不条理!「税制改革」の名の下に、国が地方のカネを大量に吸い上げようとしている

地域創生の成否は地方が自立心を持てるかどうかにかかっていると思います。にもかかわらず、国は逆に、税制改正で自立心を奪い取ろうとしている。霞が関の行動からすれば当然の流れでしょう。現代ビジネスに書いた原稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46785

国が地方自治を蹂躙する!?
本来は地方税である「法人住民税」の一部を国が吸い上げて、地方交付税交付金の原資とする制度が大幅に拡充される見通しだ。

自民党公明党が12月10日にも与党としてまとめる「2016年度税制改正大綱」に盛り込まれる予定。東京都や愛知県など大都市部の自治体から吸い上げた税を、財政力の弱い自治体に再配分するというのが建前だ。従来は総額6000億円だった規模を、2017年度から一気に1兆4000億円にまで引き上げる方針だという。

都市と地方の格差を是正する――。そう聞くと、理にかなった策に思える。新聞も「東京など都市と地方の税収格差を是正し、地方創生につなげるのが狙い」と書いていた。総務省の官僚の説明をそのまま垂れ流しているのだろう。

だが、法人住民税はもともと地方の財源である。「お前の自治体は豊かだから」と言って、国がいきなり地方の懐に手を突っ込むのは、本来禁じ手であるはずだ。税収をかすめ取られる自治体からすれば、地方自治を蹂躙する行為に映る。

税制改正に向けた動きが本格化し始めた11月12日、東京都の舛添要一知事は、愛知県の大村秀章知事、名古屋市河村たかし市長らとともに総務省を訪れ、高市早苗総務相に一通の提言書(http://www.zaimu.metro.tokyo.jp/syukei1/zaisei/271109teigenoyobiyousei.pdf)を手渡した。提言書には、神奈川県の黒岩裕治知事、大阪府松井一郎知事も名を連ねており、両自治体からは副知事が代理で出席した。

「不合理な偏在是正措置の撤廃」と書かれた提言には次の3つの項目が記されていた。

・法人事業税の暫定措置は、消費税率10%への引上げを待つことなく、速やかに撤廃し、地方税として復元すること
・ 地方法人税は速やかに撤廃し、法人住民税に復元すること
・ 上記措置の拡大及び上記に類する地方自治体間での財源調整のための措置の新設は行わないこと

法人事業税の暫定措置とは2008年に国が設けたもので、法人事業税の一部を「地方法人特別税」という名の国税にして国が徴収、財政力の弱い自治体に再配分する措置だ。消費税率が10%に引き上げる段階で撤廃されることになっており、税制改正大綱でも2017年から廃止とされている。それを早期に撤廃せよ、というのだ。

次の地方法人税は、地方税である法人住民税の一部を国税化したもので、2014年10月に創設された。今回の税制改正大綱で拡充が計画されているものだ。三番目の項目は、要は「地方間の財源調整」を名目とした国の関与を増やすな、と言っているのである。

提言の前文は、「真の地方自治は、地方自治体が自らの権限とそれに見合う財源により、主体的に行財政運営を行うことで初めて実現できる」という書き出しから始まっている。つまり、主体的な財政運営をしなければ、地方自治とは言えない、と言っているのだ。

当たり前の事のように聞こえるが、実際には、地方自治体の財政運営は「国による統制下」にある。自治体の自主性は乏しく、地方が財政的に自立しようという気概もない。その意味では「国頼み」と言うこともできる。

自立の芽を摘む真犯人
地方の自立を妨げている最大の仕組みが「地方交付税交付金」制度だ。所得税法人税、消費税を「国税」としていったん国が吸い上げ、それを「交付金」の形で地方に配分する。財政力の弱い自治体に手厚く配分される「再配分機能」に特長がある。財政力が豊かなところには配分されない。これを「不交付団体」と呼んでいる。

ところが全国に1800弱ある地方自治体のうち、不交付団体は60しかないのである。豊かな半分の自治体が厳しい半分の自治体を賄っているというのなら「再配分」と言えるが、圧倒的多数の自治体が国から降ってくる交付金に「頼っている」のである。

地方へ行って自治体の職員に聞けば、「交付税交付金なしに財政を賄うのは無理です。自立なんてできっこありません」と異口同音に言う。つまり、自立の芽を摘む制度なのである。

小泉純一郎内閣から第1次安倍内閣にかけて、地方分権のキーワードとして「三位一体の改革」という言葉が使われた。国から地方への税源移譲と、国庫補助金の廃止・縮減、地方交付税交付金の見直しを一体的に進めるとしたのだ。第2次安倍内閣以降も地方分権の旗は降ろしたわけではないはずなのだが、三位一体はどこかへ行ってしまった。

その代わりに出てきたのが「再配分強化」策としての、地方税国税化なのである。三位一体を反故にする政策と言ってもいいだろう。

なぜ、霞が関は再配分強化に動くのか。端的に考えれば、再配分機能を拡大させれば、それに伴う権限も大きくなり、霞が関の利権は拡大するのである。

東京都が繰り返し主張している事だが、地方税国税化しても、その分が地方に配分される保証はない。おカネに色はないので、地方交付税交付金の別の枠で削られれば、総額は増えない。再配分強化を建前に、要は国の財源として使われてしまう懸念があるのだ。

また、舛添知事らの提言にもあるが、「再配分」によって地方自治体間の財源調整を行っても、深刻化する財政難が根本的に解決するわけではない。

「豊かな自治体」としてターゲットになる東京都だが、本当に「財政が楽」なのかどうかは疑問だ。税収を住民一人当たりで割れば、全国の都道府県の平均以下になる。また、今後、住民が急速に高齢化するなど、財政支出が一気に膨らむ可能性が高い。インフラの老朽化対策なども待ったなしだ。「思っているほど東京都の財政は豊かではない」と都の幹部も言う。

カネがありそうなところから取るという付け焼刃の対策では、国も地方も早晩行き詰まることになるだろう。