原発再稼働にも信念なし。安倍内閣にはエネルギー政策の司令塔がいない

日本の原発政策をどうするのか。国論を二分する問題なはずですが、信念を持って明確に語る閣僚は安倍内閣に見当たりません。皆、どこか逃げ腰なのです。国民を刺激せずに、なし崩し的に再稼働に向けて進んでいけばよい、と考えているのでしょうか。反原発にせよ、原発推進にせよ、正々堂々と国民の前で議論をすることが政治家に求められているのではないでしょうか。
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国のエネルギー需給に関する基本政策を定める「エネルギー基本計画」の決定に向けた手続きが大詰めを迎えている。

自民党内には党内議論が不十分だという意見がある一方で、執行部は公明党との与党協議を先行させている。高市早苗政調会長は3月20日をメドに与党協議を終えるとしており、安倍晋三内閣は3月中に閣議決定したい考えだが、なお曲折が予想される。

専門用語「ベースロード電源」に込められた意図

2月25日にまとまった政府の原案では、焦点の原子力発電の位置付けについて、「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」とした。

昨年末の素案の段階では「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と書かれていたが、「ベース電源」を「ベースロード電源」という言葉に置き換えたのである。一方で原案には、原発依存度は「可能な限り低減させる」という一文も盛り込まれている。

ベースロード電源とは、発電コストが他の電源と比べて低く、昼夜を問わず安定的に稼働できる電源を指す専門用語だという。原発を「重要なベース電源」と位置付けたことに党内外から批判が相次いだことから、一般にはなじみの薄い専門用語を持ち出してお茶を濁そうということだろうか。

国会質疑でも野党議員からこの点への質問が相次いだが、答弁を担当する茂木敏充経済産業大臣は「言語明瞭、意味不明瞭の典型的な答弁」(みんなの党所属の議員)に終始、政府の姿勢は今ひとつはっきりしないままだ。

「ベース電源」を「ベースロード電源」に置き換えるような言葉の置き換えは役人の専売特許である。一般にはわかりにくい専門用語を持ち出すことで、議論をあいまいにし、その時々の自分たちの都合がよい解釈に道を残しておく。

原発を積極的に推進すると明確に言っているわけでもないが、もちろん原発が止めると言っているわけではない。原発を可能な限り低減させるとも言っているが、この表現ならば、稼働が止まっている原発の再稼働もできる。

仮に原発を減らすとしても「可能な限り」という条件が付けてあるから、これ以上原発を減らすのは不可能だと言えば、老朽化した原発の建て替え(リプレイス)や新設にも道が開ける。つまり、日本のエネルギー政策を官僚たちの意向のままに、いかようにも持っていける文言になっているのだ。

なぜ、こんな基本計画案が出てくるのか。

それは、安倍首相や閣僚たちが原発について明確な考えを持ち、それを官僚たちに示していないからだ。要は原発問題の「司令塔」がいないのである。

どの大臣が「原発問題」担当者なのか不明確

安倍首相は原発の再稼働の必要性を強調しているが、それも「安全性が確認された」原発に限るとしている。安全性の審査をするのは政府から独立した原子力規制委員会だ。規制委員会は安全かどうかを判断するだけで、再稼働の決定は政治の仕事である。

ところが、あたかも原発再稼働の判断を規制委員会が負っているような格好になっている。「自分たちが再稼働にゴーサインを出すような格好になったので、委員がより慎重になって、作業がなかなか進まない」と資源エネルギー庁の幹部は言う。

司令塔不在はなぜ起きるか。ひとつは、安倍内閣の布陣に問題がある。原発担当の大臣が今ひとつ明確でないのだ。

安倍内閣で担当名に「原子力」「原発」が含まれる閣僚は3人。茂木・経産相は「内閣府特命担当大臣原子力損害賠償支援機構)」と「原子力経済被害担当」を兼ねる。

また、石原伸晃環境相は同様に「内閣府特命担当大臣原子力防災)」を兼ねている。さらに、根本匠・復興相は「福島原発事故再生総括担当」も兼ねている。

東京電力福島第一原子力発電所事故では、原発を推進する経産省と、安全性を保つ保安院などの組織が混然一体となって運営されたてきたことが、安全よりも原発推進を優先したと断罪された。

