【高論卓説】ラグビーW杯、日本代表の活躍に思う 外国人受け入れ、発想の転換も必要

産経新聞社が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」の約1カ月に1回書いているコラムです。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/151006/cpd1510060500001-n1.htm

 ラグビーのワールドカップ(W杯)で日本は南アフリカに続いてサモアにも完勝を収めた。五郎丸歩選手など日本人の活躍も素晴らしいが、チームの実力の底上げに間違いなく貢献しているのが「外国出身選手」である。

 日本代表チーム31人中10人を占めているのだ。中には日本国籍を取得した選手もいれば、純粋な「外国人」もいる。どうして? と思うが、これはれっきとした国際ルールにのっとった結果なのだ。

 ルールでは(1)本人が日本生まれ(2)両親か祖父母の1人が日本生まれ(3)本人が3年以上続けて日本在住-のいずれかを満たし、他国の代表に選ばれていなければ、日本代表として認められる。日本国籍の取得は条件ではないのだ。移民の多い欧州地域の事情を反映しているとも言えるが、国際的にみると、もはや当たり前のルールになっている。

 古い日本人の感覚だと、「国民」になれるかどうかは「国」が決めることで、個人が国を選ぶことは基本的には難しいと思いがちだ。だが、先進国を中心とする多くの民主主義国家では、個人が国を選ぶのが当たり前になりつつある。自分の能力を発揮できる国や地域を自らの意思で選ぶ、あるいは自分の能力を必要としてくれる社会へと移り住む「自由」があると考えるのだ。スポーツの世界ではそれが顕著に表れているにすぎない。

 ラグビーW杯での外国出身日本代表の活躍に、違和感を持つ人はまだまだいるが、選手たちが「日本のため」に闘っている姿に多くの人が好感を抱いているのは間違いないだろう。まして、高校時代から日本のラグビー選手として育ったという経歴や、出身国の代表入りを断ってまで日本代表に入ったという話を聞くと、日本の代表として頼もしいと感じる。

 最近、経済界を中心に、日本への外国人の移民受け入れを真剣に検討すべきだ、という声が強まっている。人口減少でこのままでは労働力不足が深刻になるといった「経済的事情」を理由にしていることがほとんどだ。

 確かに、人手不足となれば、多くの国民は渋々と受け入れるかもしれない。だが、それで本当に移民問題は前進するのだろうか。

 発想を変えて、自由と民主主義を掲げる先進国の一員として、価値観を共有する外国人には日本で暮らす自由と権利を認めようと考えることはできないだろうか。日本に住み、日本社会に貢献したいと考える外国人材を積極的に受け入れるのである。学ぶにも、スポーツをするにも、働くにも、暮らすにも、日本が世界で最高の場所だと、世界中の人たちが思えば、どんどん日本にやってきてもらう。

 大相撲の外国出身力士を持ち出すまでもなく、すでに日本の伝統文化を支えている外国人は少なくない。このまま人口減少を放っておけば、地域の祭りや芸能も息絶える。

 価値観を共有する外国人を受け入れるには、そのためのルールを整備することが先決だ。なし崩し的に在留外国人が増えていく今の状況こそ、社会を混乱させるだけだ。きちんとルールを作ったうえで、日本を愛する外国人に日本で暮らす自由と権利を認めていくことが、今こそ必要ではないか。そう発想を転換すれば、今欧州で大問題になっている中東からの難民問題にも無関心でいられなくなるはずである。