東芝よ、本気で再生しようという気があるのか? 〜不正防止のための新組織が、早々に骨抜きにされるイヤな予感

東芝はガバナンスを一新したといいますが、これで本当に変わるのでしょうか。現代ビジネスにアップされた原稿です。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45188

会長がすべてを牛耳ってきた

不正会計の発覚で決算ができない異常事態が続いていた東芝が、9月7日、2015年3月期の有価証券報告書を関東財務局に提出した。二度先延ばしした期限ギリギリで、決算発表も株主総会も済ませていない中での提出となった。

東芝の発表によると、利益のかさ上げ額は2248億円としているが、すでに確定していた本決算である2014年3月期までだと2781億円に達する。この間の税引き前利益の合計は4481億円としていたが、実際には1700億円に過ぎなかったことが分かった。

同日、東芝はコーポレート・ガバナンスの強化など再発防止策を発表。取締役や執行役など役員候補を公表した。取締役11人のうち7人を社外取締役とし、新設する「取締役会議長」に資生堂相談役の前田新造氏を据えることを決めた。取締役会長で現在代表執行役社長を兼務している室町正志氏は会長を外れ、取締役兼代表執行役社長となる。

これで、形のうえでは、経営の監視と執行を分離する欧米型のガバナンス体制が整うことになる。だが、問題は、それが本当に機能するのかどうか。いや東芝の幹部たちが本気で東芝を変えようとしているのか、である。

東芝は、日本に欧米型のガバナンスの制度が選択制で認められた直後の2003年6月に「委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)」に移行した。監視と執行が分離されるはずだったが、実際には社外取締役の監視は機能せず、今回の不祥事につながった。実は「形」は作ったものの、巧妙に「魂」を抜いていたのである。

委員会設置会社の「肝」が指名委員会にあることは多くの経営者が認めるところだ。委員の過半数社外取締役にすることが法律で求められており、社長をクビにする権限を社外が握ることになるのだから、当然である。

日本企業の多くが委員会設置会社への移行をためらったのも、「指名委員会」への抵抗だった。東芝は見事にそれを骨抜きにしたのである。

これまで、東芝の指名委員会は取締役会長と社外取締役2人が務める形が続いてきた。そして、社外の委員には学者や官僚OBなどを据えたのである。社外が過半数の形ではあるが、社長経験者の会長が牛耳る態勢になることは火を見るより明らかだ。

これではただの「追認組織」だ

不祥事が起きる直前まで、室町会長と、元中国大使の谷野作太郎氏、一橋大学教授だった伊丹敬之氏が指名委員を務めていた。会長の提案を拒絶することのないメンバーを選んできたということだろう。ちなみに、監査委員会も社内委員はガッチリ監査専門家で固め、社外委員は門外漢を据えていた。

今回、東芝は強い批判を受けて、社外取締役には経営陣を招いた。そのうえで、委員会をすべて社外取締役にすると発表している。ちなみに指名委員会の委員長には小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長が就任、議長に就く前田氏も加わっている。

ガバナンスの専門家が首をひねるのは、メンバーをすべて社外取締役にして本当に機能するのかどうかという点。確かに執行との分離が進むのは事実だが、社内のメンバーを直接知る人物がいなくて、本当に代表執行役など経営幹部の人選を行えるのか、というのだ。

委員会に上がって来る候補者の段階ですべて決まっているようなことになれば、委員会が単なる追認機関になってしまう。

従来から指名委員会に入っていた伊丹氏が再び委員になっているのも不思議だ。会計不正を見逃してきた責任が問われてしかるべきなのに、「肝」である指名委員を引き続き務める。従来のやり方を知る伊丹氏が委員会の運営をリードすることになる、と見るのは考え過ぎか。

しかも、ガバナンス体制の再構築を目指すとして東芝が設置した経営刷新委員会の委員長も務めていた。自ら体制を決めて、自らがプレイヤーになったわけである。

形は整ったが、本当に機能するかどうか疑わしいのは、誰が本当の責任者なのかが今ひとつはっきりしないことだ。良し悪しは別として、旧来の体制では代表執行役社長を務め、社長を選ぶ権限である指名委員会を実質的に握った取締役会会長が権力者であることは明らかだった。

では今後は、社外の前田氏が東芝を動かす権力を握るのだろうか。

執行役会が権力を握ればお仕舞い

前田氏が取締役会長に就任していたのなら、あるいはそうだったかもしれない。東芝の再生を社外の手に委ねたと見ることもできだろう。だが、前田氏が就任したのは取締役会議長だ。特定の人に権力が集中するのを避け、取締役全員が共同で責任を負うのが委員会設置会社だという答えが返ってくるかもしれない。

建前はそうでも、実際の組織では誰かが最終的な権限を握るものだ。また、そうでなければ組織は動かない。

東芝のこれまでの組織体制で「権力者」の地位にあったのは室町氏である。その室町氏は代表執行役社長専任となった。そう考えると、東芝の権力は室町氏をトップとする執行役会が握ると見ることも可能だ。

新任の取締役たちがよほど覚悟を決めて経営に当たらないと、執行役会が決めたことを取締役会は追認するだけの機関になりかねない。社外取締役というと、月に1回の取締役会だけ顔を出し、当たり障りのない意見だけを言っていればよい、という風潮がまだまだ日本では根強い。

委員会設置会社では、取締役は、企業の基本的な戦略を描き、実際に会社が目指す事業の方向性を決め、経営を執行する人材を選ぶ役割を担う。

今後、どれぐらい東芝の取締役会が機能していくのか。組織ぐるみで不正に手を染めた企業が、本当に会社風土を変えて出直せるかどうかの、大きな試金石になる。