第三者委員会報告書格付け委員会を作った 久保利英明弁護士インタビュー 「会社が潰れかねない厳しい報告書が結果的に会社を救う」

数年前の事、青山学院大学の八田進二教授に取材した時のこと、「いい加減な第三者委員会で弁護士が金儲けするのはけしからん」と怒っていました。弁護士の久保利英明さんが始めた第三者委員会報告書の格付け委員会に監査論の八田教授が加わったのは、ある意味、秀逸な人選と言えるでしょう。格付けする報告書は年に4つですが、うるさ方の久保利さんや八田教授、國廣弁護士に一刀両断にされるかもしれないと思うと、いい加減な報告書は出せないと「抑止力」が働くのは間違いないでしょう。現代ビジネスでインタビューを掲載しました。→
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39585

企業が不祥事を起こすたびに第三者委員会を設け報告書をまとめるのが定番になっている。ところが、会社が意のままになる弁護士らを雇って、問題を事なかれで丸く収めようという下心が感じられる報告書も少なくない。

そんないい加減な第三者委員会は許さないと立ち上がったのが、「第三者委員会報告書格付け委員会」である。さっそく厳しい評価を下し始めた委員長の久保利英明弁護士に狙いを聞いた。

企業と弁護士双方に襟を正してもらうのが目的
 問 格付けを始めて反響はいかがですか。

 久保利  弁護士業界からはエライもんを作ったな、と言われているようです。第三者委員会に関与する弁護士は少なくありませんが、うちの委員会の格付けで不合格である「F」を食らったら面目が丸潰れになるというわけです。格付け対象にできるのは年間4社の報告書だけですが、予想以上に波及効果がありそうです。企業と弁護士の双方が襟を正してくれれば、目的は達成できたことになります。

 問 一発目の格付け対象として、みずほ銀行が設置した「提携ローン業務適正化に関する特別調査委員会」の調査報告書を取り上げました。格付けは厳しい結果でしたね。

 久保利 本文を読んで、ダメだなと思いましたね。評価に加わった私以外の7人も同じように感じたのではないでしょうか。評価が不合格のFを除いた最低のDに4人とその上のCに4人でした。CとDの違いは同情する余地があると感じたかどうかではないでしょうか。

報告書は20日で仕上げたそうですが、これを同情すべき点と考えた委員はCを付け、私のように20日で不十分なら中間報告として出して、さらに調査を続けるべきだったと考えた委員はDを付けたということでしょう。

厳しい報告書を書いたほうが結果的に会社は救われる
 問 金融庁などと違い委員会には調査権限がないから限界があると言う人もいます。

 久保利 NHKの記者らによるインサイダー取引疑惑を調査した第三者委員会で私が委員長、國廣正弁護士が委員を務めたことがありますが、この時は業者を使って消去されたパソコンデータの再生までやりました。委員全員への報酬以上の費用がかかったはずです。

三者委員会が会社と本気で向き合い、存在する資料をすべて提出させる権限を引受時に契約に盛り込めば、かなりの事が分かります。そこまでやらずに調査権限がないとか、日数が少なかったと言うのは言い訳に過ぎません。

 問 不祥事を事なかれで済ませたい馴れ合いの第三者委員会が多いということですか。

 久保利 そうですね。本来、第三者委員会は、会社が潰れるか、委員を引き受けた弁護士が潰れるかぐらいの真剣勝負の場だと思います。会社が潰れかねないくらい厳しい報告書を書いたほうが、結果的に会社は救われる。自浄作用が働いていると世間から見られるからです。

そもそも第三者委員会が安易に作られ過ぎのように思います。社内の調査委員会でも良いものを、わざわざ社外とうたうことで、世の中に信用していもらおうという甘い考えがあるのではないでしょうか。その実、顧問弁護士の紹介で融通の利く弁護士を委員に据え、会社の意向を忖度してもらう。これでは調査の深度もスコープも不十分になるのは言うまでもありません。

 問 会社から報酬を得ている以上、第三者と言っても独立性はないのではないか、という意見もあります。

 久保利 第三者委員会委員の報酬を開示させるのは1つの方法でしょう。個別に報酬開示することには抵抗が強いようですが、せめて総額の報酬と、何時間かかったかを示すべきです。弁護士は基本的にタイムチャージで仕事をするようになっていますので、おおよその報酬の見当が付きます。国選弁護にせよ、仕事の相場というのはプロの間では分かっているもので、本来は開示しても何ら問題ないように思います。

あくまで第三者委員会の報告書いっぽん主義
 問 格付け委員会では優れた報告書を表彰すると言っていますが、評価に値する報告書は出てきそうですか。

 久保利 会社も委員も本気になって原因究明をするケースはあります。私が委員として参加した例で言えば、冷凍食品への農薬混入事件があったマルハニチロのグループ会社だったアクリフーズ(当時、現在はマルハニチロに合併)の第三者検討委員会では、一社員による事件とは捉えず、会社全体のガバナンス(統治)システムの問題と捉えて、徹底究明を図ったのです。

4月30日に中間報告を出し、5月29日に最終報告書をまとめました。そこでは、ぜい弱なガバナンス体制やコンプライアンス(法令順守)意識の低さなど事件を招いた企業風土にも切り込んでいます。グループの中でアクリフーズが「疎外」されていたことが事件の背後にあったと分析しました。

さらに、第三者検討委員会から社会への提言と題した別紙を付けました。委員に加わった科学ジャーナリスト松永和紀さんの発案で加えたのですが、プライベート・ブランドのオーナー企業ごとに、本来は同じ製品なのに管理がバラバラだという社会全体として改善しなければならない問題点を指摘しています。これは従来の第三者委員会にはなかったユニークな発想です。

 問 格付け委員会は久保利さんを含む9人の委員で構成されています。運営はどうやっているのですか。

 久保利 独立性を確保するために、委員各自が資金を出し、足りない分は私が出しました。外部からの資金は一切もらっていません。ホームページの作成費用がかかったくらいで、委員は無報酬、つまり手弁当で評価しています。各委員ともそれぞれ報告書に目を通しています。

どの会社の報告書を格付け対象にするのかを話し合うために1回集まり、その後はそれぞれの評価を持ち合って再び議論します。これは意見を調整するためではなく、気が付かなかった視点などを共有するのが狙いです。これで3カ月の1社をこなします。すでに第2弾として粉飾決算問題を起こしたリソー教育が設置した第三者委員会の調査報告書を取り上げることにしました。8月末には格付け結果を公表します。

 問 報告書の格付けに当たって会社や委員から意見聴取はしないのですか。

 久保利 あくまで報告書いっぽん主義です。書かれている事を評価するというスタンスです。いくら調べていても報告書に書いていなければ世の中には伝わらないわけですから。公共財として開示の深度というものも大事だと思います。

委員の意見が前向き評価のAやBと、後ろ向き評価のCやDに二分するような報告書が出て来ると面白いと思います。どういう点で評価が分かれるのか、今後の第三者委員会のあり方を問い直すような格付けができればと思っています。