住宅ブームは来たけれど…景気悪化を予感させる「気になる数字」 7ヵ月連続減少って危なくない?

現代ビジネスに11月2日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50111


なぜいま、住宅ブームか

新しく住宅を建て始めた家やマンションの戸数を示す「新設住宅着工戸数」が伸びている。国土交通省が10月31日に発表した9月の新設住宅着工戸数は8万5622戸と、1年前の9月に比べて10.0%増加。4ヵ月連続で8万戸を超えた。

前月に減少していた分譲マンションの着工が23.0%増と大幅に増えたほか、分譲一戸建て住宅も11ヵ月連続で増加した。また、持ち家は8ヵ月連続のプラス、貸家も11ヵ月連続での増加となった。

注目できるのは、2014年4月の消費増税前に駆け込みで着工戸数が増えた時期とほぼ遜色のない水準で今年2月以降推移していること。2月から7月までは5月を除いて2013年の同月の数字を上回った。
 
今年8月(8万2242戸)と9月(8万5622戸)は、駆け込みが本格化した2013年8月(8万4343戸)と9月(8万8539戸)にはさすがに及ばなかったものの、2013年以外の2009年以降の過去6年の数字を、大きく上回ったのだ。高水準の「住宅ブーム」が起きていると見てよさそうだ。

なぜ、住宅ブームが起きているのか。

ひとつは中古マンションの価格が上昇していることがある。国土交通省の調べでは2010年を100とした不動産価格指数で全国の中古マンションの価格は2013年1月ごろの101程度から上昇を続け、2016年5月には128程度になっている。ほぼ一本調子の右肩上がりが続いてきたのだ。特に、都心部での価格上昇はさらに大きくなっている。

中古マンションの価格が上昇して資産価値が上がれば、すでにマンションを持っている人たちの買い替えが容易になる。実際、マンション購入歴が浅い若い人たちの間で、マンションを買い替える動きが広がっている。

その際に問題になるのが住宅ローンの借り換えだが、日本銀行によるマイナス金利政策がそれを後押ししている。住宅ローン金利の低下によって、マンションを買い替えた方が返済額が下がるケースがあるなど、金利低下が買い替え需要を喚起し始めているのだ。

こうした需要増を受ける形で、分譲マンションの着工が増えているわけだ。また、中古マンションを売却して戸建ての住宅を買うケースも徐々に増えており、これが戸建ての着工増加につながっている。
 
日本銀行は11月1日の政策委員会・金融政策決定会合で、これまでの金融政策を維持する方針を決めた。マイナス金利政策を継続したうえで、長期金利をゼロ程度に誘導するというもの。さらにJ−REIT不動産投資信託)の買い入れも引き続き行う方針を決めたことで、今後も不動産関連投資に資金が回る可能性が大きい。


一方で、深刻な「消費停滞」が… 
2012年12月末に発足した安倍晋三政権はまもなく丸4年を迎える。就任早々から打ち出したアベノミクスについては、その効果が「実感できない」という声が根強い。

一方で、10月28日に発表した労働力調査によると、「雇用者数」は5771万人と前年同月に比べて84万人も増加。45ヵ月連続の増加となった。一方で完全失業率は3.0%と歴史的な低水準にあり、完全失業者も204万人と76ヵ月連続で減少している。

雇用者数の増加はアベノミクス開始以降、増え続けており、安倍首相もしばしば「アベノミクスの成果」だと強調している。もちろん、背景には急速に人手不足が深刻化していることもある。

雇用が拡大し続けているうえ、住宅着工が好調ということは、早晩、景気回復につながりそうだが、大きな課題がある。消費だ。

足元の消費が急速に悪化しているのだ。日本百貨店協会が10月20日に発表した今年9月の全国百貨店売上高は4233億円と、店舗数調整後の前年同月比で5.0%減となり、7ヵ月連続のマイナスとなった。

前年同月比で5%減という数字はかなり深刻だ。中国人観光客の「爆買い」が一服したことが背景にあるのは確かだが、本質的に国内消費が冷え込んでいると考えていい。

消費が振るわない最大の理由は、可処分所得が増えていないため。むしろ社会保険料負担などの増加で、家計の可処分所得が減っていることから、消費の減退につながっている。日本のGDPの6割は消費によって支えられており、いくら雇用が増えていると言っても、消費におカネが向かわなければ景気は良くならない。

そんな中で、安倍内閣は、企業に対して賃上げを行うよう働きかけている。円安などによって企業が潤った分を社員に還元せよというわけだが、この政策自体は正しい。可処分所得を増やす政策を取らない限り、景気底割れのリスクを回避できない。

もちろん、住宅着工が高水準を維持していることで、早晩、消費におカネが向かってくるという見方もある。住宅を購入したり、新築すれば、それに付随して家電製品や家具、内装品といった消費に結びつくからだ。今年春から着工が本格化しているので、早ければ年末ぐらいからその効果が表れると期待される。

果たして、景気は年末から底入れし始めるのか。政府は個人消費を喚起する施策を積極的に採るタイミングだろう。