パリ・テロ事件で高まる「移民排斥論」。しかし、日本が直面する問題を考えたら、移民受け入れは必須だ そろそろ真正面から議論したい

パリの同時多発テロで、それみたことか、移民など受け入れない方が良いのだ、と短絡的に結論づけるムードが強まりそうです。しかし、少子高齢化に苦しむ日本では、放っておけば外国人はどんどん増えていくでしょう。そんな野放図の外国人受け入れが最も危険なのです。こういう時だからこそ、どうやって外国人を受け入れるのか。正面から議論し、明確な移民政策を打ち立てるべきではないでしょうか。現代ビジネスに書いた記事です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46431

「一億総活躍」は移民受け入れNOのサイン?
パリでの同時多発テロが世界に衝撃を与えている。とくに、おひざ元の欧州連合EU)には、シリアなど中東諸国から大量の難民が流入していることもあり、さっそく難民や移民の受け入れを巡る議論が活発化している。

当然、これ以上の難民は受け入れるべきではないという世論が高まっているほか、移民の受け入れ自体に反対する右派勢力の声も強まっている。

問題はこうしたムードを受けて、日本でも情緒的な移民忌避のムードが強まることだ。

「やはり異質な外国人は日本には受け入れない方がよい」
「移民を認めたら国の安全が脅かされかねない」

そんな声がこれまで以上に勢いを増しかねない状況だ。

安倍晋三内閣は現在、公式には移民は受け入れないという姿勢を取っている。安倍首相は国会答弁で「いわゆる移民政策は取らない」と明言。今年9月30日に国連総会で一般討論演説を行った後の記者会見でも、

「人口問題として申し上げれば、我々は移民を受け入れる前に女性の活躍であり、高齢者の活躍であり、出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手がある」

と答えている。

実はこの時の質問は「難民受け入れ」に対する質問だったため、難民と移民を混同していると一部で指摘された。だが、安倍首相に限らず、日本人の多くにとっては、難民も移民も区別がつかないほど、自分たちには関係のない遠い世界の問題としてしか認識されていない、ともいえる。

実際には「難民」は人道上の問題であるため、日本も国際社会の一員として何らかの支援を求められる。一方で、移民をどうやって、どの程度受け入れるかは、それぞれの国の政策ということになる。

安倍首相がアベノミクス第二ステージとして「一億総活躍」を打ち出したことについて、著名なエコノミストは「移民は受け入れないという宣言をしたのではないかと思った」と指摘していた。それほどに、安倍内閣は「移民は受け入れない」という姿勢を貫いていると見られてきたのだ。

だが、実際には、安倍首相も官邸の官僚たちも、急速に進む少子高齢化を前に外国人を受け入れなければ日本社会はもたないという危機感が急速に高まっている。人手不足が深刻化してきたことで、経済界からも移民受け入れを求める声が挙がっている。

移民受け入れ絶対反対を唱える右派議員たち
そんな中で、外国人技能実習制度の拡充によって、受け入れ制度を3年から5年に延長したり、対象職種を介護などにも広げるなど対策を打ち出している。国家戦略特区に限って、外国人家政婦など家事支援人材の受け入れを可能にしたり、日本の伝統文化を世界に広めるという名目の下で和食の料理人などに外国人を受け入れる「クールジャパン人材」の導入を検討している。

こうした対応は、本当は日本人だけでは社会活動が機能不全に陥りかねない部分に、外国人を受け入れようとしているもの。「いわゆる移民政策は取らない」としているために、真正面から移民についての議論ができずに、付け焼刃の対応になっているのである。

安倍首相の周囲にいる右派議員の多くは「移民」に絶対反対の立場だ。こうした声に安倍首相が配慮しているとみられることもあり、移民議論が封じられている。政府には移民政策を議論する場はほぼなく、ゆえに基本的な移民政策もない。

役所も入国管理局がいわゆる「水際」を管理しているだけで、いったん入国した外国人の追跡管理にまで手が回っていないのが実態だ。官邸の官僚も「日本では外国人を管理するという発想そのものがない」と語る。つまり、移民に真正面から向き合わない結果、外国人政策が野放図になっているわけだ。

日本への観光客誘致の拡大を掲げる安倍内閣の政策によって、今年1年の訪日外客数は2000万人に迫る勢いだ。

アベノミクスが始まるまでは長い間、1000万人を目標に掲げながら、実現できずにいた。つまり、月に150万人以上の外国人が日本にやってきているのである。当然のことながら、日本国内に滞留する外国人の数も増えていく。

政府の支援もあり、外国人留学生も大きく増えた。大学や大学院を卒業した留学生は、日本国内での就職を希望するケースが少なくない。そうして、実質的には長期にわたって日本に居続ける外国人が増えているのだ。

こうした定住外国人をどう日本社会に受け入れていくのか、そろそろ日本は真剣に検討する必要があるだろう。単に短期間の労働力として受け入れるのではなく、日本の長期間定住する外国人をどう扱い、日本社会の一員として受け入れていくのか。明確な施策を打ち出す時だと思われる。

逆に、明確な方針を持たないまま、付け焼刃的に外国人を受け入れていけば、移民政策で手痛い失敗をしてきた欧州の先進国と同様、無用な社会的な軋轢を生み、混乱を生じることになる。

むしろ、難民問題をきっかけに、移民が注目を集めている時だからこそ、日本として移民にどう向き合うのか決め、きちんとルール整備をしておくことが不可欠なのだ。

民間有志が集まって今年1月に発足した「定住外国人政策研究会」(座長・國松孝次元警察庁長官)がこのほど、一般社団法人「未来を創る財団」の支援を得て、「政策提言『定住外国人受け入れビジョンーー明るい未来を創るためにーー」をまとめ、杉田和博内閣官房副長官に提言書を手交した。

この研究会には筆者も参加したが、まずは、政策促進のエンジンとして内閣官房に官民共同の「定住外国人問題総合検討懇談会」(仮称)を設置し、省庁の枠を超えた議論を始めることなどを求めた。

さらに、定住外国人受け入れ制度の構築や、外国人への日本語教育の義務化、自治体やNPOの役割明確化などを求めている。

テロの惨劇を移民排斥などの民族問題に発展させてしまえば、むしろテロリストの思うつぼだろう。これを機会に日本もきちんと移民問題の議論を始めるべきである。