安倍政権は中国経済頼み! 日中貿易7.5%増、訪日中国人は1.8倍に

日中「政冷経熱」が鮮明になっています。もはや中国にとっても、日本にとっても、経済での相互依存関係は強くなっており、そう簡単に、経済関係までもぶち壊すような反日政策などは取りにくくなっているように思えます。現代ビジネスに書いた原稿です。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41900

海上保安庁の発表によると、1月27日、沖縄県尖閣諸島久場島沖で、中国海警局所属の公船「海警」2隻が日本の領海を侵犯した。2014年1年間だけでも中国船による尖閣諸島海域での領海侵犯は30回を超えており、日中間の政治的緊張関係は続いたままだ。

対中貿易赤字は過去最大
だが、経済関係に目を転じてみると、様相はまったく違う。相次いでまとまりつつある2014年の統計数値をみると、政治は冷え込んでも経済関係は熱い「政冷経熱」が鮮明になっていることが分かる。

財務省が1月26日に発表した貿易統計によると、2014年1年間の日本から中国への輸出額は13兆3844億円と6%増えた。また、中国から日本への輸入額は19兆1705億円と8.6%増えた。輸出入を合わせた貿易総額は32兆5550億円と7.5%の増加だった。いずれも、過去最高の金額である。

中国からは半導体など電子部品や通信機器の輸入が大幅に増えた一方、日本からは自動車や化学光学機器などが大きく伸びた。鉄鋼や非鉄金属、金属製品など輸入も大きく伸びており、日本の製造業が最終製品を作るに当たって必要な原材料を中国からの輸入に依存している姿が浮かび上がる。

当然、輸出よりも輸入の方が増え方が大きいため、対中貿易赤字額は5兆7861億円と15%増え、過去最大を更新した。景気の減速懸念が広がっている中国からすれば、日本向け輸出で稼ぐ貿易黒字は年々大きくなっており、経済的に無視できない規模になっている。

国内経済が頼みの綱の日中トップ
日中間の貿易は2000年以降、順調に拡大してきたが2回にわたって大きな影響を受ける。1回目は2008年に世界を震撼させたリーマンショック。貿易が世界規模で収縮した影響もあり、2008年は日本からの輸出が0.9%増、輸入は1.4%減とともに悪化した。その影響が最も大きかったのが2009年で、輸出入ともに20%を超える大幅なマイナスとなった。

2010年には輸出入ともに二ケタの伸びに戻ったが、そこで起きたのが尖閣諸島を巡る政治的な紛争だった。日本政府が尖閣諸島の国有化に踏み切るなど、日中間の緊張が最も高まった2012年には、日本から中国への輸出は11%近く減少した。反日暴動が起き、日本企業の工場が襲われるケースも出たことで、日本企業の対中ビジネスに対するマインドが急速に冷え込んだことが背景にあった。中国からの輸入額の伸びも2.7%増にまで落ち込んだ。

2012年末に安倍晋三政権が誕生すると、その後は「日中冷戦」とも言える政治的な対立が続くことになるが、経済関係は2013年以降、急速に回復に向かった。

日本からの輸出額は2013年に9.7%増となり、2014年は6.0%の増加、一方の中国からの輸入額も2013年には17.4%増え、2014年は8.6%伸びた。昨年11月に北京で行われたアジア太平洋経済協力会議APEC)で、安倍首相と習近平主席が初めての首脳会談を行ったが、政治的な「融和ムード」はまったく出来上がっていない。

中国ウォッチャーによると、習主席の現在の最大の関心事は政敵の排除。このため、国民の批判を浴びかねない対日融和姿勢は取れないものの、日本と本気で事を構える気もない、ということのようだ。

また、国民の支持を失わないためには、まがりなりにも経済成長を続けることが不可欠で、日中間の経済取引を落ち込ませるような事態も避けたいということのようだ。つまり、習体制では当面、日中は「政冷経熱」が続くという見方が強い。

地域創生に中国人観光客は欠かせない
政冷経熱」を象徴するのが、中国から日本へ来る「訪日外客数」の大幅な伸びだ。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2014年に日本を訪れた中国人は240万9200人と前の年の131万4437人に比べて1.8倍に急増した。とくに昨年7月には前年同月比倍増の28万1309人が訪れ、単月としては過去最多を記録した。

それまでの月間最多は2012年7月の20万4270人だったが、尖閣諸島を国有化したことをきっかけに訪日中国人が激減。同年11月には5万1993人にまで減った。その後は、徐々に回復基調にあったが、昨年夏の旅行シーズンでようやく尖閣問題前のピークを超えたことになる。

もちろん、中国からの観光客が急増した背景には、アベノミクスによって急速に円安が進んだことがある。中国人観光客の主な狙いは日本での買い物で、百貨店やドラッグストア、家電量販店などで中国人観光客の買い物姿を目にすることが増えた。昨年10月から免税範囲が拡大されたこともあり、消費増税後苦戦が続く百貨店にとっては、ありがたい顧客になっている。

また、日本政府が掲げる地域創生でも、具体的な収入の柱は観光産業が大きい。日韓関係の冷え込みや韓国経済の悪化によって韓国人観光客の伸びが低くとどまっている中で、急速に増える中国人観光客の取り込みは地方観光地によっても重要戦略になりつつある。

都心部の不動産投資にも中国人マネーが入ってきているとされ、日中間の経済的なつながりは一層増している。安倍内閣も対中外交では弱腰を見せない戦略を取り続けており、習体制との間での「政冷」関係は当面、改善する兆しは出てきそうにない。もっとも、相互に依存が強まっている「経熱」関係は、今後も続くことになるだろう。