「規制改革推進会議」から、伝統的な日本企業の面々が消えた理由 ズラリ並んだ改革派、さて…

現代ビジネスに9月7日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49667

難航したメンバー選び

なかなか飛ばないと言われ続けているアベノミクスの「3本目の矢」。民間投資を喚起する成長戦略が成果を挙げるには、「規制改革が一丁目一番地だ」と安倍晋三首相は繰り返し述べてきた。その規制改革を担う組織がこのほど一新された。

「規制改革推進会議」の設置が9月2日に閣議決定され、14人のメンバーが固まったのだ。設置の根拠となる「規制改革推進会議令」などは7日に公布・施行される。
 
もともと第2次安倍内閣で「アベノミクス」を掲げて以降、改革を主導してきた「規制改革会議(議長:岡素之・住友商事相談役)」の設置期限が今年7月末までで、当初はそれまでにメンバーを入れ替えて継続する予定だった。

ところが岡氏の後任人事などメンバー選びが難航。結局期限までに人選できず、いったん会議体は消滅。後継組織として推進会議が発足する格好になった。
 
これまで政府の規制改革を担う組織では企業経営者がトップを務めてきた。村山内閣の「行政改革委員会規制緩和小委員会」を源流とするが、それ以降、第1次小泉純一郎内閣までは組織名を変えながらもオリックスの社長だった宮内義彦氏がトップだった。第2次小泉内閣以降は日本郵船の社長を務めた草刈隆郎氏が議長になった。

その後、民主党政権時代に消滅していた規制改革会議を安倍首相が2013年に復活させ、岡氏が議長に就いた。

そうした経緯から経営者を中心に人選が進められたのだが、規制改革の旗振り役として火中の栗を拾う役回りだけに、引き受け手が現れなかった。商社の元トップや製造業の経営者も候補に上ったが、政府の他の会議体のメンバーとの調整もあり、難航した。

そうそうたるメンバーだが

規制改革会議のメンバーからは金丸恭文・フューチャー会長兼社長を推す声が強かった。昨年、政府が踏み込んだJA全中の権限を大きく弱める農協改革案をまとめ上げた力量を高く評価してのことだったが、金丸氏自身は「私がまとめ役の議長になったら、誰が弾を打つ役割を担うのか。(改革に抵抗する)農協が喜ぶだけだ」と周囲に語り、固辞し続けた。

結局、前身の規制改革会議で議長代行だった大田弘子政策研究大学院大学教授が議長に就き、金丸氏が議長代行となることで決着した。

新組織のメンバーは14人。前身の15人より1人減ったが、女性は4人から5人に増えた。経団連初の女性役員として審議員会副議長になった吉田晴乃・BTジャパン社長が就任したのが目を引く。

問題は、新組織で規制改革が大きく進むことになるのかどうか、だ。伝統的な大企業の経営者が議長やメンバーになるのを躊躇する背景には、そうした企業が規制に守られている部分が少なからずあるためだ。規制によって新規参入が制約され、既存企業が形として既得権を得ている形になっているケースが少なくないのだ。

これまでにないほどの改革

メンバーから伝統的な大企業の役員が姿を消し、外資系企業のトップなど改革派とみられる人たちが加わった。

吉田氏のほか、インテル社長の江田麻季子氏も外資系で女性の経営者で、日本的な規制に批判的な姿勢を持っているものとみられる。富士フイルムホールディングス会長の古森重隆氏は日本の大企業だが、主力分野を大きく転換させてきた改革的な経営者だ。

規制改革には社会保障制度や労働政策の見直しが不可欠だが、八代尚宏昭和女子大学特命教授がメンバーに加わったのも注目点。第1次安倍内閣から福田康夫内閣時代にかけて、経済財政諮問会議の議員を務めた。当時、大田氏が経済財政担当相を務めており、関係も深い。根っからの改革派で、改革に抵抗する各省庁の官僚の中には警戒する向きもある。

もうひとり、注目すべきが原英史・政策工房社長。元経済産業省の官僚で、公務員制度改革などに力を振った。独立後は各政党の政策立案などを支援する政策工房を設立。大阪維新の会や旧みんなの党などの改革的な政策づくりに関与してきた。

これまで規制改革の突破口と安倍首相が位置付けてきた「国家戦略特区」での具体的な規制改革手順などを検討する「国家戦略特区ワーキンググループ」の委員として、政府の規制改革に関与してきた。同ワーキンググループには八代氏も加わっており、今後、規制改革会議と国家戦略特区諮問会議などの緊密な連携が図られることになりそうだ。

規制改革は「総論賛成各論反対」の典型である。アベノミクスを推進するためには規制改革を進めよと多くの自民党議員は言うが、実際に改革案の検討が始まると、既存業界をバックに持つ議員らが徹底抗戦するという形が続いてきた。
 
メンバー構成を見る限り、規制改革推進会議はこれまで以上に改革色を強めるに違いないが、最終的にそれが実現するかどうかは安倍首相ら政治家のリーダーシップが不可欠だ。

農業、医療、雇用制度など、安倍首相が「岩盤規制」と名指ししてきた分野では、一歩一歩改革が動き出してはいる。農地の集約化や企業参入、医療での混合診療など、風穴が空きつつあるようにも見える。雇用制度については「働き方改革」を掲げ、「今後3年間の最大のチャレンジ」だと強調している。
 
規制改革推進会議のメンバーには、具体的な規制の見直しにつなげていく地道な「戦い」が求められる。