらに関心が高まりそうだ。企業経営者にとって無視できない存在になる可能性が大きい。(ジャーナリスト 磯山友幸