観光地、百貨店は大損害!? 株価暴落で「爆買い中国人」が姿を消す

ちょっと古くなりましたが、7月15日にアップされた原稿です。

テコ入れは無駄骨に終わる

中国・上海株の動揺が続いている。上海総合株価指数は6月12日に7年5カ月ぶりの高値水準である5166を付けたが、その後、下落に転じ、7月8日には取引時間中に一時3500を割り込んだ。わずか1カ月で32%もの急落を演じたのである。

同じタイミングで問題が表面化していたギリシャ債務危機と重なって、世界の証券市場は大きく振り舞わされることとなった。日経平均株価も激しい値動きに見舞われた。

上海株の暴落に対して中国政府は様々な市場介入策を打ち出している。6月末に中国人民銀行が利下げに踏み切ったが、それでも株価下落が止まらないと見るや、政府が年金基金に株式での直接運用を認める方針を発表。さらに、空売りの規制強化や証券会社による株式の買い支えなど露骨なテコ入れに乗り出した。

最終的には、全上場企業のほぼ半数に当たる1400社の取引が停止された。株式市場に出て来る売り物をストップし、買い支える政策を打ち出したことで、ようやく上海株指数は下げ止まったかに見える。7月13日には一時、指数が4000を回復する場面もあった。

では、これで上海株の動揺は収まったかといえば、そうではない。歴史的にみれば、市場原理を国家権力で捻じ曲げようとする行為は、ことごとく失敗してきた。

中国株市場は中国の国内投資家しか売買できないA株が存在するほか、売買対象の株式の多くは国有企業で、中国政府が主要株主になっているものが多い。もともと自由な市場とはかけ離れたいびつな市場ではあるのだが、それでも、中国人投資家の行動を国家が統制することは簡単ではない。

中国経済の限界が見えた

昨年7月の段階では上海総合株式指数は2000前後だったから、まだまだ含み益を持っている投資家も少なくない。利益の出ているうちに売却してしまおう、という意識が働くことは想像に難くない。売りが売りを呼ぶということである。

日本では、これまで何度も中国バブル崩壊が取り沙汰されてきた。ここ何年もの間、経済誌の中国特集は、バブル崩壊モノと相場が決まっていた。過去にバブルを経験した日本人からすれば、「いつか来た道」に見えるのだろう。だが、それでも現実の中国経済は簡単には壊れなかった。

ひとつは中国内陸部に膨大な「フロンティア」を抱えていること。経済成長が鈍化しても、他の先進国に比べれば、新しく生まれるパイの規模は大きかったのである。さらに、市場原理だけで動いているわけではない国家統制経済という体制の違いもあった。

だが、今回は、中国経済の歪みはかなり限界点に達しているように見える。中国当局のなりふり構わぬ市場介入の異常さをみていると、そう思えてくる。

では、中国バブルが本格的に崩壊するとして、日本経済にはどんな影響があるのだろうか。バブルの崩壊は主として中国国民が売買しているA株が舞台なので、海外投資家が直接損失を被る度合は大きくない、という識者もいる。だが、隣国のマーケットが崩れれば、タダでは済まないというのが現実ではないか。

すでに日本の大手証券会社や銀行が販売した中国株投資信託は解約ができなくなっている。上海市場で多くの銘柄が売買停止になったことが影響している。中国株投信を持っている人からすれば、気が気ではないだろう。

だが、それ以上に問題なのは、中国の実体経済が悪化し、それが日本経済にどんな影響を与えるかだろう。まっ先に影響が出始めるのは、日中間の貿易だ。

6月の貿易統計に注目

2014年の日本から中国への輸出は金額ベースで対前年比6.0%増加、中国からの輸入も8.6%増えた。前年の2013年は輸出9.7%増、輸入17.4%増だったので、伸び率は鈍化しているものの、いずれも大きく伸びていた。日中間の貿易収支は2014年で5兆7949億円の赤字。つまり、中国側からみれば貿易黒字を稼いでいるわけだ。

中国の実体経済が悪化すれば、日本からの輸出は減ることになる。月別の貿易統計をみると、3月に前年同月比3.9%増だった輸出額は、4月には2.4%増、5月には1.1%増と鈍化の兆しが見られる。

5月の統計で、興味深いのは、電気機器などは輸出金額は増えているものの、輸出数量は減っていることだ。半導体等電子部品は金額では15.1%増えていたが、数量ベースでは7.9%減っていた。このほか、音響機器も数量では25%減、自動車も台数では44%減となっている。5月は株価が大幅に上昇していた頃だが、もしかすると実体経済には陰りが出ていたのかもしれない。

もちろん季節要因もあるため、1ヵ月だけの統計では判断が付かない。7月末にも発表される6月の貿易統計でどんな数字が出てくるのか。さらに株価下落が鮮明になった7月の貿易にはどんな影響が出るのか、今後の数値から目が離せない。

もうひとつ、今後注目しておきたいのは、日本にやってくる中国人観光客の数だ。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、今年1〜5月に中国から日本にやってきた人の数は171万6400人。前年の同じ期間は83万人だったから、2倍以上になった。桜のシーズンだった4月には1カ月間で40万5800人が日本を訪れ、過去最多を記録した。5月も38万7200人と前年同月の2.3倍だった。

日本の消費が一気に冷え込む

中国人観光客のお目当てのひとつは日本国内での買い物。都心の百貨店やドラッグストア、郊外のアウトレットなどで、大量に商品を買う「爆買い」が話題になっている。

もちろん為替が円安になったことで、中国人からみた日本の物価が大幅に安くなったことが引き金であることは間違いない。だが背景には、中国で株価が大きく上昇したことで、保有する株式の価値が上昇したり、実際に売買益を得たことで、資金が旅行や消費に回っているものと思われる。日本でも指摘される「資産効果」消費である。

上海株の大幅な下落が一過性ではなく、中期的に続くとすると、そうした資産効果に逆ねじが入る可能性も出てくる。いわば「逆資産効果」だ。保有株の価値が目減りしたり、損失を被ることで、一気に財布のひもを締めることである。

つまり、上海株の大幅下落が、日本で起きている中国人の「爆買い」を終わらせることになる懸念もありそうなのだ。

昨年4月の消費税率引き上げ以降、日本国内の消費は芳しくない。そんな中でひとり気を吐いてきたのが「爆買い」だった。百貨店の高級品や化粧品などは中国人観光客が今や最良の顧客になっている。そんな爆買い中国人が姿を消すことになったら、消費が一気に冷え込むことになりかねない。中国からの旅行者で賑わう地方の観光地もうかうかしていられない。

訪日外客数の7月、8月の統計が出るのはまだ先だが、これまで急激に増えていた中国からの来客数に変化が出て来るのかどうか。今後も注目していきたい。