カジノ解禁を日本経済にプラスとするには 資金洗浄対策などの新ノウハウが必要

月刊エルネオス1月号(1月1日発売)に掲載された原稿です。http://www.elneos.co.jp/


十年以上にわたる論議に決着
 カジノの解禁に向けた統合型リゾート(IR)推進法案が十二月十五日、衆院本会議で可決され、成立した。カジノの解禁は外国人観光客誘致の起爆剤になるとして長年要望され続けてきたもので、二〇〇二年には自民党議員連盟を結成、法改正などを議論してきた。旧民主党も〇八年にプロジェクトチームを作り、民主党政権下の一〇年には超党派の「国際観光産業振興議員連盟」を発足させた。
 安倍晋三内閣が発足すると、カジノ解禁への期待が高まった。海外でカジノを営む大手企業が日本市場参入に強い関心を示し、積極的に日本政府に解禁を働きかけたことも前進した理由。一五年四月には自民党日本維新の会(当時)、生活の党(当時)が、議員立法の形でIR推進法案を衆議院に提出した。
 十年以上にわたる解禁論議に決着が付いたわけだが、これですぐにカジノが開業できるわけではない。政府が一年以内に、規制や依存症対策などの具体的な制度設計を盛り込んだ「IR実施法案」を国会に提出する必要がある。実際にどの地域にどんな形のカジノ建設を認めるのか、具体的に決めなければならない。
 海外の大手カジノ会社が日本市場に期待するのは、日本が世界的なギャンブル大国と見なされているため。カジノを「ゲーミング」と称する欧米企業からみれば、パチンコやパチスロなどの「遊戯」は、もちろんこの範疇に入る。景品交換所を介した換金が黙認されているなど、事実上の賭博が街中で認められている。それだけに、欧米型の本格的なカジノが認められた場合、潜在的に顧客になる分厚い層が存在すると判断しているわけだ。
 日本の議論では、カジノ解禁が訪日外国人、いわゆるインバウンド旅行者の大幅な増加につながるとされている。カジノを中心にさまざまなエンターテインメント施設を併設した統合型の大リゾートが、観光客を世界中から引き寄せるというのだ。一〇年にオープンしたシンガポールのマリーナベイ・サンズ(写真)はその典型で、成功例とされる。
 マリーナベイ・サンズは米国のカジノリゾート運営会社であるラスベガス・サンズが開発したもので、世界最大級のカジノを中心に、大型のホテルやショッピングモール、国際会議ができるコンベンションセンター、劇場、美術館などを備えている。

カジノ単独では観光客は来ない
 では、日本でも大型IRが建設された場合、経済効果は大きいのだろうか。
 IRの最大の特徴は、カジノからの収入によって他の施設の経営が安定させられること。ギャンブルは圧倒的に利益率が高いため、大型のインフラを維持するコストを吸収することができる。また、ホテル単独やコンベンションセンター単独では経営が成り立たない場合でもその組み合わせによって収益を確保できる。観光シーズン以外で滞在客が少ない時期に、コンベンションセンターに大型国際会議を誘致すれば、ホテルの稼働率を維持できる。また、カジノには季節性がないため、繁忙期以外に観光客を呼ぶ武器になる。
 最近のIR業界では、収入に占めるカジノの割合が小さくなっているのも一つの流れだ。かつては圧倒的にカジノ収入に依存していたラスベガスでは、最近では演劇やショー、ボクシング興行といったエンターテインメントからの収入割合が増えている。また、夏季休暇シーズンなどは家族連れを積極的に誘致している。一方、オフシーズンには、企業の研修や国際会議も多く開かれている。
 では、カジノ自体はどうか。日本の法案推進者が主張してきたように、本当にカジノ目当ての観光客が日本に押し寄せるのだろうか。
 これはやや疑問だ。すでにマカオシンガポール、韓国などカジノの先進地域がある。いずれも主なターゲットは賭博好きの中国人だ。すでに日本にも中国人観光客が大量に来ているが、カジノが日本にできたからといって、カジノだけを目的に日本にやって来ることはないだろう。日本観光のついでにカジノを楽しむという形が一般的になるはずだ。

課題はマネーロンダリング対策
 一方、日本人はどうか。今回の法案審議では、カジノ依存症に対する懸念が強く表明された。確かにカジノにはまる人たちは米国などにも存在する。そうした依存患者を生まないための取り組みや更生の援助などを整備しなければならない。
 もっとも、カジノへの入場料を宿泊者はタダにする一方で、外来者は高く設定するなど、日本に居住する人たちがカジノに出入りしにくい態勢をつくれば、日本での問題を生まずにカジノを営業できる。ただ、それでは日本人をターゲットにしたカジノ業者は日本進出を躊躇するだろう。今後、詳細が詰められるIR実施法案の中味次第だ。もちろん、自由に日本人が出入りできるような幅広な実施法案となれば、もともとカジノには難色を示している公明党などが反対する可能性もある。
 もう一つ、マネーロンダリング対策が大きな課題だ。中国国内でカジノを行う中国人観光客の中には、カジノを通じで「資金の素性」を消し、それを海外に貯蓄しようという動きがある。カジノでは現金の代わりにカジノチップと呼ばれるコイン型の札を使うが、それを手渡しすることで人と人の間での資金移動が簡単にできてしまう。ラスベガスなどではこうした水面下での不当な資金移動に目を光らせるために、いたるところに監視カメラを設置するなど、不正対策を徹底している。一定金額以上を換金する際には、パスポートによる本人確認なども行っている。
 カジノは一種の金融仲介機能を持つので、米国では財務省など金融当局が監視の目を光らせているのだ。はたして日本でカジノが解禁された場合、日本の当局はきちんと監視を行い、不正取引やマネーロンダリングを防ぐことができるのか。
 今後、カジノ実施法を作るに当たっては、さまざまな意見が噴出するに違いない。ただ、二〇年のオリンピックまでは良いとして、その先の日本の観光を担う目玉は乏しい。その担い手として、カジノへの期待が一段と高まる可能性は十分にある。