大塚家具、前代未聞のドタバタの顛末 解任6カ月で前社長が復帰

大塚家具で何が起きているのか。日経ビジネスオンラインの私のコラムは「政策ウラ読み」というタイトルなのですが、担当の広野副編集長から強いご依頼(半ば命令)を受けましたので、現段階での取材結果を出させていただきました。広野さんも大塚家具に長年注目しているそうです。もちろん、このコラムで取り上げてきたコーポレートガバナンス問題に直結する話なので、政策のウラという言い方もできます。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150129/276882/?P=1


 大塚家具は1月28日に開いた定例の取締役会で、前社長の大塚久美子取締役(46)が社長に復帰する人事を決定、同日付で発表した。創業者で父親の大塚勝久会長兼社長(71)は代表権のある会長に専念することとなった。久美子氏は昨年7月の取締役会で突如、社長を解任されたばかり。それからわずか半年で元のサヤに納まるという極めて不可解な展開になった。

 社長解任時にも勝久会長は記者会見すら行わず、解任理由もまともに説明して来なかった。今回も「経営管理体制を強化する」という素っ気ないリリースを出しただけで、久美子社長もメディアの前には姿を現さない。株式公開企業とは思えない対応に終始しているのだ。大塚家具の内部でいったい何が起こっているのか。

営業体制は勝久会長が掌握

 「(久美子氏が)表に出られるはずはありません。社長復帰といっても全権を掌握したわけではないんだから」

 今回の人事では、対立してきた父娘がそろって代表権を持つこととなったが、これで問題が決着したわけではないようなのだ。関係者によると、今回の人事は、あくまでも「当面の体制」ということに過ぎないという。営業体制についてはこれまで通りで勝久会長が掌握。久美子社長は3月末の株主総会に向けた管理体制を担当することになったという。

 これは一体、どういうことか。

 1月中旬に週刊東洋経済が報じたところによると、久美子氏側は勝久会長を含む現体制の一新を求める「株主提案」を検討していた、という。3月の総会に取締役候補者名簿を株主として提出、株主に直接賛否を問うというものだった。実際に株主提案をするには、株主総会の8週間前までに会社側に届く必要があり、28日の定時取締役会はおそらくその期限に当たっていた。

 取締役会では久美子氏側の株主提案をどう扱うのか、議論が紛糾したことは想像に難くない。結果的に勝久氏が久美子氏の強硬姿勢に折れ、社長復帰を許した背景には、株主総会で父娘が対立する不様な姿を晒したくなかったためばかりではなさそうだ。株主を真っ二つに割った激しい委任状争奪戦(プロキシ・ファイト)に発展する可能性が十分にあったうえ、その勝敗が読み切れなかったためだと思われる。

 大塚家具の株式は、勝久氏が発行済み株式の18.04%を保有。一方で、一族の資産管理会社である「ききょう企画」が9.75%を握る。ききょう企画は母千代子氏と5人の兄弟姉妹が株主。長男勝之氏と千代子氏が勝久会長側に付き、久美子氏側には弟妹3人が付いてともに激しく対立する構図になっていたと報じられた。

 2014年1月の段階で取締役の交代が行われ、久美子氏側がききょう企画の取締役会の主導権を握ったことが、父母長男VSその他兄弟姉妹の対立をエスカレートさせたという。それが、昨年7月の久美子氏の社長解任へとつながっていったわけである。久美子氏が株主提案を出す姿勢を見せることができたのも、ききょう企画が9.75%の議決権を握ることができたからだ。

 さらに、外部の株主も久美子氏側に加勢する様子を見せていた。

 投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズは昨年来、大塚家具株を買い増していた。1月14日に大塚家具が開示した主要株主の異動に関する臨時報告書によると、発行済み株式数の10.77%にまで達していた。ブランデスは久美子氏の経営改革路線を支持しているとみられ、両社を合わせると勝久氏の持ち株比率を上回っていた。つまり、数の勝負になった場合、勝久氏側の「勝ち」が読み切れなくなっていたのである。

