【高論卓説】付け焼き刃の外国人受け入れ拡大

産経新聞社が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」のコラムに11月24日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/econome/news/161124/ecd1611240500001-n1.htm


■生活者の視点で日本型「移民政策」を

 全国各地で深刻化する人手不足に対応して、政府は外国人労働者の受け入れ拡大を進める。技能実習制度適正化法案など関係法令が今国会で成立し、来年から新制度が始まる。法改正では、現在最長3年となっている技能実習期間を、優良な受け入れ先について最長5年に延長することや、在留資格に「介護」を新設する。一方で、外国人技能実習生の受け入れ先に対する監督を強化する。

 技能実習は国際協力の一環として、日本で技術を習得し、母国にそれを持ち帰ることを目的としている。もっとも、それは建前で、多くの場合、出稼ぎ目的の就労の受け皿になっている。受け入れ側も人手不足を賄うための便法として活用しているケースが圧倒的。しかも、実習期間が限られているため、本気で技術を教え込もうとせず、単純労働に使っている場合が少なくない。

 技能実習生の外国人の中には、より高い給与を求めて実習先から「出奔」する例が後を絶たない一方、受け入れ側も逃げられないようにパスポートを取り上げるといった人権侵害行為に走る例もある。人手不足を補う労働力という本音と、技能実習という建前が、真正面からぶつかり合っているのがこの制度だ。

 人手不足が深刻な現場からは就労目的での外国人の受け入れを求める声が上がっている。日本の大学を卒業するなど「高度人材」は日本での就職先があれば在留が認められるが、いわゆる単純労働者は就労目的での在留は認められていない。2020年の東京五輪に向けて労働力不足が深刻な「建設・造船」分野は、緊急特例として技能実習期間終了後の在留延長がすでに認められている。今回の法改正でこれに「介護」が加わるが、今後も「農業人材」や「漁業人材」といった具合に対象が広がっていく可能性が大きい。それほど、各地での働き手が不足しているのだ。

 今回の改正法では、違法な低賃金で実習生を長時間働かせている場合など、受け入れ先企業への監督を強化する。このため、認可法人として「外国人技能実習機構」を新設。実習計画を提出させ、認定を与えた上で「実習生」を受け入れる仕組みにする。あくまでも「技能実習」制度の枠組みの中で、外国人労働者を受け入れるというのが政府の姿勢なのだ。

 というのも、安倍晋三首相が「いわゆる移民政策は取らない」という方針を示しているためだ。欧米諸国では「移民」の定義は1年以上居住する外国人を指すため、安倍首相の言う「移民政策」が何を指すかは厳密には分からないが、基本的に労働力としてのみ受け入れて、日本に生活目的で住むことは許さないということなのだろう。

 だが、現実にはそれは難しい。労働者であっても日本に住めば生活者であり、地域社会の一員である。とくに技能実習期間が5年となれば、より生活者として日本に定着する外国人が増えるだろう。人口減少が鮮明になってくる中で、こうした外国人を追い返し続けることは現実には不可能である。放っておけば、なし崩し的に日本に住み続ける外国人が増えることになる。

 それよりもむしろ、(1)外国人に日本社会の一翼を担う存在となってもらうにはどういう仕組みが必要か(2)日本語教育は誰の責任で行うのか(3)地域社会への参加をどう促していくのか−−などを考えることが重要だ。積極的に日本型「移民政策」のあり方を考えるときだろう。