発送電分離決定で電力自由化が本格実施へ  2020年に向け、電力市場争奪戦が激化する!

電電公社の独占から自由化された通信分野では、過去四半世紀の間に様々なサービスが生まれました。もちろんその間には競争に伴う栄枯盛衰もありましたが。電力自由化で日本のエネルギー産業は様変わりすることになるでしょう。スマートエネルギー情報局の原稿を書きました→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43860


電力システム改革の総仕上げに向けた改正電気事業法が6月17日、参議院本会議で可決され、成立した。改革の第3弾と位置付けていた大手電力会社に送配電部門の分社化を義務付ける「発送電分離」が柱で、2020年4月から実施される。安倍晋三首相が規制改革の象徴として繰り返し強調してきた電力自由化が、これで完全実施されることになる。

独占の時代が終わる

安倍内閣が進めてきた電力システム改革は3段階に分かれていた。第1弾として地域をまたいだ電力融通を円滑に行うことが打ち出され、すでに今年4月に「電力広域的運営推進機関」が設立されている。また、第2弾として2016年4月から電力の小売りが全面的に自由化されることが、昨年6月の法改正で決まっている。

さらに、今回の第3弾の法改正で、2020年から大手電力会社の送配電網を別会社化することが決まり、新規参入した新電力会社(PPS)などが、中立的な条件で送配電網を使えるようになる。これによって、大手電力による地域独占が終焉し、消費者が電力の購入先を自由に選ぶようになる一方で、PPSなど様々な企業が自由に電力を作り、売ることができる時代が本格的に到来する。

発送電分離は当初、2018年から2020年の間に実施するとしていたが、組織改革を迫られることになる大手電力会社に配慮、5年間の猶予期間を与えた。一方で、一般家庭向けへの小売りを来年4月から先行して自由化することで、新電力会社などが送配電網を使う際の使用料(託送料金)の透明性確保のあり方などを模索していくことになる。

電力の自由化が新規参入など新しいビジネスチャンスになることは間違いない。すでにPPSと呼ばれる新電力会社「特定規模電気事業者」は670社余りが届出されている。2012年には50社余りだったので、3年で12倍に増えた。

2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がスタートしたことで、太陽光発電所が急拡大したことが背景だったが、太陽光発電所は買い取り価格の引き下げなどもあって伸びは鈍化している。

それに代わって増えているのが、来年の電力小売り自由化を狙った新規参入だ。発送電分離が正式に決まり、送配電網を使う際に新規参入業者が不利にならなくなったことで、今後も、新規参入が増える可能性が大きい。

ようやく欧米に追い付いた

段階的な電力自由化によって、すでに大口の電力需要家とPPSが契約しているケースが増えている。とくに病院や学校、市役所などが、電力供給の契約を大手電力会社からPPSに切り替えることによって、年間の支払い電気料金を削減しているケースが少なくない。九州電力管内だけで、5000件近くがPPSに切り替えたと報道されている。

現在のところPPSと契約できるのは、50キロワット以上の高圧電力だけで、工場や学校、ビル、デパート、スーパーなどに限られている。これが来年、家庭向けや小規模事業所などにも拡大されるわけである。

すでにPPSは事業として大きく育ち始めている。NTTファシリティーズ東京ガス大阪ガスが共同出資して設立したPPS大手のエネットは、すでに売上高が2000億円を超える規模に達している。このほかにも商社や金融、石油会社、鉄鋼会社などが設立したPPSが育っている。

安倍内閣の政策決定に影響力のある財界人は、「かつての通信自由化で、NTTが独占していた通信事業に新規参入が生まれ、様々な付随サービスが広がった。通信自由化がなければ、今の情報化社会に日本は対応できなかっただろう」と語っている。そうした声を背景に、欧米では一般的になっている電力自由化を進めようとしたのが、安倍内閣というわけだ。

電力自由化は長年議論されながら、なかなか実現しなかった。地域独占謳歌してきた大手電力会社が強く反対してきたからだ。安定供給が損なわれるといった自由化の負の側面が強調され続けてきたのである。経産省の中には電力改革を進めたいとする勢力もあったが、政治と結びついた電力会社の力に抗し切れずにきた。

これに風穴を空けるきっかけになったのが、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故。これによって電力業界の雄だった東京電力が破綻の危機に瀕し、実質国有化されることとなった。これによって経産省と電力会社の力関係が逆転。電力自由化に賛成の安倍内閣が誕生したこともあり、一気に電力改革が進んだ。

激しい市場争奪戦が始まる

最後に積み残している問題がある。家庭用の小売り電気料金の規制撤廃である。現在は発電などにかかるコストに一定の利益を加える「総括原価方式」をベースに経産省が電気料金を認可している。料金規制が撤廃されなければ本来の自由競争は起きないが、一方で体力のある大手電力会社が価格競争を仕掛けるとの懸念もある。

料金規制に関しては当初、発送電分離と同時に実施する方向だったが、今回の改正で「2020年以降」とすることが決まった。背景には料金認可を通じて規制権限を握る経産省の抵抗があったとされる。もっとも、2020年以降によほど電力の供給体制が歪んだ形にならない限り、料金規制の撤廃を遅らせるのは難しい、という見方もある。

いずれにせよ、東京オリンピックが開催されるころには、大手電力会社やPPSばかりでなく、都市ガス会社やLPG(液化石油ガス)会社などエネルギー関連産業の間で、激しい電力市場争奪戦が行われていることだろう。