「国家戦略特区」に養父市・福岡市選定なら「岩盤規制」に穴が空く

今週現代ビジネスにアップされた記事です。記事には3月末閣議決定と書きましたが、スケジュールはやや遅れ気味で、2月28日までに開く国家戦略特区諮問会議で決定し、閣議決定は4月中旬になりそうです。水面下では猛烈な抵抗が巻き起こっているようです。


安倍晋三首相が「規制改革の1丁目1番地」と位置づける「国家戦略特区」の選定作業が大詰めを迎えている。

ビジネスの東京圏と先端医療の関西圏

2月25日には「国家戦略特別区域基本方針」が閣議決定され、政府の規制改革に対する基本的な方針や、特区指定の基準、区域計画の認定基準などが明示された。これを受けて具体的な地域の選定が進んでおり、近く開く国家戦略特区諮問会議(議長・安倍首相)で決定したうえで、3月末までに閣議決定する運びだ。

基本方針で示された特区には2つの類型がある。

まず第1は「比較的広域的な指定」とされるもの。広域的な都市圏を形成する区域という位置づけで、大都市圏が想定されている。

もう1つが「革新的事業連携型指定」と呼ばれるもので、規制緩和の分野が同じならば離れた複数の自治体を一括して特区に指定するもの。地域が飛び飛びになっていることから、「バーチャル特区」と呼ばれている。

特区への選定が現段階で有力視されているのは、前者の広域都市型では「東京圏」と「関西圏」の2つ。東京圏は、東京23区に横浜市川崎市の一部を加えた地域、関西圏は大阪市や神戸市に京都市の一部を加えた地域である。

東京圏は、グローバル企業が世界で最もビジネスのしやすい環境を整えることを目指して、職場や住居といった都市環境を整備することを第1に、邪魔な規制を取り除く。具体的には建物の容積率の緩和や、再開発規制の緩和などが柱になると見られている。

一方の関西圏は国際的な先端医療を可能にする規制緩和が大きな柱になる見込み。国際的な高度医療の拠点となる特区内の病院に対しては、従来の病院ごとに割り当てられた病床数の規制の枠外とすることや、先端医療の研究を促進するための研究開発税制の拡充などが進められる見込み。地盤沈下が著しい大阪経済を立て直す突破口にしたい考えだ。

広域都市型には名古屋を中心とする中京圏も有力視されていたが、今回は外れる可能性が指摘されている。

養父市は「中山間地の農業改革」のモデルに

もう1つの「革新的事業連携型」には、農業分野での提案をしている新潟市兵庫県養父(やぶ)市、さらに、雇用と起業分野で規制改革に斬り込む姿勢を示している福岡市が有力視されている。

農業分野で有望とみられている新潟市は、港湾や空港など既存のインフラを生かした農産物の輸出拡大を掲げているのが特徴。生産だけでなく加工・販売までを行う「農業の6次産業化」に拍車をかけるために輸出を全面に打ち出ししている。

兵庫県の中山間地にある養父市は、農地利用の規制を外し、市内外の企業との連携を積極的に進めることで農業を中心とした市の活性化を目指している。

「日本の地方の多くは中山間地での農業をどう立て直すかが課題で、養父市はそのモデルになる」と関係者は語る。改革派の市長が中心となり、古くからの有力農家や農協が支配する「農業委員会」など旧来型の仕組みに斬り込む意欲を見せている。

福岡市は解雇ルールの明確化といった雇用規制の緩和や税制優遇をテコに、ベンチャー企業を起こしやすい環境を整備する方針を打ち出している。

動き出した舛添都知事

前者の都市型特区は分かりやすい。経済のグローバル化に対応できるような都市に東京と大阪を作り直そうというわけだ。

2020年に開催が決まった東京オリンピックパラリンピックも視野に入れた街づくりを急ぐために、「国が主導し、国・地方・民間が一体となって、国家戦略として日本経済の再生に資するプロジェクトを推進する」と基本計画でうたっている。

アベノミクスによる円安の効果で、海外から日本を訪れる訪日外国人が急増。昨年は初めて年間1000万人を突破した。2020年には2000万人を目指すとしており、そのためにインフラ整備を行おうとしているわけだ。

定住する外国人ビジネスマンなどを増やすには、住居だけでなく、教育や医療なども国際的に最高水準のものを作る必要があるという観点から、特区の中ではこれまでの規制には縛られない教育や医療を可能にする仕組みが盛り込まれている。

教育分野では「公設民営学校」、医療分野では国際医療拠点として認定された特区内医療機関への「病床規制の緩和」などである。

東京都は知事が舛添要一氏に代わったばかりだが、3月に入って前田信弘副知事を座長とする庁内横断の組織「国家戦略特区タスクフォース会議」を設置するなど、認定に向けた体制を整え始めた。

東京都の特区指定をにらんで、森ビルや三井不動産など大手デベロッパーが特区提案を早い段階からしており、こうした民間事業者と東京都が連携して具体的な区域計画を策定していくことになる。

また、舛添知事は創薬の分野でアジアの中心拠点になることを目指す考えなども明らかにしており、今後検討して行くことになる見込み。「特区基本方針」には新たな提案を少なくとも年に2回受け付けることが明記されており、自治体や民間企業が追加で規制緩和項目を提案することができる仕組みになっている。

同様に特区認定が有力視されている大阪は、特区の推進役になる市長が選挙戦最中で不在の状態。橋下徹・前市長の辞職出直し選挙だが、自民党民主党など主要政党が対立候補を見送ったため、橋下氏の再選が有力視されている。3月23日投開票の結果を受けて、特区の具体策が動き出すことになりそうだ。

JAなどの岩盤規制に風穴が空くか

バーチャル特区で新潟や福岡、兵庫・養父が急浮上した理由は、安倍首相が繰り返し述べている「岩盤規制の突破口」になりそうな提案を出しているためだ。

とくに養父市が掲げる「農業」分野の改革は、全農(JA)などの根強い抵抗勢力がいる。国家戦略特区法には「農地法の規制除外」などが盛り込まれているが、いざ蓋を開けてみると主要な自治体ではJAなどに配慮して、農業委員会の権限に斬り込むような提案をするところはほとんどなかった。

その例外に近いのが養父市新潟市で、「何としても岩盤に風穴を開ける具体的な特区指定がしたい特区諮問会議のメンバーに強く支持されている」(安倍首相に近い自民党幹部)という。改革姿勢を強調してきた安倍内閣の支持率を保つにも、象徴的な岩盤規制の突破を特区で示したいという思いが働いていいる。

もちろん、JAなど農業団体は、たとえ特定の地域といえども蟻の一穴となって改革が全国に波及してはたまらないとしており、自民党の農林族を巻き込んで反対キャンペーンを展開する見込み。

特区が閣議決定されても、その後の具体的な地域計画の策定などで反対運動が展開される可能性は残っている。特区によって岩盤規制に穴が開くかどうか、目が離せない。