「働き方」を真っ先に変えた企業が「勝つ」 超人手不足時代に問われる経営

月刊エルネオス2月号(2月1日発売)に掲載された原稿です。http://www.elneos.co.jp/


三が日休業検討の三越伊勢丹

三越伊勢丹、三が日休業検討 二〇一八年から、従業員に配慮」──。一七年は年初からそんなニュースが駆けめぐった。三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長(写真)が、一月三日の「朝日新聞」のインタビューの中で語ったもので、瞬く間に他のメディアも追随、高い関心を呼んだ。
 百貨店業界では一月二日から「初売り」を行うところが多く、中には元旦から店を開く百貨店もある。そんな中で三越伊勢丹は一六年から一部店舗を除いて二日を休みにして三日からの営業とした。
 これについて聞かれた大西社長はインタビューでこう答えている。
「正月(の休み)については、取引先の方から喜んでいただいている。地方の方はお正月に(地元へ)帰れるので喜ばれている」
 従業員だけでなく、出入りの取引先なども歓迎しているというのだ。そのうえで、こう語っている。
「働いている人が最高の状況で、最高の環境で働くことで、お客さまに最高のおもてなしができる。一八年は(正月は)三日まで休めれば一番いいんじゃないかと思う。(業績を)下方修正したので、営業したほうがいいという意見があるのは事実だが、逆戻りはしない。(正月三が日を休むのが)最後のあるべき姿だ」
 こうした三越伊勢丹の姿勢に、世の中の多くは好意的な反応だった。だが、大西社長も言うように、業績が厳しい中で営業日数を減らせば、自らの首を絞めることになるのではないか。果たして、業績を注視する株式市場はどう反応するのか。翌一月四日の株式市場での反応が注目された。

「超人手不足時代」の雇用

 一月四日の三越伊勢丹ホールディングスの株価終値は一千三百三十二円。前年末比七十二円高という大幅高になった。翌五日も上昇、一時、一千三百八十円の戻り高値を付けた。相場全体が上昇したこともあり、年初の株価だけで判断はできないが、少なくとも「三が日を休む」というニュースが売り材料にはならなかったのだ。むしろ株式市場でも好意的に受け止められたとみていいだろう。
 もちろん、本当に三が日を休業した場合、業績にどんな影響が出るかなど、今後、会社自身や、証券アナリストなどが分析するに違いない。営業日数が減ればその分、売り上げが落ちるというのが百貨店業界の「常識」だが、本当にそうなるのか。大西社長が言う「最高のおもてなし」で他の百貨店と差別化できるとすれば、一日の休みは穴埋めできるのではないか。そんな議論が展開されるはずだ。
 だが、一つだけ間違いないことは、今の人手不足は今後ますます深刻化するということである。少子化の影響で若手の働き手の総数自体が減る。総務省が昨年末の十二月二十七日に発表した一六年十一月分の労働力調査によると、雇用者数が五千七百五十八万人と前の年の同じ月に比べて八十二万人、率にして一・四%増えた。何と四十七カ月連続の増加である。第二次安倍晋三内閣が発足してアベノミクスが始まった一三年一月以来ずっと増え続けているのだ。
 一方で、働く世代の人口は減り始めているので、完全失業率は低下、十一月は三・一%だった。失業率三%というのは、事実上の完全雇用状態と言ってよく、先進国の中でも例をみない低さである。
 企業に雇用される人が増え続けているにもかかわらず、「人手不足」は解消しない。求職者一人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は十一月に一・四一倍を記録。一九九一年七月以来の高水準となった。バブル期並みの水準なのである。政府は女性や高齢者の活用に旗を振っているが、それでも足らない。外食産業や小売り業の一部では、人手が確保できないために営業時間を短縮し、店舗を閉鎖するところまで出始めている。
「超人手不足時代」にどう備えるか──これが今後の日本企業の経営者にとって最大の課題になるのは間違いない。もともと経済はヒト・モノ・カネで成り立っている。その一つであるヒト、つまり優秀な人材が確保できなければ、企業の成長は覚束ない。

生き残りのための働き方改革

 安倍首相は「今後三年間の最大のチャレンジ」として「働き方改革」を掲げている。政府が音頭を取らずとも、深刻な人手不足によって、今後、「働き手が企業を選ぶ」時代になるだろう。
 従業員に不本意長時間労働を強いているような企業からは潮が引くように優秀な人材が去っていく。人が辞める企業ではその分、残った人に負荷がかかることになりかねない。つまり、ブラック企業はどんどんブラック度が増していくことになる。人手不足が限界にくれば、そもそもの営業に支障をきたし、売り上げを稼ぐことすら難しくなる。
 一方で、ライフスタイルに合った働き方ができる点をアピールするような企業には、優秀な人材が集まるようになっている。今や共働きが当たり前で、子供が生まれれば両親が交互に育休をとったり、時間短縮で働いたりするのが普通になる。そうなると、企業自体も仕事の仕方を見直さざるをえなくなる。
 自由な働き方を許して人材を集めても、それで生産性が落ちてしまっては元も子もない。企業自らが仕事のやり方を根本的に見直すことが不可欠になるわけだ。在宅勤務やテレワークなど「いつでもどこでも」働ける仕事の仕組みに変えていかなければならない。
 会議室に一堂に会して長時間にわたって議論したり、仕事があってもなくても席に座っていなければならないといった旧来型の仕事風景は、今後急速に姿を消していくだろう。そうしなければ、企業自身が生き残っていけないからだ。
 日本企業は欧米企業に比べて生産性が低いとされる。長時間労働にもかかわらず、生み出している利益は小さいのだ。そうした無駄を徹底的に排除するなど、働き方改革に本腰を入れる会社は、今後、生産性が上がっていくことになるだろう。つまり、今後の日本で「勝ち組」になる企業は、まっ先に「働き方改革」に取り組む企業ということになる。