小池都知事と安倍首相が意外なところで「タッグ結成」!? 全面衝突すると思われていたのに…

現代ビジネスに9月21日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49767


安倍首相に微笑みながら…
安倍晋三首相が規制改革の突破口と位置づけてきた「国家戦略特別区域(国家戦略特区)」。全国10ヵ所の指定地域で、既存の法令にしばられない「特例」が認められる制度だ。

すでに企業による農地保有や国際医療拠点での外国人医師の診療、医学部の新設や民泊など、改革の成果が出始めている。もっとも実現した改革が「小ぶり」なこともあって、アベノミクスの改革は息切れした、といった評価が目立つ。

そんな中で、国家戦略特区に意外な援軍が現れた。東京都の小池百合子知事だ。

9月9日、国家戦略特区の司令塔である「特区諮問会議」が首相官邸で開かれた。2014年1月の第1回から数えて23回目。秋の臨時国会や来年1月の通常国会をにらんだ新しい年度のキックオフ会議である。

諮問会議のメンバーは10人。安倍首相自身が議長を務め、ほかに閣僚4人と民間有識者5人で構成する。閣僚は麻生太郎副総理と、8月の内閣改造で地方創生・規制改革担当相に就いた山本幸三大臣、経済財政政策担当の石原伸晃大臣、菅義偉官房長官だ。内閣改造で地方創生担当と規制改革担当が一本化されたことから、官僚議員が1人減った。

民間有識者議員は竹中平蔵東洋大学教授、八田達夫大阪大学招聘教授、坂根正弘コマツ相談役、秋池玲子ボストンコンサルティンググループ・シニアパートナー、坂村健東京大学大学院教授の5人である。

この日の会議には麻生副総理と坂根氏、秋池氏が欠席したが、臨時議員として3氏が加わった。麻生氏の代理の木原稔財務副大臣と、塩崎恭久厚生労働大臣、そして小池都知事だった。

小池知事は冒頭、自己紹介と共に会議に参加を許された礼を述べると、「安倍総理、特によろしくお願いいたします」と安倍首相に微笑みかけた。そのうえでこう語った。

「東京の課題解決とさらなる成長を前に進めていくためには、この国家戦略特区というのは、大変重要なツール、武器になってくるものと思います。今まで以上にこの特区制度を活用させていただきたいと考えております」

東京都は特区に指定されてきたものの、特区の活用には慎重だとみられてきた。特に舛添要一知事は『現代ビジネス』の自身のコラムで、「『国家戦略特区』推進のために、都知事が存在しているわけではない」という記事を掲載、安倍首相の規制改革路線に一線を画す姿勢を見せていた。

中でも舛添氏自身が大臣を務めた経験のある厚生労働省関連の分野の改革には冷淡だとされた。例えば、ホームヘルパーなどに外国人の就業を認める「家事支援」については、神奈川県が実施に踏み切ったにもかかわらず、舛添氏の反対で東京都は拒否し続けてきたとされる。


180度の大転換

多摩川を渡っただけでサービスが認められないとなれば、事業者にとってだけでなく、消費者にとっても不便。安倍首相が舛添氏に直接電話して依頼したにもかかわらず、舛添氏は拒否姿勢を変えなかったと言われる。

小池知事はこの東京都の姿勢を180度転換させた。

「待機児童対策についての規制改革の要望、特に保育所の設置、運営基準について、地方自治体の裁量権の拡大を要望させていただきます」

特区諮問会議では次々と厚労省マターに斬り込んだ。臨時議員として塩崎厚労相が呼ばれたのは、これを「受ける」ためである。小池氏は女性活躍推進こそが成長戦略の一丁目一番地だと指摘、育児休業期間を2歳まで延長することや、小規模保育の対象年齢の制限撤廃などを要望した。また、特区諮問会議が進めてきた都市公園内の保育所設置の特例についても、代々木公園への設置などをぶち上げた。

さらに、外国人材による家事支援についても方針を転換した。

「外国人材による家事支援の特例でありますけれども、東京都は、全国最大の規模の市場になり得るわけでございまして、年度内には事業者選定を行って、来年度は全国トップの実績を上げてまいりたい」

アベノミクスに全面的に協力する姿勢を見せたのだ。

最後に小池知事は内閣府の担当者たちの度肝を抜く発言をした。


石原氏も「全面的に支持」

「なお、もう一つお願いがございまして、区域会議の事務局でありますけれども、ぜひ円滑に進めるために東京都にも事務局を担わせていただければと思っておりまして、よろしくお願い申し上げます」

区域会議とは、特区を担当する大臣と、特区に指定された地域の首長、特区で特例を受けて実際に事業を行う民間事業者の三者が集まって具体的なプランを作る場。各省庁の大臣らも参加できるものの、最終的には三者の意見に従うことになっている。つまり、区域会議とは独立国家の司令塔のような存在なのだ。

従来、この区域会議の事務局は内閣府に置かれていたが、これを東京都と共同の事務局にして欲しいと提案したのである。東京都の「本気度」を示す提案だと言っていいだろう。

知事選に立候補するに当たって、小池氏と自民党との間に確執が生じたのは周知のとおり。自民党東京都連が中心となって推した増田寛也・元総務大臣を大差で破ったため、都連会長だった石原氏を会長辞任に追い込んだ。その石原氏も出席していた特区諮問会議で、全面的に安倍首相に「従う」姿勢を見せつけたのである。

アベノミクスの成果を国民に示したい安倍首相からすれば、最大の経済基盤である東京都が本気で改革に乗り出すかどうかは、特区の成否に直結する。小池知事の姿勢がありがたくないはずはない。

小池知事からすれば、冷戦状態が続く自民党東京都連の頭ごしで首相や閣僚と太いパイプを構築してしまえば、都議会の運営にも活路が開ける可能性が出てくる。政治力学を読み込んだうえでの小池流の決断だったのだろう。

東京都が国家戦略特区として改革の先端を走るようになれば、飛ばないと言われてきたアベノミクスの三本目の矢、つまり規制改革で目に見える成果が出始める可能性がありそうだ。