「空気・根回し・年功序列は不要」「英語だけでは役立たず」…日本企業と外資双方を知る人材会社社長に聞く「世界標準の仕事力」とは

岡村進さんはUBS日本法人の社長だった時からのお付き合いですが、日本の人材育成の仕組みを変えることに情熱を傾けています。昨年7月には外資の高給を投げ打って「人財アジア」という会社を起業しました。その岡村さんが新著を上梓されたので、インタビューさせていただきました。現代ビジネスに掲載された記事です。→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38354


世界で最も仕事がしやすい国を目指す「アベノミクス」は日本企業に大きな変化を迫る。当然、そこで働く社員も「世界標準の仕事の常識」が求められ、世界標準で報いられる事になる。そんな中で、どんな人材が生き残るのか。『外資の社長になって初めて知った「会社に頼らない」仕事力』(明日香出版社)を上梓した岡村進・人財アジア社長は、変われない日本企業を一刀両断にし、若い人たちに「わがままに生きろ」と語る。

「変われない日本企業」を変えるのは「わがままな若者」

──岡村さんは第一生命保険に20年勤めた後、UBSグローバル・アセット・マネジメントで社長を務めました。日本企業と外国企業の両方の働き方を経験したうえで、日本の若者に自己変革を訴えています。

日本の経営者が日本経済の再生をいくら語っても、様々な既得権を意識しているうちに、会社を変えることはできません。悪意を持って変わらないわけではなく、自分を社長に据えてくれた先輩経営者やOB、自分を支えてくれる取締役、後輩社員の事を考えると、今までのやり方を大きく転換できないのです。

ですから、トップダウンで日本企業を国際標準に変えていくのは難しいと感じます。若い人たち個々人の働き方や価値観を国際標準に変えることで、日本企業の組織も変わっていくのではないか。それが私のアプローチです。

──外資の社長という恵まれたポジションを投げ打って人材育成会社を起業されたのですが、なぜですか。

昨年7月に「人財アジア」という会社を立ち上げました。今のままでは日本は沈んでしまうと思っていましたが、安倍晋三首相は自らが掲げるアベノミクスで、変わるべき道を分かりやすくクリアに示した。今こそグローバルな人材を本気で育てないといけないと思ったのです。

──グローバル化が一気に進むと。

まだ日本国内に住んでいる人はグローバル化なんて関係ないと思っています。しかし、そうではない。武田薬品工業のような伝統的な日本企業の社長に外国人が就く時代です。グローバル化と無縁にビジネスマンとして生きていくことはもはや不可能です。だとすると、日本の今までの働き方では通用しなくなります。いやおうなしに「国際標準」になっていくのです。

──ひとことで言って、国際標準の働き方とは。

国にも企業にも依存しないで、自分自身が仕事力を身に付けることです。

今の若い世代、とくに大学生と話していると、やる気もあり優秀な人が少なくない。ところが大企業に入って半年一年たつと、すっかり牙が抜けてしまう感じがします。寄らば大樹の陰というのか、依存心が芽生え、生存本能を失ってしまうのです。ですから、若い人たちに言いたいのは、初心を忘れるなということ。これからは自分の思い通りに素直に生きることが大事です。わがままに生きろ、と。

10年後には終身雇用はなくなっている?

──私はUBS時代から岡村さんを存じ上げていますが、かつては日本企業の人事制度の良さを強調されていました。

前に書いた『自己変革─世界と戦うためのキャリアづくり』(きんざい)という本でも、終身雇用は守れ、と書きました。年功序列の人事を壊して、年齢に関係なく実力のある人を登用する仕組みに変えれば、終身雇用は守れると考えてきました。

しかし、起業した後、大企業の人事研修の講師をたくさん引き受けているのですが、研修の現場で企業が求める人材像を見ていて、やはり変われない日本企業では、終身雇用も守れないと感じ始めました。10年後には終身雇用は残っていないのではないか、と思います。

──変われない日本企業の問題点は何でしょうか。

モノカルチャーなことです。欧米企業の圧倒的に多様なカルチャーと、まともにぶつかったら勝負になりません。

阿吽の呼吸ですべてが分かる、空気を読める人が重用される。会議の根回しなどというものは欧米人にはほとんど理解不能です。議論しない会議などやる意味がないからです。

日本の若い人たちには、先輩だからといって立てるな、働いていない奴は突き上げろ、と言っています。互助組織のような緩い社風でやって来られた時代は、確かに幸せでした。国内市場が安定的に成長し、外国企業も入って来なければ競争する必要はありません。しかし、グローバル化の時代には国際標準の戦い方が求められます。

──アベノミクスはクリアに方向を示したと仰いました。

第3の矢の構造改革が必要だと明確に示しました。世界で最もビジネスがしやすい国にするとも言っています。一方で労働規制の見直しや産業の新陳代謝もやるとしている。グローバル化する世界経済に合わせて日本経済や日本企業の仕組みを変えようとすれば当然のことです。

ただ、やらなければいけない事を明示したことは評価していますし、アベノミクスも応援しているのですが、それをトップダウンでやり切ることができるかどうかは心もとないですね。もちろん、安倍首相がアベノミクスで明示しなければ、世界は日本を見捨てていたと思います。よく言われる「ジャパン・パッシング(日本素通り)」です。

──政府もグローバル人材の育成が不可欠だとしています。


認識が間違っていると思います。英語教育や試験による資格制度をいくら作っても本来のグローバル人材は育ちません。グローバルなビジネスの世界で求められるのは「生き残る力」です。英語が流暢に話せれば生き残れるわけではありません。

私が20年お世話になった第一生命保険には、柴田和子さんというギネスブックにも載ったカリスマ営業レディがいます。彼女は英語はできませんが、米国の大会に招かれて5000人の前で丸暗記した英語のスピーチを行い大喝采を浴びました。英語が上手かどうかではなく、伝えるものがあるかどうか。まさに人間力の勝負なのです。

──どんな人材が生き残れるのですか。

私は「スキル×経験・実績×変革心×気合い」だと言っています。どんなに能力や経験があっても、変革心がゼロではまったくダメ。さらに気合いがゼロだったら絶対に勝負には勝てません。

日本企業の中で「変人」と言われるような人がいますが、グローバル企業の視点でみれば、日本の画一的な社員と大差なく見えます。海外の企業には個性むき出しで戦っている人材がごろごろいます。

──起業された人財アジアではどんな事業を展開されていくのですか。

今は大手企業の人事研修の受託がメインですが、何とかここ1年で、グローバルビジネス予備校のようなものを丸の内に開きたいと計画しています。一方で、大学や高校で、おカネや経済にまつわる講演や講義などを引き受けています。もちろんこれはビジネスにはなりませんが、これからの日本を担う若い人たちに少しでも自信を持ってもらえればと考えています。

外資の社長になって初めて知った「会社に頼らない」仕事力 (アスカビジネス)

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岡村進(おかむら・すすむ)
1961年生まれ。1985年東京大学法学部卒。同年第一生命保険に入社し、20年間勤務。その間に、米国運用子会社DIAM USA社長兼CEOなどを歴任。2005年に、スイス系金融コングロマリットUBSグループの運用部門、UBSグローバル・アセット・マネジメントに入る。2008年より日本法人の代表取締役社長を務めた。2013年6月に巨額の報酬を自らの判断で投げ捨て退社。7月に人財アジアを設立し社長就任。大手金融機関、メーカーを中心に企業研修事業を行う。対象は経営層から若手層まで幅広い。若手ビジネス・パースンを対象としたグローバル人材を育てる予備校設立を準備中。