【高論卓説】東芝問題、「不適切」か「不正」か オリンパス上回る規模、ミスでは済まず

フジサンケイビジネスアイの7月7日付コラム「高論卓説」に掲載された記事です。
→サンケイBiz http://www.sankeibiz.jp/business/news/150707/bsg1507070500001-n1.htm

 東芝粉飾決算疑惑に揺れている。インフラ事業などで経費を低く見積もることで利益を過大に計上してきたというもので、2015年3月期の決算が確定できない異常事態が続いているのだ。

 利益の水増し額は、当初500億円程度とされていたが、その後、1000億円以上、あるいは1500億円を超えるという報道がなされている。11年に発覚して大問題になったオリンパスの粉飾額は確認されただけで1300億円余りとされていたので、それを上回る規模の会計不祥事に発展する見込みとなっている。

 本来、3月期決算の上場企業は株主総会で決算の承認を得て、有価証券報告書を6月末までに提出しなければならない。決算がまとまらない東芝は、報告書の提出期限を8月末まで延長する申請を行って認められている。6月25日に開いた株主総会では、決算報告が行われず、取締役の選任などを行った。いずれも前代未聞の事態である。

 この問題を報じるに当たって主要メディアは東芝の「不適切」会計問題と表記している。オリンパスなど他の多くの会計不祥事では、「不正会計」あるいは「粉飾決算」と書いてきたが、東芝問題はなぜ「不適切会計」という言葉を使っているのであろうか。

 この問題が大手メディアの知るところとなったのは、4月上旬の会社側の発表だった。その段階から会社側が、会計上の不適切な処理があったと述べてきたことが一因かもしれない。

 だが、「不適切会計」と「不正会計」「粉飾決算」では、明らかに語感が違う。後者2つが意図的なごまかしであるのに対して、前者はいかにも悪意のないケアレスミスのような印象を与える。

 会社が設置した第三者委員会の調査では、特定の事業部門の特定のプロジェクトだけでなく、他の多くの事業部門でも「不適切」な会計処理によって利益が水増しされていたことが分かってきている。全社的に不正がまかり通っていたことをうかがわせる。

 オリンパス事件は、過去に発生した投資の損失を海外子会社などに飛ばし、歴代の経営者がそれを隠し続けてきたものだった。それを知っていたのは特定の経営者だけで、会社ぐるみではなかった、という判断が下された。元トップらは刑事責任を問われた。特定の個人の犯罪とされたのである。

 今回の問題が特定の個人による犯罪でないとすれば、組織ぐるみの不正、あるいは組織に根ざしたあしき風土の問題ということになりかねない。そうなれば、オリンパス事件以上に根の深い問題ということになる。

 オリンパス事件では上場廃止するかどうかが最大の焦点になった。利益を水増しして投資家を欺くことは資本市場で最大の犯罪行為だからだ。ところが今回は関係者が厳しい処分をすることに腰が引けているように感じる。上場廃止問題を検討する取引所も、決算書の正しさを担保してきたはずの監査法人も、それを監督する日本公認会計士協会も、当局である金融庁も、「ケアレスミスだった」で済ませたいのか。もちろん、犯罪行為ということになれば、そうした関係者も監督責任などが問われかねないからだろう。今回の問題が「不適切」という言葉で語られる裏には、そんな責任逃れのムードが横溢(おういつ)している。

【プロフィル】磯山友幸 いそやま・ともゆき 早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務めて、2011年に独立。52歳。