 さらに、取締役の内部でも力関係に変化が出てきたようだ。

 大塚家具の取締役会は現在8人。勝久氏、久美子氏、長男の勝之専務執行役員、娘婿の佐野春生上席執行役員、従業員出身の渡辺健一執行役員に加えて3人の社外取締役がいる。社外取締役は、阿久津聡・一橋大学大学院教授、長沢美智子弁護士、それにジャスダック上場会社のホウライで会長を務めた中尾秀光氏の3人。

 阿久津氏と長沢氏の2人は久美子氏が社長時代に招いた専門家で、中尾氏は勝久会長が招いた銀行出身者。昨年7月に久美子氏を社長の座から引きずり下ろした際には、この中尾氏が半ば主導的な役割を果たしたとみられている。

会長派の取締役が辞表提出

 その中尾氏に近い人物によると、実は中尾氏はすでに取締役を辞任する意思を固め、勝久氏に辞表を提出しているという。おそらく、中尾氏の辞任によって、取締役会の勢力図も微妙に変化したのだろう。取締役会の中で久美子氏の主張に理解を示す人の割合が増えたとみていい。対立していた父娘がともに代表取締役となったことで、取締役会の中が対立して、会社側が取締役候補案すら作れない事態は回避されたわけだ。

 関係者の1人は、「これで取締役会で議論できるまともな体制に戻った」と安どした様子で語る。今後、取締役候補の会社案を取締役会で決めていくことになる。社長に戻った久美子氏は、3月の株主総会に向けて、その体制案づくりを急ぎ、父親の勝久氏を含む取締役の総意をまとめることになる。

 だが、簡単に「次期体制」が固まるかどうかは不透明だ。久美子氏が社長として全権を握る体制を作ろうとした場合、おそらく父親の営業路線を否定する改革路線を支持する取締役会が出来上がることになるからだ。

 もともと、父娘の対立には、経営スタイルを巡る考え方の違いがある。町の家具店から出発して一代で大塚家具を株式公開企業に育てた勝久氏からすれば、大塚家具はあくまで「自分の会社」。自らの鶴の一声で物事を決めて何が悪いということになる。

 銀行勤務などを経て大塚家具に入った久美子氏からすれば、株式を公開した以上、株主が納得するコーポレートガバナンスの体制を敷くのは「当たり前」で、独立性の高い社外取締役を増やして、家族経営を近代化したいと思っている様子だ。

会長の鶴の一声で100億円投資

 昨今のガバナンス強化の流れからすれば久美子氏に軍配が上がるが、“大塚商店”としてワンマンでやってきた会長からすれば、なぜよそ者の意見を聞かなければならないのだ、ということになる。日本企業の創業者の多くが老いて直面してきた典型的な問題だとも言える。

 例えば勝久氏が、生まれ故郷である埼玉県春日部市で建設を進めている大型店舗についても、取締役会ではほとんど議論されることなく鶴の一声で5000坪の土地を取得した。建物はまだ設計途中だが、100億円もかけるという壮大な計画だという。地方にそのような大型店舗を作ってきちんと採算が合うのか、といった当然議論しなければならない話が取締役会でまったく取り上げられない事態になっていた。つまり、勝久氏にすべて一任するという形が続いてきたのだ。

 営業スタイルを巡る父娘の考え方の違いも大きい。昨年7月に久美子氏を解任した勝久氏は、多額の広告宣伝費をつぎ込む旧来の手法で拡販を狙った。ところが、消費増税以降の消費はなかなか戻らず、売り上げは思ったほど伸びなかった。結果、広告宣伝費を増やした分が経費の増加につながり、経常赤字に転落する事態に直面した。完全に勝久氏の読みは外れたわけだ。

 勝久氏が久美子氏の社長復帰を許した背景には、自らの戦略が失敗したという厳然たる事実を突き付けられたことがあったのかもしれない。このまますんなりと娘が「新しい経営」にカジを切ることを受け入れられるかどうか。

 3月の株主総会に向けた取締役候補者案は、2月末の取締役会で議論され、決められることになるだろう。その段階では会社が進むことになる方向が定まっているはずだ。社長が全権を掌握したうえで、きちんと会社の将来について公開の場で語るのは、株式公開企業として当然の責務である。