G7、COP21へ「エネルギーミックス」の議論がようやく始動

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始動した「エネルギーミックス」の議論

日本の将来の最適なエネルギーミックス(電源構成)を決めるための議論が動き出した。1月30日に経済産業省有識者会議が初会合を開催。今年6月をメドに政府が策定を目指している温室効果ガス削減目標に間に合うよう、作業を始めた。

有識者会議は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に設置された「長期エネルギー需給見通し小委員会」。分科会長の坂根正弘コマツ相談役が委員長を兼ねた。

安倍晋三内閣は昨年4月11日に第4次エネルギー基本計画を閣議決定した。焦点だった原子力発電については「重要なベースロード電源」と位置付ける一方で、「可能な限り原発依存度を低減させる」ことも掲げており、2030年を目途とした具体的なエネルギーミックスの決定が課題になっていた。

ここまで議論の開始が遅れたのは、安倍内閣が当初から目指している原発の再稼働が遅々として進まなかったため。原発稼働の見通しが立たない中では、いくら将来像といってもエネルギーミックスの議論が成り立たない。再稼働に向けて一定のメドが立った段階で議論を本格化させたいというのが経産省の思惑だった。

もっとも、今回の議論開始は準備万端整ったため、というわけではない。経産省の誤算の第一は鹿児島の九州電力川内原発の再稼働に向けた安全審査や地元同意のプロセスに予想外の時間がかかったこと。

今年は世界で温暖化対策議論が本格化

当初は、9月の内閣改造で就任した小渕優子大臣(当時)が地元を訪問して住民と話し会うことで、原発再稼働容認ムードを全国に広げようと考えていた。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、女性を中心に抵抗感が強い原発再稼働に理解を得くプロセスが重要だと考えていたのだ。子どももいる女性大臣の小渕氏はまさに適役だったわけだ。

小渕大臣には幹部官僚が付き切りで原発問題のレクチャーを続けていたが、政治資金問題で小渕氏はあっけなく辞任に追い込まれてしまう。経産省にとっては大きな誤算だった。

一方で、期限も迫ってきていた。今年11月30日には、フランスのパリで「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」が開かれる。京都議定書に代わる2020年以降の新たな温暖化対策の国際的な枠組みを決定することを目指している。この会合でCO2削減を約束するための大前提として、将来のエネルギー需給やエネルギーミックスの日本としての方針を固める必要があるのだ。

その準備会合が6月にドイツで開かれることになっており、それが刻々と迫っているのである。6月にはやはりドイツで主要国首脳会議(G7)が開かれることもあり、温暖化対策が国際的な議論になる可能性は十分にある。

日本は2009年に民主党鳩山由紀夫首相が国連で演説し、2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減することを国際公約した。この首相方針に辻つまを合わせるために、原子力発電の比率を50%以上にするエネルギー基本計画を立てたが、東日本大震災による東電福島第一原発事故で、計画はいっぺんに瓦解。今度は野田佳彦内閣が「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」方針を打ち出した。

昨年4月の安倍内閣によるエネルギー基本計画で、この民主党時代の方針は撤回された格好だが、日本として新たに温暖化対策を国際的に約束するうえでも、前提となるエネルギーミックスを早期に決めることが不可欠になっている。

国内企業で熱効率の高いガスの利用が進む

原発の安全性を審査する原子力規制委員会は昨年12月17日、福井県にある関西電力高浜原発3、4号機について、再稼働に必要な安全対策の基準を満たしているとする「審査書案」を了承した。川内原発の1、2号機に次いで実質合格が出たことで、経産省は再稼働の流れが出来上がったと判断。有識者会議の立ち上げを決めた。

今後、エネルギーミックスの議論は有識者会議が舞台になるが、委員長の坂根氏はエンジニア出身の合理的思考の持ち主。将来の原油枯渇を見据えて原発技術は維持し続けるべきだとする一方で、再生可能エネルギーやその他の新エネルギーの開発にも理解を示す。技術革新に信頼を置いているわけだ。

坂根氏は「まずは徹底した省エネルギー再生可能エネルギーの導入がどこまで実現できるかを議論の出発点にする」と述べているという。同氏が社長・会長を務めたコマツも徹底して省エネに取り組んでいる会社として有名。LNG(液化天然ガス)などを使ったコージェネレーション(熱電併給)の積極的な導入などで、電力の使用量を大幅に減らす方針を打ち出している。

2010年度に1兆キロワット時を超えていた年間の総発電量は2013年に9397億キロワット時にまで減少した。震災による省エネ意識の高まりや電力料金の値上げによる節電、企業によるガス利用へのシフトなどの影響が大きい。これが2030年にどうなると見通すかがまずは重要になる。熱効率の高いガスの利用などが進み、電力消費抑えることも十分可能だからだ。

2010年度には発電量の熱源は原子力が28.6%、LNG火力が29.4%、石炭火力25.0%、石油火力7.5%、水力8.5%で、新エネルギーは1.1%だった。

経産省は2030年でも原子力を20%前後は見込む必要があるというスタンスで、委員会でも15〜25%という数字がすでに委員の口の端にのぼっている。今後、坂根委員長がどんな合理的な見積もり数字を世に示すことになるのか。大いに注目していきたい。