「万年野党」が前臨時国会の「三ツ星議員」発表 野党はなぜ「対抗軸」になれないのか

日経ビジネスオンラインに2月3日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/020200041/


質問数や議員立法の提案回数などを基に国会議員を格付け

 NPO法人万年野党(田原総一朗会長、宮内義彦理事長)が1日、恒例の「三ツ星国会議員」を発表した。国会毎に国会議員の活動を評価し格付けしているもので、今回は2016年9月26日に召集され同年12月17日に閉幕した臨時国会(192国会)が対象。衆議院議員13人、参議院3人の「三ツ星議員」に加え、衆参で5人の議員を「特別表彰」とした。


衆議院議員参議院議員合わせて16人選ばれた「三ツ星議員」のうちの1人、民主党長妻昭議員。

NPO法人万年野党が「三ツ星」と評価した16人の国会議員(衆議院議員および参議院議員)。



「191.192国会版 国会議員三ツ星データブック」(NPO法人万年野党 編)より。以下同。


決して議論が活発に行われた国会ではなかった

 「三ツ星議員」の選定基準は国会での活動を定量的に評価したもので、「質問回数」「質問時間(衆院のみ)」「議員立法提案件数」「質問主意書提出件数」の上位者に★を付けている。与党議員は大臣や各委員会の委員長を務めて質問しないケースも多いため、役職者にも★1つを付与。今回は、各評価項目のトップや政党内での質問トップにも追加で★1つを与えた。

 昨年9月から12月まで開かれた秋の臨時国会(192国会)の会期は83日間。1月から6月まで開いた通常国会(190国会)は150日間だったので半分強の日数だった(なお、第24回参議院議員通常選挙の結果を受け、参議院の議長・副議長の選挙などが行われた「191国会」は昨年8月1日から8月3日までの3日間)。

 臨時国会での衆議院の質問時間総計は2万3621分(393時間41分)と、通常国会の4万7238分(787時間18分)のほぼ半分で、ほぼ通常国会並みの質問量だったことになる。もっとも、通常国会自体、サミットや参議院選挙を控えて質問が低調だった国会で、その流れを引き継ぎ、決して議論が活発に行われた国会ではなかった。

野党の存在感の大きい参議院の方が、議論が活発化

 参議院選挙で民進党などの野党が「阻止する」とした、憲法改正の発議が必要な「3分の2は取らせない」との方針は、参院選で打ち砕かれ、数の上では「改憲勢力」に3分の2を許した。ところが安倍内閣臨時国会で積極的に憲法改正論議に踏み出すことは避け、憲法審査会での議論に委ねる姿勢を貫いた。予算委員会などで、憲法改正に関する安倍首相の姿勢を問う質問も、野党側から繰り返し出されたが、安倍首相は国会での議論に委ねるとして具体的な改正点などに言及することを避けた。参院選を受けて憲法改正が争点になるとみた左派野党の思惑が外れる結果になったことも、質問時間が伸びなかった一因だった。

 一方、参議院の質問回数は総計803回に及んだ。衆議院の質問回数が926回だったことを考えると、議員定数が圧倒的に少ない参議院の方が相対的に活発な議論が行われた格好になる。会期が2倍近かった通常国会での参議院の質問が1354回だったことを見ても、192国会の参議院の質問は多かったとみていい。参院選では自民党などが善戦したとはいえ、圧倒的な多数を握る衆議院に比べれば、野党の存在感も大きいため、議論が活発化したと見ることもできる。




民進党議員立法の提案が激減

 臨時国会では、「議員立法」の提案件数に大きな変化が出た。民進党が誕生した190国会では、「批判だけでなく対案を出す党」を標ぼうした民進党が議員59人によるのべ268回の議員立法提案を行ったが、192国会ではこれが激減。18議員によるのべ20回の議員立法提案にとどまった。190国会では民進党と共闘を組んだ共産党も、のべ20回、議員立法を提案したが、192国会ではわずか2回だった。これにより衆議院全体の議員立法提案数はのべ43回と低調に終わった。

 一方、参議院では大きな変化が起きた。議員立法を提案するには衆議院で20人、参議院で10人の「賛成者」が必要になる。7月の参議院選挙を経て12人の勢力を確保した日本維新の会が、「100本の議員立法を出す」方針を決めた。実際、臨時国会の会期中に101本の議員立法を提出し、11人の議員がのべ203回の提案を行う形となった。この結果、参議院議員立法はのべ235回となり、190国会ののべ67回から急増した。



