ROEブームがやってくる

6月末に閣議決定される成長戦略の骨子が明らかになりましたが、そこには、「日本企業の稼ぐ力=収益力を強化」というタイトルがあり、コーポレートガバナンスの改革がうたわれています。日本企業の収益力は国際的にみてかなり低いわけですが、これが国際水準になるだけで、間違いなく株価は上昇します。ROEの重要性が言われて久しいですが、ようやく本気で日本の経営者がROEを重視する時代が来そうな気配です。フジサンケイビジネスアイの1面コラムです。オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/140613/mca1406130500007-n1.htm


 国会会期末に向けて安倍晋三内閣は、経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と成長戦略、規制改革の方針の3つを閣議決定する。いわば、今後のアベノミクスの目指す方向を示す「政策パッケージ」で、これをベースに年末に向けた予算編成や税制改正臨時国会や来年の通常国会での法律改正など具体的な作業が始まる。

 今回の政策パッケージで目を引くのが、日本企業の経営のあり方を根底から見直す方向性が示されていること。法人税率の引き下げを打ち出す一方で、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化を打ち出した。税率を国際水準に引き下げる代わりに、日本企業の経営も国際水準にするよう促していくというものだ。

 6月3日に経団連の定時総会に出席した安倍首相は、「コーポレート・ガバナンス指針(コード)の策定を成長戦略に位置付ける」と表明した。自民党の日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)が5月末にまとめた提言を引き取った格好だ。ガバナンス・コードは「日本企業のあるべき姿(ベスト・プラクティス)」を示すもので、具体的な内容は今後、有識者会議で詰められるが、独立した社外取締役の活用や株式持ち合いの解消などを促す。

 経団連はもちろん、法人税率の引き下げには賛成で要望もしているが、ガバナンスの強化には抵抗している。社外取締役の義務付けにも最後まで反対した。それを承知で、本丸に乗り込んで注文を付けたのである。当日は東レ会長の榊原定征氏を新しい経団連会長に選んだ総会。安倍首相に機先を制される格好になった。

 なぜ、安倍内閣は成長戦略にコーポレート・ガバナンス・コードを盛り込むのか。背景にあるのは、経営陣にプレッシャーがかからず、低収益に甘んじている、という見立てだ。社外取締役など外部の目が入れば、説明が付きにくい不採算事業などを抱え続けることができなくなる。すべての原因はガバナンスの「緩さ」にあるというわけだ。

 これに最近、同調しているのが財務省。安倍首相に法人税率引き下げを強く求められているが、ならば企業の規律を高めるのが先だ、というのだ。麻生太郎副総理兼財務相は「法人税を下げた場合、何に使うのか。内部留保に回るのなら何の意味もない」「だからこそコーポレート・ガバナンスが必要だ」と強調している。ガバナンスが強化され、企業の収益率が改善し、利益が増えれば、当然のことながら税収は増える。ガバナンス改革は税収増に直結する。

 そこで俄然(がぜん)注目されるようになった経営指標がROE(株主資本利益率)である。株主資本(自己資本)をいかに効率的に使い利益を稼いだかを示す指標。昨年6月の成長戦略で「グローバル企業」で構成する新しい株価指数の導入が提言され、今年1月から算出が始まった「JPX400」では、ROEの高い企業が選ばれる仕組みになった。投資指標として使う投資家が増えており、企業経営者の間でもROE引き上げが大きな課題になりつつある。

 ROEを引き上げるには利益を上げる方法もあるが、一方で資本を減らす方法もある。無駄に手元で眠っている資金で自社株を買って消却すればROEは上がる。麻生財務相の不満に答えることにもなる。実は、米国の長年の株高の背景にも自社株消却があった。

 ROE時代が本格的に到来すれば、利益が増え、税収も増える。一方で自社株消却が増えれば、株価も上昇する。それが従業員の給与増や、消費増につながれば、アベノミクスの目指す経済好循環は実現する。そんな狙いがガバナンス強化の背景にある。(ジャーナリスト 磯山友幸