大塚家具「ワンマン」会長に、社外役員6人が突き付けた「改善要求6ヵ条」を公開。父娘対立の裏に深刻なガバナンス欠如があった

もともと昨年末に大塚家具の問題をFACTAで取り上げたのは、日本企業とくにオーナー系企業のコーポレートガバナンスを考えるうえで参考になる事例だと考えたからでした。その時はここまでもつれ込むことはないと見ていたのですが、完全に「仁義なき闘い」になってきました。私は、単なる父娘の喧嘩ではなく、株式公開企業のガバナンスや経営のあり方を問う事例として今後も取材し記事を書いていこうと思います。現代ビジネスに書いた原稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42327

清人事&委任状争奪戦
経営権を巡る父娘の対立が激しさを増している大塚家具。創業者である父の大塚勝久氏が2月25日に突然会見を開き、長女の大塚久美子社長に辞任を求める異例の事態に発展した。

「久美子氏が社長のままでは優秀な社員が退社してしまう」

「私を社長に戻して欲しい」

「大株主さんは判断を間違えないと信じている」

そう語って、3月27日の株主総会に向けて委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)を繰り広げることを宣言した。

では本当に、久美子氏の経営手法に問題があるのだろうか。

今年1月の取締役会で社長に久美子氏が復帰したことについて、勝久氏は「娘の社長就任はクーデター、社員はテロだと言っている」とまで言い切った。

5年にわたって社長を務めていた久美子氏が、会長主導で突如解任されたのは昨年7月のこと。それ以降、社長を兼務した勝久氏流の“経営”が始まったが、社内は混乱を極めたという。

真っ先に起こったのが「粛清人事」。社長解任後に、久美子氏派と目された幹部が軒並み更迭されたのだという。16人いた店長のうち10人が交代し、すべて会長の「イエスマン」になった。25日の勝久氏の会見では雛壇の後ろに幹部社員がズラリと並び、社員は勝久会長側であることをアピールしたが、もともとイエスマンで固めた幹部たちだった、という。

次いで、広告宣伝費を7億円も積み増したが、これは久美子氏が社長在任中に反対していたこと。消費税増税後の落ち込みが著しい中で、「広告をもっと打てば顧客が来る」という父に抵抗していたが、社長解任で一気に増額に舵を切った。

さらに、勝久氏の生まれ故郷である埼玉・春日部で、5000坪に及ぶ土地を取締役会で深い議論も行わずに勝久氏が取得してしまう。

広告宣伝費を7億円増やしたことについては、25日の会見で「別の項目を振り替えただけで積み増したわけではない」(長男の大塚勝之専務)と反論していたが、実際には広告宣伝で思ったほど客数が増えなかった。2014年12月期決算は4億9600万円の営業赤字に転落。前の期は8億4300万円の黒字だったうえ、久美子氏が社長だった7月までは黒字を維持しており、「下期の広告費が利益を圧迫したのは明らか」(証券アナリスト)な結果になった。

今年1月、そんな勝久氏の独断専行に待ったをかける意見が社外役員から出されていたことが、関係者の証言で明らかになった。

取締役会における健全な議論を行えるようにしていただきたい
「大塚勝久会長兼社長に対する社外役員の要望事項」。

そう題された文書の日付は1月15日。社外取締役3人、社外監査役3人の計6人からの「共通の要望事項」として6項目が書かれている。久美子氏の社長復帰を決めた取締役会は1月28日だったから、それより前の話だ。

当時の6人の社外役員は、銀行出身でジャスダック上場会社のホウライで会長を務めた中尾秀光氏、一橋大学大学院教授の阿久津聡氏、弁護士の長沢美智子氏の3人が取締役、三井住友銀行出身の豊住博氏、弁護士の松本真輔氏、公認会計士の西山都氏の3人が監査役だった。

彼ら社外役員がまとめた要望書にはこう書かれていた。

①現体制による経営方針の速やかな策定・取締役会付議

コンプライアンス体制の強化(適切な人事を含む)

③IR体制の強化(適切な開示・株主に対する適切な対応)

④予算・事業計画の適時の策定・取締役会付議

経営判断の合理性の確保・取締役会における適切な説明(不動産取引を含む)