質問主意書については、民進党議員の提出が目立った

 質問主意書は、衆議院参議院ともに民進党議員の提出が目立ったが、共産や維新など、その他の野党の提出がほとんどなかった。参議院で積極的に議員立法を提案した維新も、質問主意書は活用しなかった。自民党公明党は、政権与党であるとの立場から、政府に対する質問である質問主意書の提出は行わないことを申し合わせている。



議員立法を出しまくった維新の行動には批判も

 議員立法を出しまくった維新の行動には批判もある。通る見込みのない立法を提案するのは無駄だ、というものだ。だが、数年前まで国会に出される法案の大半は「閣法」と呼ばれる内閣提出の法案ばかりで、議員立法の提案は極めてまれだった。内閣提出といっても閣僚が法案を作るわけではなく、霞が関の官僚たちが作るわけで、国会議員はそれにお墨付きを与えるだけの存在になっていた。

 議員立法を提案するには国会議員自身が政策を勉強し、立法手続きに通じる必要がある。国会議員数名の連名で提案することが多いが、それを審議するかどうかは議院運営委員会で各党折衝の中で決めるため、野党提案の法案は棚ざらしにされる傾向が強い。それでも、野党の政策立案能力を高めることにつながるとみられる。

 議員立法が増えたここ数年での変化は、委員長提案による法律案が可決されるケースが出て来ていること。与野党の立法提案を歩み寄らせたうえで、委員長が提案する形を取る。これも議員立法に分類される。


カジノを解禁する「統合リゾート法案」も議員立法で成立

 つまり、野党が対案を出し、それに与党が乗って修正作業を経ることで、法律を成立させるような例が出てきたのだ。前臨時国会で成立したカジノを解禁する「統合リゾート法案」も議員立法で成立した法律だ。

 1日の万年野党の総会には「三ツ星」に選ばれた議員が表彰式に集まったが、そのうちの長妻昭井坂信彦、東徹、浅田均、木下智彦の各議員が残り、パネルディスカッションを行った。ジャーナリストの田原総一朗氏の司会で、オリックスのシニアチェアマンである宮内義彦氏と作家で元経済企画庁長官の堺屋太一氏も議論に加わった。


2月1日に開催された「万年野党」の総会には、「三ツ星」に選ばれた議員のうち、長妻昭井坂信彦、東徹、浅田均、木下智彦の各議員が残り、パネルディスカッションを行った。ジャーナリストの田原総一朗氏の司会で、オリックスのシニアチェアマンである宮内義彦氏や、作家で元経済企画庁長官の堺屋太一氏も議論に加わった。


自民党とは明確に違いが分かる政策、ビジョンを打ち出すべきだ

 米国のトランプ大統領の評価などから議論を始めたが、田原氏の関心事はもっぱら「なぜ野党は安倍内閣に4回も連続で選挙に負けるのか」というもの。堺屋氏からも「ひと言で言って野党が不甲斐ない」といった厳しい指摘が出た。

 宮内氏からは「野党が対抗軸を作れていないのではないか」という指摘があった。自民党政治の延長線上で争っていては、自民党が優位になるのは当たり前、自民党とは明確に違いが分かる政策、ビジョンを打ち出すべきだ、というわけだ。また、民進党の支持母体である連合は、労働者の17%しか代表していない正社員の既得権を守る存在で、民進党が改革政党になりきれない一因だという指摘もあった。

健全な「対抗軸」は絶対に必要

 これに対して民進党の長妻氏は「自民党との体質の違いを徐々に国民に分かってもらえるよう訴えていく」といった発言が出ていた。維新の浅田氏は「決して対抗軸が作れていないとは思っていない」と発言していた。議員立法によって対案を積極的に出すことで、自民党とは違った政策を担う政党としての存在感を示そうとしていることが背景にあるのは明らかだったが、田原氏からは「維新は(野党なのか与党なのか)立ち位置がはっきりしない」という指摘が出ていた。

 安倍内閣は政権発足から4年を過ぎたが、依然として高い内閣支持率を保っている。国民の目からみれば、政権交代を託せる信頼感のある「野党」が出てきていないということだろう。かといって政権が長期化すれば、いずれ「緩み」や「腐敗」が生じることになりかねない。健全な「対抗軸」が必要であることは間違いない。果たして日本の野党はどうやって対抗軸を打ち立てていくことになるのだろうか。