国内消費を底上げする「地価上昇」には 外国人による国内不動産取得の促進が鍵

月刊エルネオス5月号(5月1日発売)に掲載された原稿です。 http://www.elneos.co.jp/

銀座で公示価格の最高額更新

 国土交通省が三月下旬に発表した公示地価(一月一日時点)によると、東京・銀座四丁目の山野楽器銀座本店が一平方㍍当たり四千十万円と前年に比べて一九%上昇し、バブル期などを通じて公示地価としては過去最高額を記録した。これまでの公示地価で最高だったのはリーマン・ショック前の二〇〇八年に同じ山野楽器本店で付けた三千九百万円。バブル経済期の一九九一年は、銀座と新宿で三千八百五十万円を記録したのが公示地価の最高だった。銀座に関する限り、かつての土地ブーム時代を上回る値が付いたことになる。
 銀座で地価が急上昇したのは、外国人観光客の急増を背景に「GINZA」が、パリやニューヨークと並ぶ世界ブランドとして再認識されていることがある。高級宝飾品ブランドなどが銀座中央通り沿いの一等地に大型の店舗を開くために、ビルや土地を取得する流れが続いている。
 バブル崩壊以降、日本の不動産は世界的に見て割安感が強まっているうえ、アベノミクスによる円安によって、海外企業から見れば「お買い得」感が増している。
 銀座に象徴される都心一等地の地価上昇に引っ張られる形で、住宅地や商業地を合わせた全用途の全国平均の公示地価も前年比プラス〇・一%となった。〇八年以来八年ぶりに上昇に転じたのだ。バブル崩壊以降、ほぼ一貫して続いてきた不動産価格の下落がようやく止まったのである。
 では、これで、日本の地価は本格的な上昇に転じるのだろうか。地価が上昇すれば「買い替え」需要を喚起することになり、建設・住宅関連の消費に火が付くきっかけになる。低迷が続いている国内消費を底上げする効果があるのだ。

マイナス金利が押し上げ要因

 バブル崩壊後に下落し続けていた公示地価が一度上昇に転じたことがある。〇七年と〇八年のことだ。やはり都心部の不動産が上昇、「ミニバブル」の様相を呈した。ところが、〇八年秋にリーマン・ショックが起きると、株価の大幅な下落とともに地価も再びマイナスに転じた。果たして今回は本格的な地価上昇へと結び付くのか。
 地価上昇の牽引役は銀座に象徴される東京圏の商業地の上昇だ。三年連続での上昇となった。となれば、すっかり値上がりが定着した感じがするが、決してそうではない。上昇率が〇七年、〇八年の時に比べて小さく、上昇の勢いがいまひとつ乏しいのである。
 〇七年の上昇率は九・四%、〇八年は一二・二%だった。ところが、今回は、一四年一・七%、一五年二・〇%、一六年二・七%に過ぎないのだ。ジワジワと上昇率が大きくなっているが、明らかに「勢い」が八年前と違う。
 その大きな理由は、今回の地価上昇が「局所」にとどまっているためだ。銀座や新宿など都心一等地の上昇は大きいが、それが周辺には広がっていない。〇七年には東京・六本木に「東京ミッドタウン」が開業するなど、丸の内から六本木などへ「多極化」する流れが広がったが、今回は丸の内や日本橋など都心の中でも中心部への「集中」が強まっている。地価上昇が都心の広い地域に拡大していないのである。
 地方都市でも似たような現象が起きている。地方の中核都市への集中が起き、都市中心部の地価は上昇する一方で、外縁部はむしろ下落する傾向が続いているのである。
 三月号のこのコラムでも触れたように、日本銀行が始めた「マイナス金利」が本格化すれば、不動産価格全体が押し上げられ、「資産バブル」の様相を呈する可能性がある。
 日銀が一月に発表した「マイナス金利政策」は、市中銀行が日銀に「新たに」預ける当座預金について〇・一%のマイナス金利を適用するとしたもので、すでに当座預金に積まれている二百十兆円については従来通りプラス〇・一%の金利が付いている。この一部もしくは全部をゼロ金利もしくはマイナス金利にすることになれば、一気に資金が資産投資などに回る可能性が出てくる。
 市中銀行にとっては、資金を当座預金に置いておけば損をするだけなので、無理をしてでも貸し出しや投資に回すことになるからだ。そうなれば世の中におカネが回るようになるわけだ。果たして日銀がどこまで本気で、そうした資金の〝追い出し〟を行うかが、地価の動向に直結するとみられる。

鍵を握る外国人投資

 もっとも、すでにマイナス金利政策によって市中金利が大きく低下しているため、住宅ローン金利も大きく下がっている。マイホームを考えている人たちにとっては絶好のチャンスだ。マイホームの取得が増えれば、住宅地の地価が上昇に転じることになる。すでにマイナス金利を採用しているスイスやEU(欧州連合)などでは、住宅取得などが増え、不動産価格の上昇が起きている。日本でも同じことが起きる可能性は十分にあるのだ。
 しかし、日本ならではの問題がある。人口の減少だ。総務省が三月二十二日に発表した昨年十月一日現在の推計人口(確定値)は一億二千七百十一万人と、一年前に比べて十三万九千人減少した。人口の減少傾向がすっかり定着しているのだ。また、五年に一度行われている国勢調査でも調査開始以来、初めて人口が減少した。人口が減れば、当然、不動産への需要も減る。
 そんな中で、外国人をいかに日本に住まわせるかが大きな課題になる。ビジネス目的やレジャー目的で日本に長期滞在する人が増えれば、当然、ホテル建設などの不動産需要は盛り上がる。また、外国人が投資用・滞在用として日本で不動産を取得・保有する動きが強まれば、地価上昇に弾みがつく。中国人による都心のマンション購入だけでなく、オーストラリア人などによる北海道のリゾートマンションの購入など、幅広い目的で外国人が日本の不動産を購入するケースが増えている。
 こうした流れを政府が後押しするために、さまざまな規制緩和や優遇策の実施をしていくことが不可欠だろう。銀座のように外国資本が日本全国の不動産の価値に気が付けば、不動産価格は本格的に上昇することになるに違いない。