あなたはタックス・ペイヤーか それともタックス・イーターか 税金の使われ方を透明化する

「復活のキーワード」は2011年の東日本大震災を受けて月刊WEDGEで始めた連載でした。当時、批判一辺倒のマスコミに対する国民の反発をヒシヒシと感じていました。できる限り提案型の政策コラムにしたい。そんな思いで3年にわたり様々なテーマを取り上げました。震災から3年がたち、もはや「復活」ステージではないだろう、という事で、一応の区切りをつけることにしました。その最終回がこの原稿です。ちなみに7月号から新コラム「地域おこしのキーワード」が始まりました。
オリジナル→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3886

財政状況の悪化を背景に、国民からも消費税率引き上げは受け入れられた。しかし歳入を増やしても、支出の削減に取り組まなければ、赤字垂れ流しは終わらない。個人にとっても同じことが言える。支払う税金より、受けるサービスの方が多い人は、「タックス・イーター」と呼ばれる。イーターが増えれば、そのツケは再び国民に返ってくる。

東日本大震災をきっかけに始まったこのコラムは、単なる政策批判にとどまらず、日本復活に向けた具体的な提言をすることが狙いだった。諸外国の例や取材する経営者らのアイデアを盛り込んで、問題を指摘するだけではなく、新しい視点を提示するように心掛けてきた。中にはその後、政府の政策に反映されたものもあれば、まったくの空振りに終わっているものもある。震災から3年がたち、景気にも明るさが見えてきたので、ひとまず連載を終えることにしたい。

 もちろん、まだまだ日本は復活したと言える状況になったわけではない。中でも多くの知識人が「危機的」と指摘するのは、日本政府の過大な借金である。財務省が発表する「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、昨年12月末時点の残高は1017兆9459億円。この連載を始める直前の2011年3月末は924兆3596億円だったから100兆円近く増えたことになる。借金は減るどころか増え続けているのである。

 財務省が強調するように、GDP国内総生産)対比でも増え続けており、13年末で日本は224%。米国の113%や英国の110%、イタリアの130%を大幅に上回る先進国最大の借金国になった。しかも毎年、増え続けているのだ。

 では、本気で借金を減らそうとすれば、どうするか。まずやるべきことは増え続ける借金を抑えること、つまり出血を止めることだ。企業でも家計でも、毎月の赤字を出さないようにするのは常識である。赤字を出さないためには収入を増やすか支出を減らすしかない。霞が関からすれば支出を減らすのは大変なので、収入を増やすことばかり考える。国の場合、国債などの借金も収入として扱われるので、どんどん借金する。あるいは税率を引き上げることで収入を増やそうとする。なかなか支出の削減には取り組まない。

 多くの国民は国の借金は大きな問題だと理解している。だからこそ、4月からの消費税率引き上げも受け入れた。収入と支出のバランスを借金なしに取り戻す水準を「プライマリー・バランス」と言うが、そこにはまだまだ遠い。支出の削減に本気で取り組まないので、赤字の垂れ流しが続いているのだ。

 もちろん、アベノミクスの成長戦略で経済規模を大きくすれば、GDP比の借金は小さくなる。また、景気が良くなれば税収も増えるので、赤字体質から脱却するには経済成長は不可欠だ。だが、ここまで積み上がった借金を減らすには、成長だけでは不十分。支出の見直しが不可欠なのだ。

 欧米には「タックス・ペイヤー」と「タックス・イーター」という言葉がある。前者は日本でも普通に使われるが、後者はあまり聞かない。税金を無駄遣いしている人と批判的に使うこともあるが、ここでは悪い意味には取らない。単に国家財政に「貢献している人」と「依存している人」と分けて考えてみる。

 政治家や公務員はどんなに良い仕事をして社会に貢献しても税金から給料をもらっている以上、「タックス・イーター」である。給与から税金を払っていると言うだろうが、元をたどれば税金である。年金生活者も広義の「タックス・イーター」だ。今まで保険料を払ってきたからもらうのは当然の権利だと言うだろうが、日本の年金は積立方式ではない。国が社会保障費を負担しなければ制度はもたないのだ。

 では、働いている人は全員が「タックス・ペイヤー」かというと必ずしもそうとは言えない。支払う税金よりも、行政から受けているサービスの方が多い人は「タックス・イーター」ということになる。もちろんひとりの人が「タックス・ペイヤー」と「タックス・イーター」の両面を持っているので、差し引きどちらかと考えるわけだが、「タックス・ペイヤー」より「タックス・イーター」が多いから借金がどんどん増えているとも言える。

 埼玉県の上田清司知事は、緻密なデータを駆使して行政刷新に取り組んでいることで知られる。例えば、県の一般会計予算(1兆6764億円)がどう賄われているかを県民数で割って示し、県税で賄っているのが8万4000円、借入金が4万7000円、地方交付税や国庫支出金が10万2000円と歳入構造を示す。一方で、県が支援する子育て支援は子どもひとり当たり5万4000円。さらに公立の小中学校の教育に関わる行政コスト3357億円を生徒数で割ると、ひとり当たり58万円になるという具体的な数字を県民に訴えている。つまり、どれだけの負担でどれだけの便益を得ているかを見える化しているのだ。

 上田知事は繰り返し「事実を知ることが大事だ」と訴えている。埼玉県のある学校の不登校率が6%に達していることが分かったことで、初めて本気になって有効な対策が打てた。その結果、翌年には不登校率は半分になった、という。このほかにも、犯罪発生率や、学力水準、果ては県税の徴収率など様々なデータを地域別に示すことで、状況の改善に結び付けてきた。事実を示して、問題の所在が分かれば、現場の人たちは改善しようと努力するのだ。

 埼玉県では県出資の民間会社などへの天下りを廃止し、民間人に経営を任せた。その結果、赤字が常態化していたこうした企業は黒字化した。埼玉県の職員数は人口比で全国で最も少ない。全国平均のほぼ半分の人数で行政を賄っている。

 国民や住民からすれば、行政サービスを充実させろ、というのは当然の要求である。だが、そのためにどれぐらいのコストがかかるのかが示されることはほとんどない。公務員は予算を使うのが仕事だから、コスト感覚は生まれない。さらに、行政組織はどんどん自己増殖していく。住民の要求を汲み上げる議員とコスト感覚なく自己増殖する公務員が組み合わされば、当然の帰結として赤字が慢性化し、借金のヤマになるのだ。

 借金が増えて大変だと騒ぐ財務省の官僚たちは、増税には一生懸命だが、支出を減らすためのコストの把握や公表には消極的だ。支出削減に行政サービスを縮小せよという声が強くなれば、それを支えている行政も同時にスリム化しなければならなくなる。そうなれば役所の権限も天下りポストも減っていく。残念ながら数字に弱い政治家は、役所の権益に斬り込んではいけない。

 あなたは、タックス・ペイヤーか、それともタックス・イーターか。前者ならば、もっと税金の使われ方に目を光らせよう。数字は嘘をつかないから、数字を基に理詰めで考えるべきだ。

 もし後者だと感じたら、同じ行政サービスがもっと安くできないか考えよう。官業を民間に移管できれば、タックス・イーターが減り、タックス・ペイヤーが増えることになる。このまま赤字を垂れ流していては、そのツケは国民に回ってくるのだから。