政府を企業に例えれば、売り上げは「税収」と「借金」です。だから役人は税率引き上げと借金増やしに邁進するワケです。そのためには、どんどん予算を膨らませ、歳出を増やします。なぜって、減らすインセンティブはまったくないからです。借金がどんどん増えても、幹部公務員の給料はどんどん増えます。現代ビジネスにアップされた記事です。オリジナル→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41299
安倍晋三首相が目指す「経済の好循環」がひと足早く実現する“業界”がある。国家公務員だ。
国家公務員は賞与16.5%増という試算も
12月10日に支給される年末ボーナスは前年に比べて11%以上の大幅増額になる。4月の消費税率引き上げと同時に、給与も8.4%増えており、まっ先にアベノミクスの恩恵を享受している。
民間では円安による企業業績の好調がなかなか給与や賞与の増加に結びつかず、むしろ物価上昇によって実質賃金は目減りしている。国が抱える借金は昨年、1000兆円の大台を突破、世界有数の赤字組織のはずだが、リストラするわけでもなく、ボーナスが大盤振る舞いされる。何かおかしくないだろうか。
ボーナスが大幅に増えるのは2012年度、2013年度と2年間にわたって実施されていた減額措置が今年度から終了したためだ。「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み」給与減額支給措置が取られ、給与は平均7.8%、賞与は約10%が減額されていた。4月から7.8%減が元の水準に戻ったので、給与は8.4%増加。ボーナスは10%減が元に戻るので11%以上増えることになる。
さらに、今年8月には人事院が月給を0.27%、賞与を0.15カ月分引き上げるよう勧告しており、これもボーナスには反映される。民間のシンクタンクによっては、賞与は16.5%増えるという試算もある。
特例で減額が決まった引き金は東日本大震災だった。復興のための財源をねん出するためだとして所得税や法人税に「復興特別税」が上乗せされた。民間に増税を求めるうえでも政府が身を切る姿勢を示すことが不可欠だったのだ。法人復興税は前倒しで廃止されたが、所得税への上乗せは25年間ということになっており、今も続いている。年間の税収増は、所得税の上乗せ分だけで3000億円にのぼる。
特別措置による国家公務員給与の削減額は3000億円程度だったので、今年度はその分がそっくり増える。復興税は被災地に使うことになっているが、カネに色があるわけではない。増税分がそっくり公務員給与に回ったと見てもいいだろう。
今回の賞与増について霞が関では、「特別措置が終わったのだから、元に戻るのは当然だ」という反応が多い。民間企業では一度減ったボーナスはなかなか元に戻らないが、霞が関の常識は違うのだろう。
特例措置の前提だったはずの、「東日本大震災への対処」も終わったわけではない。ましてや、「厳しい財政状況」はまったく改善していない。国債費などを除いた一般の歳出を税収で賄なうプライマリーバランスさえ達成していない。単年度赤字を出し続けている会社が、ボーナスを大幅に増やすなどということは、民間の常識では考えられない。
「財政破綻」でも収入増、後ろめたくないか
いやいや、公務員は安月給で働いているのだから、給与を上げなければ優秀な人材は雇えない、という声もある。確かに、課長補佐以下の現場の職員の給与水準は決して高いとは言えないが、長い間、下落し続けてきた民間給与と比べ、大きな差がなくなってきた。
課長以上の幹部になれば、民間をはるかに凌駕する。
人事院が勧告する公務員給与は民間並みが前提で、民間を大きく上回ることはない。だが、現実には勧告対象から管理職以上を外しており、平均額が実態よりも低く見えるような仕組みになっている。それでも、人事院自身が認めるように、50歳を超える公務員になると、給与は民間よりも高い。
もちろん、国の財政や予算を考える幹部公務員の給与・賞与はさらに高くなる。人事院が資料に示す「モデルケース」でも、45歳の本省の課長の年収は1200万円、局長になれば1747万円に跳ね上がる。
もちろん、優秀な官僚が高い報酬を得ることに反対しているわけではない。だが「このままでは財政が破綻する」と危機感を煽り、「消費税率は10%にしてもまだまだ不十分」だと増税を求める一方で、自分たちの給与や賞与を大きく増やすことに、後ろめたさを感じないのだろうか。財政赤字の拡大は自分たちの責任ではない、と言いたいのだろうか。
第1次安倍内閣で公務員制度改革に斬り込んだ安倍首相は、一変して公務員に理解のある宰相に変貌したようにみえる。霞が関を敵に回したことが短命政権につながったと思っているのだろうか。民主党が霞が関を敵に回してまで実現した給与削減の特例法をさっさと廃止にして、満額、元の水準に戻したのは驚きだった。しかも消費増税とまったく同じタイミングでの給与増にもかかわらず、世の中の批判は高まらなかった。
アベノミクスを成功させるためには、消費に火をつけなければならない、という経済政策が優先された、と見ることもできる。民間に給与を増やせといってもなかなか実現しないが、公務員給与ならば、政府自身で決められる。
公務員が手取りが増えた分を消費に回せば、「経済の好循環」のきっかけになるかもしれない、というわけだ。公共事業を増やすよりも公務員給与を増やす方が手っ取り早いと考えたのか。アベノミクス流の「コンクリートから人へ」だったのかもしれない。
地方公務員への「バラマキ」を地方創生に生かせ!
国は、特例措置で給与の減額が決まった際、地方公務員にも同規模の削減を求めた。地方自治体は猛烈に反発したが、同調しない自治体には地方交付税交付金の支払いを遅らせる嫌がらせまで行って、引き下げさせたのだ。これが、特例措置の終了で、国同様、元に戻ることになった。地方公務員の給与もボーナスもやはり同様に増えているのだ。
地方の中小都市に行くと、地域の消費を支えているのは圧倒的に公務員など「官業」の職員であるケースが多い。県庁、市役所、農協、金融機関、電力会社などだ。
現金収入のある職業がこうした「官業」ばかりになっている産業構造にこそ地方の問題があるのだが、こうした官業依存度はますます高まっている。県庁や市役所の職員が飲みに行かなければ、地方の繁華街は火が消える、というわけだ。逆に言えば、地方公務員のボーナス増は、景気の下支えに役立つというのである。
では、果たして、公務員給与の「バラマキ」は景気にプラスに作用しているのだろうか。公務員の場合、今年夏のボーナスも前年に比べて大幅に増えていた。同様に特例措置がなくなったからだ。だが、残念ながら、夏以降、4月の消費税増税の影響がジワジワと出て、全国の消費は停滞している。
公務員、とくに高額の年末賞与を手にする霞が関の幹部公務員の皆さんには、是非とも増収分を貯蓄などに回すのではなく、すべて消費に回して、景気浮揚に務めていただきたい。