大塚家具創業の父に娘が「引導」

月刊ファクタの3月号(2月20日発売)に掲載された原稿です。事態はどんどん進展していますが、2月上旬の締め切りだった原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。
オリジナル→http://facta.co.jp/article/201503014.html


本誌1月号の当コラムが“独走報道”した大塚家具のお家騒動が収束に向かう見通しとなった。

創業者で実父の大塚勝久会長と長女の大塚久美子社長が経営方針をめぐって激しく対立。昨年7月には勝久氏が主導して久美子社長を解任する事態に発展した。ところがそれから半年しか経たない今年1月28日、取締役会で久美子氏が再び社長に返り咲く異例の展開になった。

現在は勝久会長と久美子社長がともに代表権を持つツートップの体制となっている。営業本部は引き続き勝久会長が担当しており、3月に予定される株主総会の準備作業や経営計画の策定を久美子社長が担う。

だが、これは両者が和解して最終決着した姿ではない。対立が続く中で取締役会の多数派工作が繰り広げられ、久美子氏側が主導権を握った結果なのだ。取締役会を掌握したことで、株主総会で勝久会長は退任し、久美子社長を中心とした新体制ができあがることになりそうだ。

¥¥¥

勝久氏と久美子氏の対立は、大塚家具のビジネスモデルの根幹にかかわる方針の違いから生じていた、という。大塚家具の大きな特長は、顧客の会員制を取ってきたことにある。入店時に受付カウンターで目的の商品などを聞き、担当者が一緒に店内を案内する。接客で最も難しいとされる「客への声掛け」を最初の段階でクリアすることで、家の新築や引っ越しを控えた「目的買い」の客をがっちり掴む戦略を取ってきたのだ。非常に効率的な営業スタイルだったと言える。

ところが住宅着工件数の減少や、「商品や価格をいろいろ見比べたい」という消費者の購買スタイルの変化で、切り札だった会員制方式に限界が見え始めていた。それに危機感を抱いた久美子氏は、銀座や新宿といった繁華街にある店舗を中心に、ぶらりと散歩感覚で自由に入店できるよう「オープン化」を進めたのである。

ところが、この方針に昔のビジネスモデルに固執する勝久会長が激しく抵抗したのだという。それが実の父がいったんは譲った社長の座から娘を引きずり降ろすという事態につながった。

昨年7月に自ら社長を兼務した勝久会長は、時計の針を大きく元に戻し営業スタイルを変えていった。三越があった建物を店舗にした新宿店では内装工事を実施して1階正面に受付を復活させた。その一方で、広告宣伝費を7億円余り積み増したのである。積極的に広告を打つことによって「目的買い」の客だけを集める昔ながらの戦略に打って出たわけだ。

だが、結果は惨憺たるものだった。

新宿店の11月単月の入店客は前の年の同じ月に比べて2割以上も減少。売り上げも激減したという。この結果、12月24日、大塚家具は2​0​1​4年12月期の業績予想の大幅な下方修正発表を余儀なくされる。売上高は573億円の予想から5​5​5億円に大幅減額。営業損益は2億7​9​0​0万円の黒字から一転して4億9​6​0​0万円の赤字見通しとなった。2月13日に行われた決算発表ではやや改善したが、4億2​0​0万円の赤字になった。

久美子氏が社長だった7月までは4億円ほどの黒字が出ていたのが、8月以降の5カ月で8億円近い赤字を出す結果に終わったわけだ。広告宣伝費の積み増しが売り上げ増に結びつかず、そっくり赤字要因になったのである。

取締役会に動揺が走ったのは想像に難くない。広告宣伝費の積み増しや、埼玉・春日部の店舗用地取得などで会長を支持した社外取締役の中尾秀光氏が1月の取締役会を前に自ら辞任した。過大な出費計画を止めなかった責任を、久美子氏らから責められた末の決断だった。

中尾氏の辞任で取締役が7人となったことで取締役会の勢力図が大きく変わることになった。1月の取締役会に提出された久美子氏の社長復帰案が、勝久会長と長男の大塚勝之専務が反対する中で、賛成多数で可決されたのはこのためだった。

取締役会の多数派を握ったことで、3月の株主総会に出す取締役候補者名簿は久美子社長が作成することとなった。2月13日の取締役会でも多数決になったが、そこで承認された名簿には勝久氏と勝之氏の名前は含まれていない。勝久氏には今後、創業者としてふさわしい名誉職を用意する意向だというが、株主総会で承認された段階で、大塚家具の経営の第一線からは身を引くことになった。

実は、勝久氏は完全に納得したわけではない。逆に久美子氏らを排除した候補者案を株主提案として出している。

勝久氏は発行済み株式の18.04%を保有する筆頭株主だ。だが、そうなれば、町の桐タンス店を一代で株式公開企業にまで育て上げた立志伝中の人物が、自ら泥仕合を演じて晩節を穢すことになる。

株主である久美子氏の弟妹もこれ以上、経営を混乱させれば、会社そのものの屋台骨が揺らぎかねないと危惧しているという。父親が渋々ながらも引退してくれることを望んでいるというのだ。

一族の資産管理会社である「ききょう企画」が株式の9.75%を握るが、家族で占める取締役の過半が久美子氏支持に回っている。また昨年来、大塚家具の株式を買い増している投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズも久美子氏の経営改革路線を支持している模様だ。ブランデスは1月14日に大塚家具が開示した資料によると、発行済み株式数の10.77%を保有している。委任状争奪戦になっても久美子氏側の勝利は揺るがない見通しだ。

¥¥¥

株主総会で支持を得たのち、久美子社長体制が本格的に再スタートすることになる。東京・有明の大型店などでは会員制を堅持する一方で、1​0​0万件の顧客リストを武器に過度な宣伝広告に頼らない集客体制を再構築する。一方で、都心の店舗ではオープン化を進め、新業態の模索も始まるだろう。

創業者の引き際は難しい。長年企業に君臨した創業者が引き際を誤ったり、長男への承継にこだわった挙げ句、会社をボロボロにした例は過去に少なくない。

久美子氏はこれまで、繰り返し「コーポレートガバナンス」の重要性を訴えてきた。体制固めを終えて、今後、どう社外取締役を活用し、創業一族の意思を調整していく体制を築いていくのか。引き続き、注目していきたい。