人手不足が慢性化し、働き方が激変する年になる 自ら積極的に動けば有利な転職も可能に

日経ビジネスオンラインに1月1日にアップされた【お正月企画】『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/122700031/?P=1

「失業率」は先進国中でも最低水準

 年末の27日に総務省が発表した2016年11月分の労働力調査によると、雇用者数が5758万人と前の年の同じ月に比べて82万人、率にして1.4%増え、47カ月連続の増加となった。47カ月というのは第2次安倍晋三内閣が発足してアベノミクスが始った2013年1月以来ずっと、ということだ。完全失業率は3.1%と、先進国の中でも例をみない率まで低下しており、事実上完全雇用と言ってよい状態になっている。

「人手不足」はバブル期以来の高水準

 人手不足は深刻で、求職者1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は11月に1.41倍を記録。バブル期の1991年7月以来、25年4カ月ぶりの高水準となった。

 2017年もこの人手不足が一段と深刻化するのは間違いない。団塊の世代労働市場から退出していく一方で、少子化によって新たに労働市場に参入してくる若者は減っていく。女性や高齢者の活用を声高に叫んでみたところで、早晩、限界がやってくる。

「働き方」を変えなければ、会社も社員ももたない

 そんな世界的に例をみないほどの人手不足が、日本人の働き方を根本から変える──。今年はその大きな転換点の年になるだろう。

 昨年は電通過労自殺が大きな社会問題になったが、人手不足によって多くの会社で「今まで通りの働き方」では社員がもたないギリギリのところまで来ている。「失われた20年」の間に社員数を絞りに絞ったところへ、景気が底入れし、仕事が増えたのだから社員はたまらない。

 オリンピックに向けて、今後景気が過熱すれば、人手不足による忙しさは今の比ではなくなる。安倍首相は「働き方改革こそが今後3年間の最大のチャレンジ」だと繰り返し述べているが、安倍首相に言われるまでもなく、「働き方」を変えなければ、会社も社員ももたないのだ。

自ら動いたら「大吉」

 そんな中、おみくじで占うなら「自ら動いたら大吉」だろう。企業は慢性的な人手不足に加え、将来にわたって人材を確保できる展望が描けないことから、新卒一括採用だけでは足らず、中途採用の拡大を一層進めていくことになる。優秀な社員ほど、自ら積極的に動けば有利な転職ができる。そんな年になりそうだ。もちろん、猛烈に残業させられる伝統的な働き方の企業からは、どんどん人が逃げ出すことになる。

 一方、企業経営者も優秀な人材を集めようと思えば、待遇を改善しなければ難しい。今いる優秀な社員をつなぎとめるにも、処遇改善は不可欠だ。もちろん限られた人材の獲得合戦なので、同じ業界なら早く経営者が動いた企業が「勝ち」だ。

 ただ給料を引き上げるだけでは人件費が増えるだけで、経営にはマイナスになってしまう。考える経営者ならば、無駄な仕事を省き、収益性の高い事業へ人材を集中させることで、利益を上げようとするだろう。つまり、根本的に働き方を変える方向へと動き始めるのだ。

今年は「人手不足倒産」が増える

 こうした環境の中で、「自ら動かなかった」場合には結果は真逆になる。「凶」である。

 働き方を変えずに放置した結果、優秀な人材が勤務時間の長さに辟易して他社へ転職したとする。そうなれば、当然、残った人の負担は増え、ますます残業時間が長くなる。ある一点を超えた段階で、続々と人が辞め、その会社の事業が滞ることになる。実際に、大手から中堅中小まで、こうした事態が静かに進行している。体力のない企業では、今年は「人手不足倒産」が増えることになるだろう。

 働く社員の立場からみても同じ事が言える。さっさと見限らなかったために、仕事がさらに厳しくなり、ストレスも溜まる。多少残業代が増えたとしても、満足度は上がらないだろう。

 このタイミングで自殺者を出した電通のイメージ悪化は深刻だ。働き方を抜本的に変えた姿をアピールしないと、長期にわたって優秀な人材を集めることができなくなるに違いない。ほとぼりがさめれば人気企業に戻れるなどと思っていたら取り返しのつかないことになるだろう。

ROE経営」が再び注目される

 働き方を根本から変えるという決断を経営者が下した場合、企業経営のあり方も根本から変わる。利益率の高い事業に特化し、不採算事業や競合他社の多い事業は売却したり廃止したりする。欧米では当たり前に行われている経営スタイルだ。株主資本に対する利益率をみる「ROE経営」などが再び注目されることになる。

 実は安倍内閣アベノミクスの柱のひとつとしてコーポレートガバナンスの強化を進めてきた。その目的は「日本企業に稼ぐ力を取り戻させる」ことで、ROEを欧米企業並みに引き上げるとしていた。働き方改革を実現するには、もっと企業に儲ける経営をしてもらわなければならない。その点で、安倍内閣が掲げる「ガバナンス改革」と「働き方改革」の方向性は整合的なのだ。

同一労働同一賃金」は働き方改革の入り口に過ぎない

 政府が旗を振る「同一労働同一賃金」や「最低賃金の引き上げ」などは働き方改革の入り口の政策に過ぎない。最終的には効率的に働く社員に欧米企業並みの高給が払えるような、きっちり儲ける働き方を実践できるような制度整備や企業経営のあり方が問われることになる。