「骨抜き」公務員制度改革法が可決!大熊利昭衆議院議員が明かす「内閣人事局は絶対機能しない」

安倍首相は改革派なのか、反改革派なのか、今ひとつ分からないのは公務員制度改革への取り組みです。第一次安倍内閣の時とは明らかにムードが異なります。現代ビジネスに掲載された原稿です。オリジナルhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/38710


 国家公務員制度改革関連法案が3月14日の衆議院本会議で、自民、公明、民主3党などの賛成多数で可決された。参議院での審議を経て4月中にも法案が成立する見通しである。政府は法案成立を待って、中央省庁の幹部人事を扱う「内閣人事局」を5月中にも設置したい意向だ。幹部人事の一元化は第1次安倍晋三政権からの課題だったが、霞が関には反対論が根強く、内容は大幅に後退した。

公務員制度改革を強く訴えてきたみんなの党日本維新の会は対案を出して抵抗したが受け入れられず、政府案に反対した。みんなの党で内閣委員会に所属し、法案審議に携わった大熊利明・衆議院議員に聞いた。

内閣人事局ができても今までと何も変わらない   

  公務員制度改革関連法が衆院を通過しました。

大熊 官僚機構の勝利ですね。2010年に野党だった自民党みんなの党とともに提出した法案からは大きく後退しましたし、2009年に自民党政権時代に出して廃案になった、いわゆる「甘利法案」と比べても後退している内容になりました。

  政府案ができれば、いちおう「内閣人事局」は設置されるわけですが。

大熊内閣人事局ができても、今までと何も変わらないと思います。政府提出の法案は、総務省人事院が持つ人事関連の機能の一部を移管するだけで、人事院などの従来の機能はほぼそのまま温存されます。

そこに内閣人事局が加わるわけですから、従来、三元人事行政体制と批判されていたものが、四元人事行政体制になり、機能不全がますます深まるだけです。みんなの党の対案では、人事院総務省財務省の人事関連機能を統合して内閣人事局を創設するとしていました。2010年の自民党案と同じ趣旨です。

  今回の法律が成立すると、幹部公務員を降任できるようになります。

大熊 いわゆる特例降任という規定ですが、一般職のまま幹部の枠内にとどまるので、実際にはほとんど降格はできないでしょう。法律に規定はあっても1件も実際には適用しませんでした、ということになるのではないでしょうか。今後も私たちは、国会質疑でしつこく、特例降任は何人出したかということを聞き続けていこうと思います。

  日本の公務員に対しては、しばしば「省益あって国益なし」と言われ、自分が所属する役所の利益ばかり考えると批判されてきました。600人の幹部公務員を首相官邸が一元管理する意味は大きいのではないでしょうか。

大熊 もちろんそうです。ただ、それを機能させる法律になっていないのです。官僚機構の抵抗の結果でしょう。

例えば、今回の法律で、幹部公務員に対しては適格性審査というものが実施されますが、内閣委員会の質疑でその審査基準を聞いて驚きました。従来所属する組織内の仕事ができているかどうかが審査基準になるというのです。

これでは国全体の事を考える能力や問題意識があるかどうか審査しようがありません。せっかく幹部人事を一元的に行うといっても、従来の基準でやっていたら意味がないでしょう。

「言語明瞭、意味不明瞭」だった稲田朋美大臣

  大熊議員はNPO法人の万年野党による全国会議員評価(185国会)で三ツ星の評価を受けました。質問時間や回数が多かったわけですが、公務員制度改革を巡る政府の答弁は明快だったのでしょうか。

大熊 大臣など政府側答弁の伝統的な作戦は、答えが何だか分からなくすることではないでしょうか。

「言語明瞭、意味不明瞭」と言われた政治家がいましたが、そういう大臣が今もいます。長く話すのだけれど、結局、やるのか、やらないのか分からないというわけです。公務員制度改革担当の稲田朋美大臣も問題が多かったですね。

 問 例えばどんな点ですか。

大熊 公務員の人事制度では「級別定数」というのがあって、どこの役所に何人配属するかが決まっています。この級別定数の設定と改定について、稲田大臣は、人事院の意見を尊重しつつ、内閣人事局で決めると答弁していました。

ところが、人事院総裁は「人事院の意見に基づいて実施される」と答弁していて明らかに食い違っていました。

予算を減らした官僚の人事評価を上げればよい

  公務員の人事評価の基本的な考え方が間違っている、と言っておられます。

大熊 日本の政府のバランスシートは大きすぎます。本来は不要な特別会計があるのにスクラップしません。官僚機構が自己増殖する体質があるからです。予算規模もどんどん膨らみ、それに伴って国の借金も増えてしまいます。

ですから、予算を減らしたら人事評価が上がるようにすれば良いのです。自分が所管している仕事のどこに無駄があるのか、一番知っているのは官僚自身です。

  現在は、予算をたくさん取ってくる課長が省内でも高く評価されているように見えます。このカルチャーをどう逆転させますか。

大熊 本省の局長以上の人件費は年間300億円ほどです。予算を減らした幹部には削減額に応じてボーナスを出したらよい。

それで人件費が10%増えたとしても、100兆円に迫る国の予算全体がわずかでも削減される効果の方が大きいでしょう。合理化を進めた幹部が偉くなったり、ボーナスが増えるのは民間企業ではごくごく当たり前の事です。

内閣人事局を機能させる気が今の官邸にはない

  先ほどの国会議員評価に関連して、国会議員の質問力についてどうご覧になっていますか。

大熊 テレビ中継が入る予算委員会にしばしば出てくるような有名議員の質問よりも、内閣委員会や財務金融委員会といった委員会で地道に質問している議員の質問の方が面白いですね。しっかり調べていて、議論も内容があります。

自分の仲間や先輩は別とすれば、民主党後藤祐一衆議院議員の質問は良いですね。経済産業省のご出身で、制度の仕組みなどを良く勉強しています。長妻昭さんも野党議員として質問する時のキレはいいですね。

民主党は中堅議員を中心に人材がいると思います。共産党の質問はさすがだと思いますね。佐々木憲昭議員の質問など聞いていて勉強になります。

  一方でダメな質問もありますか。

大熊 ええ。民主党の大臣経験者が。その分野の事をまったく知らないので驚いたこともあります。役所が作った質問をそのまま読み上げていましたね。大臣時代も役所の言いなりだったんでしょうね。

政治か手動で官僚機構を使いこなしていくのは大変な事だと感じます。

  みんなの党が「骨抜きだ」と批判する今回の法律でも、霞が関にはいまだに強い抵抗があります。官僚出身の自民党参議院議員などにはまだまだ反対意見が多いようです。内閣人事局は首相や官房長官がその気になれば機能させることもできるのではないですか。

大熊 確かに官僚組織との軋轢を覚悟できれば、機能させられると思います。しかし、内閣委員会などでの議論を通じて、安倍内閣には公務員制度改革を本気でやる気がないと感じています。

内閣人事局を機能させようという気持ちは今の官邸にはないのではないでしょうか。われわれが政権を取れば話は別ですが。