【高論卓説】東芝元社長、刑事責任問われず?

産経新聞社が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」のコラムに7月21日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/business/news/160721/bsg1607210500001-n1.htm

■市場の信頼崩壊、回避へ上場廃止

 東芝が巨額の粉飾決算をしていた問題で、田中久雄・元社長ら歴代3社長の刑事責任が問われない可能性が強まっているという。

 明らかな粉飾決算だとする証券取引等監視委員会と、立件へのハードルが高いとみて起訴に慎重な検察当局の見解が対立しているらしい。

 東芝が昨年9月に公表しただけでも2008年度から13年度までの6年間に税引き前利益が2781億円もかさ上げされていた。優良企業とみられていた日本を代表する企業の巨額粉飾である。

 既に金融庁は昨年12月、東芝が「重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した」として、73億円余りの課徴金を課した。金融庁が認定したのは2年分だけだが、それでも最終利益が1308億円過大に記載されていたとした。法律上は「有価証券虚偽記載罪」である。

 ところが、粉飾の事実はあるのに罪を問うべき「犯人」がいない、という不思議なことになっているというわけだ。

 歴代3社長は「チャレンジ」など営業の尻をたたいたが、粉飾を直接指示したことはないと主張しているもようだ。実際に粉飾を指示したことが分かる確定的な証拠も検察は手に入れていないようだ。当事者に否定されては到底、裁判が維持できない。

 では、誰が巨額の粉飾を行ったのか。社長の意向を忖度(そんたく)して「会社ぐるみ」で数字を作ったというのなら、逃げようがない。東芝という会社を上場廃止にするほかないだろう。

 東京証券取引所は昨年9月の段階で東芝を「特設注意市場銘柄」に指定している。東証は「(虚偽記載を行った場合であって、)直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」に上場廃止にすると定めている。その「秩序維持」が困難かどうかを見極める「執行猶予」の期間として定められているのが「特設注意市場銘柄」だ。

 金融庁など霞が関は、日本を代表する企業である東芝上場廃止にすることだけは避けたいと考えてきたフシがある。東芝の事業には防衛関連も原子力もある。上場廃止で信用不安が起きれば破綻しかねない。

 だからこそ、トップが指示をして虚偽記載させたという「個人の責任」にしたかったのだろう。オリンパスの巨額損失隠しでは、経営者が逮捕され、責任を認めて執行猶予付き有罪となった。ところが、東芝のトップは頑として責任を認めていないようなのだ。

 個人の犯罪なら、逮捕起訴が当然。会社ぐるみということになれば、上場廃止が避けられない。起訴もされず、上場廃止にもならなければ、東芝東芝の元経営者にとっては願ってもない話かもしれない。

 だが、そうなれば、世界の投資家は日本の株式市場のいい加減さに心の底からあきれることになるだろう。金融庁東芝を守ることで、日本の資本市場の信頼をぶち壊すことになるということを真剣に考えるべきだろう。