新日本で不正会計がなぜ頻発するのか?(週刊東洋経済)

東洋経済の「東芝」特集に、監査問題を2ページ書きました。編集部のご厚意で以下に再掲します。
[rakuten:hmvjapan:13156302:detail]

 日本航空、IHI、オリンパス、そして東芝――。粉飾決算や不正会計が発覚した多くの会社で決算書をチェックする会計監査を、新日本監査法人が担当していた。
 東芝の不正会計問題をめぐっては、第三者委員会は報告書で監査法人の責任問題を棚上げした。新日本がどんな役回りを担ったのか、まったく明らかになっていない。
 「新日本は大変だ。いずれさまざまな問題が明らかになってくる。無傷で済むとは到底思えない」。日本公認会計士協会の幹部はこう小声で話す。あずさ監査法人監査法人トーマツとともに日本の3大会計事務所の一角を占める新日本の「監査の失敗」は、監査業界全体を揺るがしかねない。中央青山(解散時はみすず)監査法人の悪夢が脳裏によみがえる。中央青山は、カネボウライブドアマーケティング粉飾決算にかかわり、解散に追い込まれた。

「だまされた」のに辞退しない弱腰監査
 新日本は、所属する会計士らに、不正はあくまで会社主導のもので、新日本は「だまされた」のだと説明している。不正に手を貸したわけではない、というのである。
 だが、それにしては新日本の東芝に対する態度は「弱腰」である。
 だまされたというなら、監査を辞退することも可能だ。監査は会計士と会社の信頼関係の上に成り立っているため、いったんそれが崩れれば、会社の提出する数字はすべて信用できなくなってしまうからだ。
 ところが問題発覚以降、東芝も第三者委員会も、調査報告書を受けて新日本が監査意見を出すのが「当たり前」という態度で臨んでいる。新日本自身、それを唯々諾々と受け入れているように見える。
 なぜそんなに弱腰なのか。監査法人の監査証明が得られなければ会社は上場を維持できなくなる。本来なら、会社よりも監査法人のほうが力は強そうなものだが、東芝と新日本はどうやら逆だったようだ。それを端的に示しているのが監査報酬だ。
 東芝は2009年3月期に14億5600万円を新日本に監査の見返りに支払っていたが、その後年々減り、15年3月期は10億2500万円。同業の日立製作所が新日本に支払った監査報酬(20億2100万円)の半分以下である。
 当然、その分、新日本が東芝の監査に費やす時間も減っていたと思われる。新日本の幹部は「東芝との関係が年々事務的になっていた」と語る。要は、会社に強く物を言うことができなくなっていたのである。
 これは当然、監査の「質」にも響いてくる。実は、東芝リーマンショック後の09年3月期に経営危機に直面していた。有価証券報告書には「重要事象等」としてこんなことが書かれていた。
 「当社が複数の金融機関との間で締結している借入れに係る契約には財務制限条項が定められており、08年度(=09年3月期)に係る連結財政状態により、当該財務制限事項に抵触する懸念がありましたが、同決算の確定前に、当該金融機関との間で当該財務制限条項の修正を合意しており、現在では当該財務制限条項への抵触は回避されています」
 この条項の詳しい内容はわからないが、連結純資産・連結営業損益・格付けが約束した基準を満たさないと、期限の利益を喪失する、つまり借入金を一気に返済しなければならなくなる。

カサ上げ資金調達期に企業継続性の記載なし
 09年3月期末の「社債および長期借入金」は7767億円。短期借入金は前の期末から5000億円近く増えて7479億円に達していた(いずれも連結ベース)。資金繰りが極度に悪化していた。東芝は09年5月の取締役会で増資を決定。同6月末までに3174億円の公募増資と1800億円(年利7・5%)の劣後債発行を行い、ギリギリで資金繰り危機を乗り切っていた。
 実は、ここで今回の不正発覚が大きな意味を持ってくる。09年3月期の税引き前損益が282億円カサ上げされていたことを、第三者委員会が明らかにしたのだ。
東芝は、カサ上げした数字を使って資金調達したことになるのである。これはどうみてもアウトだ。
 財務制限条項への抵触を避けるために損益をカサ上げしていたのかどうかはわからない。だが、条項は修正されたとはいえ、その後も残り続け、東芝が格付けのみならず利益水準を維持する必要に迫られていたことだけは確かなのだ。
 そんな重大な決算だった09年3月期の監査報告書に、新日本はどんな記載をしていたか。有価証券報告書の「事業等のリスク」に東芝自身は「期限の利益を喪失する場合、当社の事業運営に重大な影響を生じる可能性があります」と書いている。
 本来なら監査法人もこの点を指摘するゴーイングコンサーン(企業の継続性)についての記述をすべきなのに、新日本は何も書いていない。期末後に資本調達したことだけが「追記情報」として書かれている。
つまり、投資家にリスクを強調することはせず、安心材料だけを記載したわけだ。
 おそらく新日本はゴーイングコンサーンの付記を検討したに違いない。だが、結局それを見送ったのは会社側との力関係だったのではないか。金融庁もルールを変えて、“支援”していたという見方もある。
 第三者委員会の報告書を読んでも、なぜ歴代トップがそろって利益のカサ上げを求め、様々な部門で組織ぐるみで会計不正に手を染めたのか本当の原因がわからない。犯罪捜査の根本である動機解明がなされていないのである。
 仮に、その原点が09年3月期にあるとするならば、無理な利益カサ上げに合点がいく。
 新日本は14年3月期の決算で、重要な会計処理方法の変更を認めている。定率法だった有形固定資産の償却を定額法に変えたのだが、これで税金等調整前当期純利益は321億円も増加した。どうみても、見た目の利益をよくすることが本当の狙いだったと思われる。それに新日本も「協力」していたわけだ。率先して協力していなかったとしても、東芝が数字をよく見せたいという強い「意思」を持っていたことを新日本は十分に理解していたとみていい。
 会計監査がきちんと機能するには、監査法人の独立性が保たれ、企業との力関係が逆転していないことが不可欠だ。新日本で会計不祥事の「見逃し」が続くのは、会社との力関係で劣位にあることに根本的な問題があるのではないか。規模の大きい法人を維持するために、大口の監査先を失いたくない、あるいは、新規の監査を少しでも取りたいという思いが優先し、企業に足元を見られているのではないか。
 新日本が今後、どう体制を立て直すのか。東芝との関係を本来あるべき緊張関係に戻せるかどうかが、まずは問われることになる。
週刊東洋経済2015年9月26日号