秋葉原で「アイドル書店」をオープンした取次ぎ大手「日販」が狙う「書店ネットワークの潜在力」活用

私がアイドル好きなわけではありません。仕事で取材に行ってきました。書籍取次大手、日本出版販売の取り組みです。是非ご一読お願いします。オリジナルページ → http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38490


アイドルの街・秋葉原の書店で始まった集客作戦

出版不況と言われて久しい。街からは書店が姿を消し、大型書店も苦戦を強いられている。2000年に2万1500店近くあった書店は2013年には1万4000店となった。3分の1が姿を消したことになる。

一方で、スマートフォンや電子メール、SNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及もあって、人々はかつてないほど「文字」を読んでいるとされる。ということは、書店での売り方に問題があるのではないかーーそんな思いから出版業界では様々な取り組みが試されているが、書籍取次ぎ大手の日本出版販売(日販)が書店大手の有隣堂と組んでユニークな企画を展開している。

新企画は『アイドルBOOKS』。その名のとおり、書店のフロア内にアイドル専門の書店『アイドルBOOKS』を開いてしまおうというもの。しかも、場所はズバリ、アイドルの街、東京・秋葉原。駅前の「有隣堂ヨドバシAKIBA店」内のイベントスペースに設けられた。

アイドルの写真集やグッズ、チェキ(インスタント写真)、評論書籍など、アイドル関連商品を販売する。また、「店長」であるアイドルが選んだ「好きな本」も、『アイドルBOOKS』コーナーに並べて、販売する。

ユニークなのは、実際にアイドルが「店長」として店にやってくる日を設けたこと。アイドルのインスタント写真が撮影できる「チェキ会」や、握手ができる「握手会」などが行われている。

店長を務めるアイドルは3月中旬まで週代わりで4組。2月17日から2月23日までは東北を拠点に活動している仙台在住5人組のガールズユニット「Dorothy Little Happy(ドロシーリトルハッピー)。2月17日には「店長」として来店し、イベントが行われた。

販売用に用意したチェキがあっという間に完売し、熱烈な固定ファンの存在を示していた。日頃なかなか書店には足を運ばない若者層に書店の魅力を知ってもらう端緒にしたいというのが企画の狙いでもある。

イベントは同じフロアにあるTOWER RECORDS秋葉原店とも連動。CDや書籍などの販売での相乗効果を狙う。同じフロアながら有隣堂TOWER RECORDSが連携したのは初めて。企画した日販がTOWER RECORDS秋葉原店に交渉して実現した。

「店長」を務めるアイドルは期間限定で交代する。2月24日から3月2日までは2011年に結成された女性アイドルグループ「アップアップガールズ(仮)(アップアップガールズかっこかり)」が務める。イベントは2月27日に行われる。

次いで3月3日から9日までは、2012年に結成されたアイドル音楽劇グループ「夢みるアドレセンス」が店長。イベントは3月7日に行う予定だ。さらに3月10日から16日は通称「ベルハー」こと「BELLRING少女ハート」が登場する。3月16日の最終日にイベントが行われる。今のところ3月中旬までだが、好評ならば第二弾の展開も考えたいとしている。

アイドルの発信力と書店の力を組み合わせてみたら…

今回の企画を発案、実現に漕ぎ着けた日販の経営戦略室事業企画課の正道寺裕子さんは、『アイドルBOOKS』の狙いをこう語る。

「書店はもともと文化の発信地だったと思うのですが、その力が弱まっているように感じます。一方でアイドル・グループは今いちばん発信力が高い存在です。ファッションにしろ、オシャレにしろ、様々な流行の発信地になっている。この2つを組み合わせたら新しいものが生まれるのではないかと思ったのです」

本が好きな正道寺さん自身が「面白い」と感じるかどうかを大切に企画を練ったという。

そんな『アイドルBOOKS』の展示の横には新しい取り組みの実験も行われている。ソニーなどが開発する近接無線転送技術「TransfarJet」の端末を店頭に設置したのだ。アイドルが選んだ「好きな本」について、なぜ好きなのかを聞いた動画を撮影。スマートフォンAndroid端末に転送できるのだ。動画はアイドル店長が交代するたびに毎週替える予定で、ファンにはたまらない企画となった。

書店の企画の定番と言えば、著者によるサイン会。その場で本を買った人にサインをする。ところが今回の『アイドルBOOKS』ではチェキなどアイドル関連グッズ自体を販売している。書店では豪華なファッション用品などを付けた付録付き書籍が人気を集めており、書店からは「本を売っているのかモノを売っているのか分からない」と言った声が出るほど。もっとも、道正寺さんが言うように「文化の発信地」と考えれば、本だけを売っていることのほうが問題なのかもしれない。

一方で、アイドル店長に「好きな本」を紹介してもらうことで、本自体への関心も引こうという戦略は、年々少なくなる愛書家だけをターゲットにするのではなく、顧客層を広げていこうという思いがある。

日販では「3 SPECIALBOOK S」という企画をウェブ上で展開しており、有名人や作家、アイドルなどが選んだ3冊を紹介している。『アイドルBOOKS』での「好きな本」はこの企画の書店店頭版だ。もちろん連動して「好きな本」はウェブでも紹介されている。

全国の書店の減少とともに書籍取次の業態が厳しくなっているのも事実だ。だが、配本を通じてできあがっている全国の書店のネットワークはまだまだ大きな潜在力を持っているというのが日販の見方。その書店が元気になる「仕掛けづくり」を担うことで、取次ぎとしての未来を拓く。そんな戦略が『アイドルBOOKS』の背後にある。