JPX斉藤CEO退任 日本企業を変えた「信念」 

フジサンケイビジネスアイのコラム記事が掲載されました。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/150608/bsg1506080500001-n1.htm

「日本企業は変わりましたね。ため込んでいた資金を投資や配当、自社株消却などに回し始めましたからね」

 日本取引所グループ(JPX)の最高経営責任者(CEO)を今月16日の株主総会で退任する斉藤惇氏は、ある席で感慨深げに語っていた。野村証券出身で“理論派”の同氏は長年のROE論者。株主から預かった資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示すROEを国際水準並みに引き上げることが日本企業にとって不可欠だと主張してきた。

 それが2014年度決算では東証1部上場企業のほぼ3社に1社のROEが10%を超えたという。ほんの数年前まで、大企業の大半がせいぜい5%程度だったことを考えると劇的な変化だ。最近では、中期経営計画に「ROE10%以上」を明記する企業も増えた。株式市場も、そうした高ROE銘柄を積極的に評価するようになってきた。要はROEを重視する企業の株価は上がるのである。

 日本の企業経営者が突然ROE経営に目覚めたわけではない。大きなきっかけがあった。安倍晋三内閣がアベノミクスで「コーポレートガバナンス企業統治)の強化」を掲げ、具体的な制度整備に取り組んだのだ。昨年6月の成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」では、日本の「稼ぐ力」を取り戻すとして、ROEを国際水準に引き上げることが明記された。

 もちろん、政府がROEを上げろと言ったところで、企業経営者が従う義務はない。ROE重視といわれて20年以上になるが、一向に日本企業はROEを上げようとせず、内部留保をため込んできたのがいい証拠だ。

 今回、日本企業が変わったのは、次々と外堀が埋まったからだ。機関投資家の株主としての行動規範を示した「スチュワードシップ・コード」が昨年導入され、従来、企業経営者にとって安定株主だった生命保険会社などがモノ言う株主に変わり始めた。東証は高ROE企業で構成する新指数「JPX日経インデックス400」を導入。規模が大きくてもROEが低い会社は「脱落」する仕組みになったことで、元来横並び意識の強い企業経営者の間に「焦り」を生んだ。

 今年に入ると金融庁東証が共同で事務局を務める有識者会議が、上場企業の「あるべき姿」を示すコーポレートガバナンス・コードをまとめた。そこに、複数の社外取締役を置くことや、持ち合いで保有している株に、具体的な合理性があるか説明することなどが盛り込まれた。経営者からすれば、すっかり外堀が埋まったのである。

 社外取締役を入れれば自動的にROEが上がるわけではない。だが、外部の人に説明のつかない無駄な資産や事業を持ち続けることは難しくなる。手元資金をため込んで配当や自社株消却などの株主還元に後ろ向きな姿勢を取れば、株主総会個人投資家からも責められることになる。

 日本企業を変えるという長年の「信念」を実現して引退する斉藤氏の胸中はすがすがしいに違いない。