訪日外国人1300万人は“通過点” 外国人消費の取り込みが景気回復の鍵

昨年の訪日外国人は1341万人と過去最高を記録しました。前年に比べて29%の増加です。この勢いは当分続くことになりそうです。この訪日外客が日本国内で落とすおカネは2兆円を超えたとみられ、景気を支える大きな要素になってきました。月間エルネオス2月号(2月1日発売)に書いた解説記事です。


円安効果で外国人観光客三割増

 日本を訪れる外国人が昨年、一千三百万人を突破した。前年の二〇一三年に初めて一千万人を超えたばかりで、凄まじい勢いで増加している。きっかけはアベノミクスによって円安が進んだためだ。
 アベノミクスの第一の矢として実施している大胆な金融緩和によって、当初、安倍晋三内閣は輸出が大幅に回復、貿易収支が黒字化すると見込んでいた。ところが、現実には輸出数量は増えず、貿易赤字が続いている。
 そんな中で、円安の効果が鮮明になったのが訪日外国人の増加。相対的に自国通貨が強くなったアジア諸国日本旅行ブームに火がついたのだ。日本政府観光局(JNTO)の推計によると一四年の訪日外客数は一千三百四十一万人。一三年の一千三十六万人に比べて三割も増えた。
 中でも特徴的なのは台湾からの訪日外客数の増加。一四年は二百八十二万人と二八%増え、国別で韓国や中国を抑えてトップに躍り出た。国別の訪日外客数では過去十年以上にわたって韓国がトップだったが、ついにその座を明け渡した。台湾の人口は二千三百万人だから、単純計算で国民の八人に一人が昨年日本を訪れたことになる。もちろん、実際には一人で年に何回も日本を訪れた人が多くいた。いずれにせよ猛烈な日本ブームが台湾で起きているのだ。
 中国からの訪日外客数も急増。二百四十万人と前年の一・八倍になった。月別のデータをみると、中国からの訪日外客数は一二年七月に月間二十万四千人を記録したが、同年九月の尖閣諸島国有化をきっかけに激減。昨年初めあたりから再び訪日旅行者数が増え始め、昨年七月には前年同月比倍増の二十八万一千人と、月間としては過去最高を記録。その後も毎月二十万人超えが続いている。
 訪日外客数トップの座を明け渡した韓国からの年間の訪日外客数は二百七十五万人と一二%の増加にとどまった。日韓関係が冷え込んでいることも背景にはあるとみられるが、それよりもむしろウォン高によって輸出産業の業績が悪化し、韓国国内の景気が後退している影響が大きいとみられる。
 このほか、タイやマレーシア、フィリピン、ベトナムなどアジア諸国からの訪日外客数が急増。また、オーストラリアなどからも増えている。米国からの訪日外客数も一〇%以上の伸びになった。

外国人訪問者数で日本は二十七位

 アジアを中心に急激に伸びている訪日外国人の最大の狙いは買い物だ。都心の百貨店などでは中国系外国人の姿を多く見かけるようになった。年末年始のバーゲンセール会場でも大量に買っているのは外国人観光客だった。
 輸出のことを「外需」と言うが、いわば、外需が国内に生まれたようなものである。これを「国内外需」と名付けることにしたいが、すでに馬鹿にできない規模になっている。
 観光庁の発表によると一三年の訪日外国人の旅行消費の総額(推計)は一兆四千百八十億円と過去最高だったが、一四年も訪日外客数が大きく増えたことが追い風となり、初めて二兆円を突破した。
 訪日外国人の急増で、観光地は混雑を極めている。外国人に人気のある京都などはホテルが満室の日が増えている。東京でもホテルの稼働率が上昇。宿泊料金も上昇傾向にある。「もうこれ以上外国人が来たらパンクする」という悲鳴も聞こえ始めた。
 一見、一千三百万人というとかなりの数のように見えるが、国際的に比較して見ると、まだまだ増え続ける余地がありそうだ。
 世界各国で外国人訪問者数が最も多いのはフランス。一二年で八千三百万人を超えていた。米国も一三年で七千万人に迫っている。三位のスペインも六千万人を超えている。アジア地域で最も多いのはお隣の中国。一三年で五千五百六十八万人に達し世界四位だった。
 日本はこのランキングでいうと世界二十七位。アジアでも八番目に過ぎない。アジア第二位のタイには二千六百五十四万人だ。
 日本政府は二〇年までに二千万人、三〇年には三千万人という外国人観光客誘致の目標を掲げている。タイのような「観光立国」の成果を見ると、この目標は決して高くないことが分かる。訪日外客数一千三百万人は通過点に過ぎないのだ。

「価格勝負」から「日本らしさ」へ

 では、今後日本は、どんな国を目指して外国人を引き付けていくのか。
 日本ブームに火を付けたのは前述の通り為替である。円安現地通貨高で日本に行けば「安く買える」というのが訪日の動機になった。為替が短期間に動いたことで、要は「アジアのバーゲン会場」になったのである。だが、為替が安定したり、円高に振れたりすれば、この状態は長続きしない。「価格勝負」をしている限りは、訪日外国人の増加が一過性で終わってしまう可能性があるのだ。
 要は観光の目玉を「価格」から「品質」や「サービス」「日本らしさ」へと切り替えていかなければならない。値段が安いから行くのではなく、日本にしかないものを求めて日本に行くという旅行者をどれだけ増やせるかが鍵になるのだ。
 そのためには、京都や奈良、鎌倉や日光といった日本の代表的な観光地だけでなく、各地の観光資源にどう磨きをかけていくかがポイントだろう。農山村での滞在型体験型の観光などまだまだ開拓の余地は大きい。
 旅慣れた日本人がフランスに行く時、どんな観光を求めてきたかを考えれば分かりやすい。初めは高級ブランドショップのバーゲンセールに殺到し、行き先はパリのルーヴル美術館など有名観光地だった日本人も、その後、さまざまなフランスの「旅」を楽しむようになった。田舎の農家レストランでフランスの家庭料理を楽しんだり、自然の中をトレッキングしたり、フランスそのものの価値を味わうようになった。
 日本にやってくるアジア地域の外国人も、いずれ旅慣れて「本物志向」に変わってくる。そうした人たちをガッチリと日本ファンにしていけば、フランスの年間八千万人超は難しくても、イタリアの年間五千万人弱の外国人受け入れは可能ではないだろうか。