ガバナンス崩壊、目が離せない大塚家具劇場 父と娘、骨肉の争いの底なし沼

大塚家具は「ガバナンスの崩壊ではない」という声もあるのですが、早晩、ガバナンスが崩壊していた実態が明らかになってくると思います。2月26日に日経ビジネスオンラインにアップされた日経ビジネスオンラインの記事です。オリジナル→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150226/278026/


経営権を巡る父娘の対立が続いている大塚家具は、株主総会に向けて両者が委任状争奪戦(プロキシ―ファイト)を繰り広げる前代未聞の展開になった。2月25日夜に記者会見を開いた大塚勝久会長は、実の長女である大塚久美子社長を口を極めて批判した。

「今まで経営で失敗したことはないが、久美子社長を任命したことは失敗だった」
「この子に任せればうまくいくと思ってきたが、親として間違っていた」
そのうえで、「何とか(自分自身を)社長に復帰させてもらいたい」と訴えた。

 会見には長男である大塚勝之専務のほか、勝久氏の株主提案で取締役候補となっている幹部が出席。雛壇の後ろには部長職の従業員がズラリと並ぶ異例の光景が繰り広げられた。

「社員がみんな私を支持してくれている」
「このまま久美子が社長を続けたら、私の自慢の優秀な社員が会社を退社してしまう」


「久美子社長の復帰はクーデターだ」

 久美子氏が社長に復帰した1月28日の取締役会の決定についても、役員の総意ではないとして、「クーデターだった」と激しく批判した。そのうえで、「大株主さんは判断を間違わないと思う」と、勝久氏が提出している取締役候補者への賛成が集まるとの自信を見せた。

 今回の騒動の背景には、一族内の根深い対立がある。勝久氏と相談役である妻の間には5人の兄弟姉妹がいるが、この7人が真っ二つに割れているのだ。

 勝久氏自身が会見でぶちまけた話によると、夫妻と長男の3人が勝久氏を支持する一方で、4人の兄弟姉妹は、長子である久美子氏を支持している、という。両者は表面上、経営方針を巡って対立しているが、要は最も年長の長女に継がせるか、年下ながら長男に継がせるか、という後継問題が肝になっているのだ。

 勝久氏は、クーデターだと批判する1月の取締役会の様子も明らかにした。「三女の旦那の佐野が反旗を翻したんだ。さんざん面倒をみてきたのに。佐野の1票で変わったんですから。社員はテロだと言っています」

 大塚家具の取締役会は、昨年7月に久美子社長が突然解任された時点では8人いた。勝久氏と勝之専務、女婿の佐野春生氏、従業員出身の渡辺健一氏、社外取締役で銀行出身の中尾秀光氏が解任に賛成した。勝久氏は過半数の5票を制したわけだ。

 ところが1月の取締役会前に中尾氏が辞任して取締役は7人となり、勢力図が変わった。久美子氏がその段階で出した社長選任動議には、久美子氏のほか、社外取締役の長沢美智子弁護士と阿久津聡・一橋大学大学院教授、そして佐野氏が賛成。勝久氏、勝之氏、渡辺氏の反対を抑えて、4対3で社長復帰が決まったのである。

 それを不服として翌日の1月29日に、勝久会長は株主提案として久美子氏を排除した取締役候補者名簿を提出していた。実は取締役会で社長復帰が否決された場合に備えて、久美子氏側も28日に株主提案を出していたことを勝久氏は会見で明かしている。その久美子氏の案が2月13日の取締役会にかけられ、ここも4対3で可決。会社側案として株主総会にかけられることとなった。その名簿には勝久氏の名前も勝之氏の名前もない。会長に引退を通告したのである。

 さらに勝久氏は会見で、久美子氏に対して訴訟を提起したことも明らかにした。一族の資産管理会社である「ききょう企画」が保有する大塚家具株式に久美子氏が付している譲渡担保契約の無効を訴えたという。もともとききょう企画が持つ130万株は勝久氏が譲渡したもので、その代金としてききょう企画の社債で代金が賄われている。その社債の償還を求める訴訟を勝久氏が既に起こしていたことが明かされ、久美子氏による担保契約は差し押さえの執行を免れるためだとしたのである。

票読みのカギ握る「ききょう企画」

 実は、この「ききょう企画」の株式の帰趨が、株主総会での「票読み」に決定的な意味を持つ。勝久氏は発行済み株式の18.04%を保有する筆頭株主だが、「ききょう企画」は9.75%を握る。

