政治に「新たなねじれ」顕在化

「衆参のねじれ」は解消したものの、国民の多数意見と国会の多数という新たな「ねじれ」が顕在化しているように思います。就任当初は国民の自民党への支持に関して謙虚だった安倍首相は、参院選挙後、自信を持ち過ぎたのではないか。内閣支持率が一気に10ポイント近く低下した意味を首相はよく考えるべきでしょう。産経新聞社が発行する「フジサンケイビジネスアイ」の1面コラムに掲載された原稿です。→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/131219/mca1312190502003-n1.htm


 いわゆる「衆参のねじれ」が解消し、政府・与党は思い通りに法案を可決できる態勢を手に入れた。実際、今月閉幕した臨時国会では政府・与党側が野党の審議要求を打ち切って法案の賛否を問う「強行採決」がいくつかの法案で行われた。

 その一つである特定秘密保護法には、法律の必要性を容認する意見が多くあったにもかかわらず、法案原案のずさんさと国会答弁の拙さゆえに、右派の論客からさえ疑問の声が上がった。医療・介護など社会保障改革の道筋を示す社会保障プログラム法も、委員会は強行採決で突破した。

 与党・政府からすれば「決める政治」の実践ということだろうが、果たして数を頼りにした強硬な国会運営に正当性はあるのだろうか。大多数の議席を握っているのだから当然だ、という意見があるかもしれない。だが本当にそうなのか。

 12月14、15日にFNNが行った世論調査では安倍晋三内閣に対する支持率が急落した。支持率は47.4%で、前月に比べて9.3ポイントも低下、政権発足以来初めて50%を割った。

 同時に与党自民党の支持率も下がっている。アベノミクスへの期待感が膨らんだ今年3月には43.3%にまで上昇していたが、12月の調査では35.4%となった。

 公明党への支持率の5.1%を合わせても過半数には届かない。政府・与党が絶対的多数の信任を得ているとは言い切れないのだ。

 もともと自民党に対する支持は脆弱(ぜいじゃく)だ。圧倒的な議席を獲得した昨年末の総選挙でも、自民党比例区で得た得票は1662万票。大敗して政権の座を追われた2009年の総選挙で獲得した1881万票より少なかった。得票率も27.6%と、0.9ポイント上昇しただけだ。

 05年の小泉純一郎内閣のいわゆる「郵政選挙」では、自民党は2588万票を獲得、38.2%の得票率を得た。同じ圧勝でもまったく国民の支持度合いが違うのである。

 しかも昨年末の総選挙では、投票率が史上最低の59.3%だった。得票率に単純にかけ合わせば、有権者の16%しか自民党を支持しなかったことになるのだ。

 さらに最高裁からは選挙区ごとの一票の格差は「違憲状態」だと注文も付けられている。国会での「多数」の意味が、今ほど問われている時はないと言ってもいいだろう。

 民主主義における多数決は、国民の多数意見が反映されるという大原則を前提にしている。国民多数の支持を得ていればこそ、強行採決も許容されるのである。

 安倍首相は就任直後、「古い自民党には戻らない」と繰り返し、大勝に浮かれる自民党内を引き締めていた。だが、最近はそんな謙虚さはうかがえない。衆参のねじれが消えて、「国民と国会のねじれ」が顕在化するようでは、日本の民主主義は危うい。年明けの通常国会では、国民が納得できる丁寧な国会運営を望みたい。(ジャーナリスト 磯山友幸