嗚呼、ニッポンの人手不足はここまで深刻になっていた! 「人手不足倒産」が起こる可能性も…

現代ビジネスに4月26日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51580

正社員が増えている

人手不足が深刻化する中で、契約社員やパートよりも「正社員」を雇おうとする動きが強まって来た。

総務省労働力調査によると、「雇用者数」は2013年1月から今年2月まで50カ月連続で対前年同期比での増加が続いているが、昨年10月から「正規雇用」の伸びが5カ月連続で「非正規雇用」の増減率を上回った。非正規雇用から正規雇用へという流れが鮮明になってきた格好だ。

2月の正規雇用者数は3397万人と前年同月比1.5%増加、これに対して非正規雇用は2005万人と0.5%の減少となった。非正規雇用者数が減ったのは2015年11月のマイナス0.1%以来15カ月ぶり。契約社員が16万人減、嘱託が5万人減となり、パートや派遣社員も各2万人減った。一方、アルバイトは8万人増えた。

正規雇用の中でも、男性の契約社員の減少が目立った一方で、常用雇用者で「無期の契約」の増加が目立った。統計を見る限り、有期の契約社員を無期の正社員に変える動きが強まっていることを示している。

企業が「正社員」の雇用にウエートをかけはじめている背景には、人手不足が一段と深刻化していることがある。

2月の完全失業率は2.8%と1月の3.0%から0.2ポイントも低下。1994年6月の2.8%以来、22年8カ月ぶりの低水準になった。少子化による若者の人口減少が鮮明になっている。

「これまで派遣や契約社員でも20代、30代の女性の採用が主だったが、最近は40代、50代の女性を紹介されるケースが増えた」と東京・大手町に本社を置く大手企業の人事担当者は言う。

仕事を早く覚えてもらうには若い人材が好ましいというが、なかなか非正規では採用が難しく、正社員の採用を増やしている、という。

今後も少子化による新卒者の減少が見込まれるほか、2020年の東京オリンピックを控えて、企業の採用数はさらに増えるとみられる。長期にわたって働いてもらえる正社員採用にシフトすることで、人手不足を切り抜けようとしているわけだ。

「時給1300円」

また、非正規雇用の「時給」が急速に上昇していることも背景にありそうだ。毎年引き上げられてきた最低賃金によって、アルバイトやパートの時給が大幅に上昇。その影響で、派遣社員の時給も上昇している。

派遣会社に支払う分も含めると、以前に比べて正社員との給与格差が小さくなっている。また、「同一労働同一賃金」のガイドラインを政府が出すなど、今後も非正規社員の急用上昇が続く見通しになっていることも、正社員シフトに拍車をかけている。

東京都の最低賃金は昨年秋から時給932円。2012年秋は850円だったので、4年で82円、率にして9.6%も引き上げられた。人手不足が深刻化していることで、実際には都心では時給1000円を大きく超えるケースが増えている。

学生アルバイトの定番だったマクドナルドでも都心部では「1000円以上」が当たり前になり、深夜はさらに25%増しなどとなっている。

東急電鉄が朝の駅の整理要員として「時給1300円」の募集を出していた。朝2時間の特殊勤務とはいえ、授業が始まる前の時間帯を有効活用できる大学生を狙っている。バイトやパートの時給上昇は当然ながら、契約社員派遣社員の給与引き上げに結びつく。

雇用者数は2013年1月の5502万人から今年1月の5793万人へと4年間で290万人増加した。当初は団塊の世代が定年退職後に嘱託社員として再雇用されるケースも多く、正規雇用が減って、非正規雇用が増える傾向が強かった。2013年に1823万人だった非正規雇用は2000万人を突破した。

ところが、2015年1月ごろから正規雇用の増加率が非正規の増加率を上回る月が出始めた。それでも、昨年夏までは正規が非正規の伸びを上回ったのは2カ月連続が最長だったが、ここへ来て、5カ月連続で上回り、どうみても「非正規よりも正規」の流れが鮮明になってきたわけだ。

今後もおそらくこの傾向が続くだろう。特に飲食店や小売店、ホテル、運輸などの業界は、人手が足らなければ、事業を行うことができない。人手を確保できなければ「閉店」したり、お客を断ったりしなければならないのだ。

ヤマト運輸が宅配便を27年ぶりに値上げする方針を固めたと報じられたが、人手不足で宅配の指定時間を繰り上げるなどサービスの削減も行う事を表明したばかり。数年前ならば、値上げとサービスカットを同時に行うことなど考えられなかったが、値上げが通る経済環境になっている。

逆に言えば、値上げをしてでも待遇改善を行わなければ、人手の確保は難しくなっているということ。今後も様々な業界でこうした人手不足に対応するための料金引き上げが起きてくる可能性が高い。

人材を確保できないことによって事業が回らなくなる「人手不足倒産」も十分に起き得る。企業からすれば、人手を確保することが最優先事項になりつつあり、そのためには「正社員」として抱え込むことが不可欠になってきている。