 ききょう企画は非上場会社のため、詳しくは分からないが、母千代子氏と5人の兄弟姉妹が株主。ここでも母・長男とその他兄弟姉妹4人が2対4に分かれて対立している。現在のききょう企画の取締役会は久美子氏が握っているため、その保有株の議決権は久美子氏側に投票されることになる。さらに、投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズが10.77%を保有しているが、ブランデスは久美子氏側を支持しているとみられている。これで両者はほぼ拮抗しているわけだ。さらに久美子氏が会社側として提案しているため、機関投資家や個人株主は会社側提案に賛成する可能性が高い。

 ところが、ききょう企画の株が実質的に勝久氏のものであるという判決が出た場合、状況は一変する。勝久氏は28%近い株式を実質保有することになり、経営権を取り戻す可能性が一気に高まる。もっとも日程的に株主総会の3月27日までに判決が出るかどうかは微妙な情勢。そこで危機感を強めた勝久氏が機関投資家個人投資家に直接、働きかけることを狙って会見を開いたと見られる。

 勝久氏の会見の翌26日、久美子社長が大塚家具の中期経営計画を発表した。もともと予定されていた会見だったが、前日夜に会長が“爆弾会見”を開いたことで、テレビや新聞・雑誌の記者などが殺到した。

 冒頭、久美子氏は勝久氏の会見に触れて、「幹部社員を後ろに並べるような演出に社員を巻き込んだことに申し訳ない思いだ」と述べた。社員のほとんどが自分を支持していると勝久氏がアピールした点についても、私は社員の気持ちを言う立場にない、として明言を避けた。

「子どもは親の言うことを聞くのが当たり前」

 勝久氏は大塚家具を町のタンス店から株式公開企業にまで育て上げた創業者である。本人は会見で「私をワンマンと書いている人がいるが、それは間違い」だとしたが、一方で、「社員は自分の子どもだ」とも言っている。

 子どもである以上、親の言うことを聞くのは当たり前、という古い時代の発想がベースにあるのは間違いなさそうだ。幹部社員を会見に動員したり、全社員に署名を求めたりすること自体が、ワンマンの証と外部が見るとは想像していない様子なのだ。

 実の親子にもかかわらず、両者はまともに議論していないという。会長側は「久美子社長にいくら言っても言うことを聞かない」とし、社長側は「話し合いを呼び掛けても逃げてしまう」とする。どちらに非があるかは別として、話し合いはまったく行われず、場外乱闘が始まったわけだ。

 取締役会でもまともな議論は行われなかったらしい。本来は経営方針を巡ってきちんと議論すべき場である取締役会が、トップの方針を追認するだけの場になっていたというのだ。

 創業オーナーがいる会社ではしばしば似たようなことが起こる。オーナーのひと言がすべてで、取締役会は儀式に過ぎないという「ひと昔前の日本企業」だったのだろう。

 久美子社長はそれを打破するために、議論ができる取締役会に改革しようと外部から社外取締役を招いた。勝久氏は「大塚家具のことを分かっていない人が入って来た」と批判する。社外取締役に理解してもらえるよう説明責任を果たすという「いま流」の常識が通じなかったのだろう。

 株主総会に向けて、今後、両者の委任状争奪戦が始まる。大株主を回り、経営方針について説明して歩くことになる。会員制と積極的な広告宣伝で客数を増やしたという「過去の栄光」が今後も通じるとする勝久氏と、顧客の購買行動が変わった今、気軽に入店しやすい店づくりを進める方が顧客を獲得できるという久美子氏。

 家族経営から脱するために社外取締役過半数にしようという久美子氏に対して、社内と社外は半々にするが、あくまで大塚家具の事を誰よりも分かっている創業者自身が経営すべきだという勝久氏――。

 安倍内閣が企業のガバナンス強化に向けて旗を振り、東京証券取引所社外取締役2人以上の設置を実質義務化する動きに出ている中で、日本企業のガバナンスのあり方が大きな問題になっている。日本企業では、世代交代を巡るドタバタが常とはいえ、従業員や一般株主を巻き込んだ騒動がどう決着するのか。ガバナンス強化へと政策が大きく変わった過渡期だからこそ勃発した事件と言えるかもしれない。