上海の余波で韓国経済が危機に直面

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。11月号(10月上旬発売)に書いた原稿です。クロノス→http://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2015年 11 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2015年 11 月号 [雑誌]


 前号のこのコラムで6月の上海株の急落による時計市場への影響が懸念されると書いた。予想通り、スイス時計協会が発表した7月の国・地域別輸出額は、中国が前年同月比39.6%減、香港が28.7%減といずれも急減した。株価の下落による「逆資産効果」で高級時計への需要が減ると見たディーラーなどがスイス時計の輸入を手控えたためと見られる。  
 6月の上海株の下落は、世界の他の市場への影響は小さかったが、その後、8月後半に再び下落した。その際には、日本の日経平均株価をはじめ主要国の株価指数が急落した。この影響は世界の高級時計の売れ行きにもしばらく影を落とし続けることになるだろう。  
 そんな中で、スイス時計協会の7月のデータで目を引いたのが韓国向け輸出の激減である。同月のスイスから韓国への時計輸出額は5000万スイスフラン(61億5000万円)と前年同月比19.7%も減少したのだ。中国株の下落でなぜ、韓国向けスイス時計が落ち込むのか。  
 実は、中国経済の減速で最も影響を受ける国のひとつが韓国だとみられているのだ。韓国は日本と比べものにならない輸出立国の国だ。韓国の国内総生産(GDP)に占める輸出額の割合、つまり「輸出依存度」は40%を超える。日本は15%程度だから、はるかに輸出に左右される経済なのである。
 その韓国の最大の輸出先が中国なのである。何と全輸出の26%、4分の1以上を占めている。2位の米国が11%、日本向けが6%余りだから、いかに中国向け輸出に依存する経済であるかが分かる。ちなみに、輸入も16%の中国が最大相手先。日本は2位で12%、米国は8%に過ぎない。
 9月に中国・北京の天安門広場で行われた対日戦勝軍事式典には、日本の懸念や米国の制止を振り切って朴槿恵大統領が参加し、習近平・中国国家主席、ウラジミール・プーチン・ロシア大統領と天安門上で肩を並べた。同盟国であるはずの米国や日本よりも中国との関係を重視せざるを得ないのも、そんな経済関係の太さが無視できないところまで来ているからに他ならない。
 その中国の経済が大揺れに揺れている中で、韓国が影響を受けるのは当然なのだ。上海株の急落をきっかけに韓国の株価も大きく下落。通貨ウォンも急落した。外国からの投資資金が急速な勢いで韓国から流出しているとされる。  
 韓国は、アベノミクスで日本円が安くなったこともあり、今年春ごろまでウォン高で推移していた。これが韓国の輸出産業にジワジワと打撃を与えていたが、一方でウォン高は輸入品の価格を割安にしたので、高級時計などは好調に売れていた。もともと韓国人は日本人同様ブランド好きの国民性である。
 スイス時計協会の統計でも1-3月までは対前年同期比29.9%増と大幅な伸びを示していた。それが5月あたりから鈍化、6月にマイナスに転じた。韓国の国内景気が一気に冷え込んできたのである。
 中国経済の減速が鮮明になったことで、中国国内の消費が鈍化中国向け輸出に急ブレーキがかかったのだ。輸出が減れば、輸出依存度が高い経済体制である韓国の景気が一気に悪化するのは当然である。
 7月には米投資銀行ゴールドマン・サックスが「新興国通貨のうち、ウォンがもっとも脆弱」とするレポートを発表。本来ならば国内景気を下支えするために、韓国の金融当局は金融緩和(利下げ)を行いたいところだが、通貨不安から利下げできない状態が続いている。「再びアジア通貨危機が韓国ウォンの急落を引き金に発生しかねない」と、ヘッジファンドなどが危機感を募らせるほどに状況は緊迫している。
 日韓関係は政治的には冷え込んだままの状態が続いているが、日本へやって来る外国人旅行者は、中国人、台湾人と並んで韓国人が多い。とくに九州など西日本への韓国人訪問客は突出している。日本での旅行中に時計を購入するケースも少なくなかっただけに、今後、韓国経済の悪化が深刻になると、日本にもその影響が懸念される。