⑥取締役会における健全な議論を行えるようにしていただきたい

いずれも「当たり前」のことである。なぜ社外役員はこんな要望を勝久氏に出さなければならなかったのか。

1つの目の要望が出るということは、7月の久美子社長の解任以降、取締役会にまともな経営方針が提示されておらず、まったく議論が行われていなかったことを物語っている。

2番目は、勝久氏が行った「粛清人事」が明らかにコンプライアンス上問題と思われる点を指摘。体制整備を求めている。

3番目は、広告宣伝費の積み増しで赤字転落が分かっていながら、年末ギリギリまで情報開示を行わなかったことを指しており、4番目は新年度に入っても予算も事業計画も取締役会にかけられていなかった事を示している。5番目は春日部の土地取得について、経営判断として合理的なのかどうか、取締役会に説明していないことを指摘しているのだ。6番目は哀願調で取締役会で議論できるようにと要望している。

「ワンマン」勝久会長側の持ち株は19.95%
勝久氏は会見で、「私がワンマンだと書いている人がいるが、まったく間違い」と話していた。だが、関係者から聞く限り、勝久氏が会長兼社長だった時には取締役会ではほとんどまともな議論ができていなかった。勝久氏は、取締役会は自分がやりたい事を追認する場、と思っているかのようだったという。

だが、社外役員は専門家として外部で名前の通った人たち。さすがに、このままでは自分たちに責任が及びかねないと危機感を強めるようになったのだという。営業赤字転落が必至だと分かっていながら開示をしなかったのは、東証の適時開示ルールに違反する懸念もある。また、採算性に疑問のある過大な投資決定を、ほとんど議論しないまま決定したとなれば、善管注意義務違反に問われることになりかねない。弁護士や会計士など専門家たちの顔が青くなったのは想像にかたくない。

この要望書を勝久氏に手渡した最年長の中尾氏は、同時に取締役辞任届けを出したという。中尾氏の辞任で、28日の取締役会は7人となった。

要望書を渡したにもかかわらず、勝久氏にはそれに応える様子が伺えなかったという。それが、28日の取締役会で久美子氏の社長復帰案が提示される引き金になった。取締役会では、勝久氏と勝之氏、それに会長には逆らえない立場の従業員出身の渡辺健一氏が反対。一方で、久美子氏と勝久氏の女婿である佐野春生氏、社外取締役2人が賛成した。

今度は賛成4人、反対3人で社長復帰が決まったのだという。7月には棄権していた社外取締役も賛成に回ったのは、要望書を出さずにはいられないような勝久氏の独断専行が背景にあった。

この取締役会で勝久氏の代表権や会長職をはく奪することもできたはずだが、勝久氏と久美子氏を両方代表取締役としたのは、これで両者が和解できるのではないか、という久美子氏側のかすかな期待からだったという。結果的には翌29日に勝久氏が、総会にはかる取締役候補案を株主提案として提出。久美子社長と全面対決することとなった。

では、このまま委任状争奪戦になった場合、総会ではどんな結果になるのだろうか。

昨年6月30日時点では、筆頭株主である勝久氏が発行済み株式数の18.04%を保有、妻の大塚千代子氏は1.91%を持つ。両者の保有分を合19.95%だ。

3月27日へ委任状争奪戦の行方
一方で、一族の資産管理会社である「ききょう企画」は9.75%を保有する。ききょう企画は株式の10%を千代子氏、5人の兄弟姉妹が各18%を持つ。勝久氏側の母と長男を合わせても議決権の28%しかなく、兄弟姉妹4人が結束して久美子氏を押しているため、9.75%は久美子氏側になる。

さらに久美子氏側とみられる米ブランデス・インベストメント・パートナーズは昨年12月末で10.13%を持っていたとみられ、ききょう企画と合せると19.88%だ。ここまでだと、19.95%と19.88%でほぼ拮抗している。

従業員持ち株会が2.84%を保有しているが、通常は会社側提案に賛成するのが普通のため、久美子氏側に行く可能性が高い。ただ、会長の弟である大塚春雄氏が保有する2.77%は今のところどちらに付くのか不明だ。

焦点は機関投資家である日本生命保険(5.88%)や東京海上日動火災保険(3.22%)の議決権の行方。これも一般的には会社側提案に賛成するが、それを分かったうえで、勝久氏は会見を開いたのだ。「大株主さんは判断を間違えない」とわざわざアピールしたのは、こうした投資家の票を自らに投じてもらうのが狙いなわけである。

すでに両者による大株主回りが始まっているという。どちらの方が企業価値を向上させる経営ができるのか、総会に向けて父娘がアピールを繰り返すことになるだろう。