「東芝・巨額粉飾問題」ベテラン会計士が明かす監査の実態〜だから不祥事は繰り返す!

3月2日に現代ビジネスにアップされた原稿です。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48081

誰も「信頼回復」をうたわない
東芝の巨額粉飾決算問題で、監査を担当していた新日本監査法人行政処分を受けるなど、会計監査のあり方が大きく問われている。不祥事が繰り返されるたびに監査の見直しが行われてきたが、制度の不備が問題なのか。

日本公認会計士協会で副会長を務めたベテラン会計士の住田光生氏(76)は「われわれ会計士自身の問題だ」と、後輩を叱咤する。どういう事か。住田氏に聞いた。

――東芝問題が監査制度を根本から揺さぶっています。金融庁は「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置して、監査制度の見直しなどを行う意向のようです。

住田 もちろん、制度に大きな欠陥がないのか、きちんと検証することは大事です。しかし、日本の監査制度自体は国際的にみても何ら遜色はなく、よくできた制度だと私は思います。にもかかわらず、粉飾事件が繰り返されるのは、結局は、われわれ会計士自身の問題です。会計士が深い反省に立ったうえで、信頼の回復を目指すことが不可欠だと思います。

日本公認会計士協会では今、会長選びが行われていますが、理事選挙の候補者たちの“公約”で、「信頼回復」を真正面から掲げた人はほとんどいません。会計士業務の多様性などを訴え、「あなたの仕事を増やします」といわんばかりの“公約”を掲げています。業界全体を揺るがす、あれだけの問題が起きたにもかかわらず、危機意識が根本的に欠如しているのです。

ーー会計士自身の問題とはどういう意味ですか。

住田 監査を担う会計士としての使命感の欠如です。会計士や弁護士は「士業」と言われますが、真の「サムライ」魂をどうやって蘇生させるかを考えなくてはなりません。また、会計士は「職業的懐疑心を持て」と言われるわけですが、これを堅持することも大切です。そのために何をやるか。

会計士としての教育をきちんとするしか手はないでしょう。会計教育というと新しい会計知識やテクニックを教えることに偏りがちです。特に「倫理」については、もっと教育時間を増やすべきです。

監査法人が震え上がるようなレビュー制度を

東芝の問題では、会社と会計士の力関係が問題になりました。

住田 昭和40年代(1965年)以降、監査法人は中小事務所の合従連衡で規模を拡大しました。もともとは大きな組織ではなかったので、上場する大企業を監査することは会計士にとって名誉なこと、という意識がありました。大企業の監査をやっている会計士は一流。そんな感覚は今でも根強くあります。厳しい監査をして契約を失ったらどうしようと考えてしまう体質は厳然として残っています。

かつては、大企業を監査していると黒塗りのハイヤーが迎えに来たり、高級料亭で酒食の接待を受けたり、ゴルフやカラオケが当たり前でした。最近ではそうした事はほとんどなくなりましたが、企業からの独立性の保持や癒着を回避する意識は会計士一人ひとりが強く持たなければなりません。

私が会計士協会の役員だった頃、倫理規則の制定やCPE(継続的専門研修制度)の導入に力を注ぎましたが、当時は、余計な事をしてくれるな、というムードが強かったのです。やはり、企業と会計士の間に健全な緊張関係が働かなければなりません。

ーー癒着を防ぐために、企業を担当する会計士を監査法人内で交代させるローテーション制度が導入されています。

住田 合併を繰り返した監査法人では、監査企業ももともとはどこの法人の担当だったという「色」が残っている例が多く。その旧法人で育った会計士が代々、その企業を受け継いでいるというケースが少なくないのです。法人内のローテーションでは、そうやって何らかの関係がある会計士を担当にすることが可能になります。

ーー担当の監査法人を一定期間後に交代させる「監査法人のローテーション」を導入すべきだという声もあります。

住田 会計士協会や監査法人の幹部の間には反対する声が多いと思いますが、検討することは大事ですね。もうひとつ、会計士協会が各監査法人に対して行っているレビューという制度があります。この制度自体は良くできていると思うのですが、レビューにやってくる人材の資質や、姿勢には首をかしげることがあります。

協会の仕事なので身が入らないのかもしれませんが、もっと優秀な人材を送り込んでビシッとした姿勢でチェックをすべきだと思います。レビューを受ける監査法人が震え上がるぐらいでないとダメですね。このレビュー制度をもう一度考え直す必要があるのではないでしょうか。

後輩たちに教えたい「王道を歩む」ということ

ーー監査法人のローテーションを義務付ける場合、現在のような3法人による寡占状態だと機能させるのは難しいのでは。

住田 監査法人の大規模化、巨大化は検証し直すべき問題ではないでしょうか。巨大な組織を維持するために、コンサルティング業務など様々な業務に手を広げる必要が出てきます。いわゆる「業務の多様性」によって、利益を上げることに力を注ぐようになります。

これは監査法人にとっては危険なことです。利益を上げることを法人から第一に求められるようになったら、会計士は真摯に監査業務に集中できなくなってしまいます。

ひとつの監査法人で担当できる企業数の上限を決めるとか、独占禁止法をきちんと適用することが重要だと思います。英国では、監査法人の寡占化が問題視されているようです。

ーー今年7月に交代する会計士協会の新会長には何を期待しますか。

住田 深い反省の下、信頼回復を目指す姿勢を前面に打ち出して欲しいと思います。「信なくんば立たず」です。後輩たちには、公認会計士としての王道を歩んでもらいたいと思いますね。