時計への消費増税の影響は株価次第

クロノス5月号に掲載されたコラムの原稿です。
オリジナル→http://www.webchronos.net/

Chronos (クロノス) 日本版 2014年 05月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2014年 05月号 [雑誌]

 消費税率がいよいよ5%から8%に引き上げられた。
3月までは駆け込み需要の急増で活況に沸いた住宅や自動車だったが、
その反動減がどれぐらいになるのか懸念する声も多い。
消費の足を引っ張るのは間違いなく、おおかたのエコノミストは、
4−6月期の国内総生産(GDP)の増減率は前期比マイナスになると見ている。
では、高級時計への消費増税の影響はどうなるのだろうか。

 安倍晋三首相がいわゆるアベノミクスを掲げて以降、高額品消費に火が点いた。
全国百貨店協会が毎月集計している「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高の対前年同月の増減率は、
2013年1月以降、本格的な伸びが始まり、3月からはほぼ毎月2ケタの伸びが続いている。
高額の宝石や高級時計などが売れまくっているわけだ。

 今年1月の同部門の伸び率は22.6%。1年前も6.8%増えており、基準になるベースが
高かったにもかかわらず、大きく増えた。
安倍内閣が発足して以降でみると、昨年5月の23.3%増に次ぐ高い伸び率となった。

月ごとの伸び率の変化を見ていると、面白いことに気が付く。株価の上昇に連動しているのである。
株価が大きく上昇した後に、高額品の売り上げが大きく伸びるのだ。

 例えば、昨年4月には、黒田東彦日本銀行総裁が「異次元の金融緩和」政策を発表したのをきっかけに、
日経平均株価が大きく上昇したが、その後の5月は前述の通り23.3%増という大きな伸びになった。
5月後半に日経平均株価が急落すると6月は売り上げの伸び率が鈍化。7月と9月は株価が上昇基調だったが、
同様に8月と10月の伸び率は高くなった。
そして12月末には日経平均株価が一時1万6000円を付け、
1月の高額品は22.6%の売り上げ増加となったのだ。

 こうした株価の上昇に伴う高額品消費の伸びは「資産効果」と呼ばれる。
株式を保有している生活に余裕のある層の資産価値が、株価が上がったことで膨らみ、
その価値増加分が消費に回るという考え方だ。
実際に株式を売買して現実の利益を手にしていなくても、
保有している株価の「含み益」が増えるだけで消費するというものだ。
言ってみれば「財布のひもが緩む」のである。

 こうした生活に余裕のある層は、比較的高齢の人たちが多い。
消費するといっても生活必需品の量を増やすわけではないので、
高額のぜいたく品と言われるものに矛先が向く。
とくに百貨店の高級宝飾・貴金属売り場を訪れる顧客は圧倒的に豊かな高齢者が多い。
特ににこうした世代は百貨店が好きなので、資産効果の恩恵が百貨店に現れるのである。
ただし、一方で、資産効果消費の対象は不要不急のものなので、
株価が下落すれば、すぐに財布のひもは締まってしまう。

 昨年1年間で日本の株式は、外国人投資家が15兆円も買い越した。
株価上昇の原動力は外国人だったのだ。一方で日本人個人投資家は売り越しだった。
株価が上昇したメリットを実際の利益に変えて手にした個人が多かったということだ。
それが高額品消費に回ったということも言えるだろう。

 年明け以降、株価は軟調である。1月は買い越してきた外国人投資家が1兆円も売り越した。
株価の下落に加えて、消費税が上がったことから4月以降の高額品消費の伸び率は鈍化する可能性が大きい。

 では、これで株価上昇も、それに伴う高額品消費の伸びも止まってしまうのか、というとそうではない。
1月以降、個人投資家が株式を買い越す場面が増えているのだ。
株価が下がったところで日本株を仕込んでいるのである。

 これで株価が上昇すれば、再び「含み益」や「実現益」を手にする個人が増えることになる。
資産効果」が再び顕在化する可能性があるのだ。
安倍内閣は昨年打ち出した「成長戦略」の改定を6月をメドに打ち出す準備を進めている。
経済成長につながる大胆な改革の方策を安倍首相が示すことができるのか。
アベノミクスへの期待から再び株価が上昇するかどうかで、
高級時計の売れ行きは大きく左右されることになるだろう。