そんな反省から民主党政権時代は、環境大臣が「原子力行政担当」や「原発事故の収束及び再発防止担当」を務めてきたが、自民党政権交代して、その点が曖昧になった。

信念を持った原発推進論者もいない

結局、従来の原発政策を仕切ってきた経済産業省資源エネルギー庁が中心となって原発政策を進めることとなり、経産相が担当ということになっているのだ。茂木経産相が内閣を代表して原発政策に答弁する機会が多いのはこのためだ。

もちろん経産相原発推進論者が多い経済界の声も代弁している。経済界は、原発稼働によって電力コストの上昇を抑えるべきだという企業のほか、原子炉の開発や原発建設に関与している企業も少なくない。

石原環境相は除染については答弁するが、今後の原発のあり方など原子力政策についてはほとんど発言していない。復興相はいまだに被害に苦しむ福島県民と接する機会も多く、とうてい原発推進論など言えるはずもない。

明確な司令塔が生まれないのは、エネルギー政策について信念を持っている国会議員が少ないことに加えて、誰も批判を一身に浴びる覚悟がないことが大きい。

茂木氏ですら、答弁を聞いている限り、自らが積極的な原発推進論者として旗振り役を務めようという意志は感じられない。

司令塔も明確でなく、原発政策の将来像もきちんと描かないまま、安倍内閣はどこへ向かおうとしているのか。エネルギー供給のあり方について国民的な合意を形成する努力をしないまま、時間がたてば、なし崩しに再稼働が可能になっていくと見ているのか。

自民党議員は何事も信念を持った賛成派2割、同様に信念を持った反対派も2割、残りは日和見だ」と自民党元大物幹部は言う。ことエネルギー政策に関しても同様の構図が浮かび上る。

財界や電力会社の意向を受けて「積極的」に原発推進を求める議員は今は2割もいない。地方経済界で電力会社は有力な存在で、地方出身自民党議員のパーティー券も万遍なく購入している。

しかし、原発事故以降は、かつてほど大っぴらに電力会社の支援を受けるわけにもいかない。世の中の空気を読んでいる議員が少なくない。

今のままの「エネルギー基本計画」はアキレス腱に

一方で、「脱原発」と言われる議員もやはり2割には遠く及ばない。自民党河野太郎副幹事長が代表世話人を務める自民党エネルギー政策議員連盟は、突っ込んだエネルギー政策の議論をしている議員が多く、自民党内で異端視されているが、決して突拍子もないことを言っているわけではない。

40年の稼働期限が過ぎた原発から廃炉にし、時間をかけて脱原発を実現していくというもので、それまでは安全な原発から再稼働させることに、賛成している議員が多い。

時間をかけて脱原発に取り組んでいる間に技術革新が起きて、より安全な原発が生まれるかもしれないというのは、ドイツや米国などの発想に近い。

残りの6割は日和見だ。民主党野田佳彦内閣では福井県大飯原発を再稼働させたが、首相官邸には毎週金曜日に再稼働に反対するデモが押し寄せた。

子連れの主婦がデモに参加している姿を見て、自分たちの政権から国民の支持が離れていったの痛感したと当時の閣僚は振り返る。再稼働反対が事実上の倒閣運動の意味を持ち、政権にボディーブローのように打撃を与え続けたのだ。

国民の高い支持率を精神的な支えにしていると言われる安倍首相にとっても、仮に再稼働反対が盛り上がれば、内閣支持率に影響を与えることは必至だ。

官邸には、「細川・小泉の脱原発連携が不発に終わったので、再稼働を進めても心配はない」という声がある一方で、「都知事選と国政は違うので、支持率が低下しかねない」という読みもある。

昨年末の特定秘密保護法案採決や靖国神社参拝、その後の集団的自衛権を巡る姿勢などで、安倍内閣への国民の支持に変化が生じている。

党内議論を封じたまま、原案通りにエネルギー基本計画が閣議決定されたとしても、それで問題が解決するわけではない。このままでは、原発政策が安倍内閣のアキレス腱になるのは間違いがない。